第51話 蝦夷梅雨と服の乾燥(佐々木)
汗だくのお客さんが、店内に入ってくる。
ちょうどクーラーの風が来る場所を探して涼んでいる。
何か買っていくのだろうか。あるいは、たんに涼みにきただけか。
「ねえ佐々木」
「なんだ、中原」
「ジメジメしてるよねー」
「蝦夷梅雨ってやつだなー」
「北海道なんて、30度越えることなんて、昔はほとんどなかったって話しだよ」
「そうらしいな。エアコンも、普及してきたの、最近だしなー」
「まったく、日本も全体に熱帯化してるし、この北の大地もそのうちバナナとかマンゴーが取れるようになるんだよ」
「いや、植えないと獲れないし」
さっきのお客さんが、マンゴーアイスをレジに運んできた。
あたしは、さっとスキャンしてわたす。お客さんは、すぐに包装をやぶり、おいしそうにアイスを食べながら店を出て行った。
「ほら、やっぱり、熱帯といえばマンゴーなんだよ」
「だからなんでこだわるんだよ」
「その土地にあった食べ物が一番おいしくて、栄養がつくんだよ。北海道も、ついに熱帯性の果物を栽培する時代に入ってきたのかもしれないよ」
「頑張って事業展開しろよー」
はあ、と中原が一つため息をついて、ずっと前からある誰かの忘れ物と思われる団扇でパタパタ扇ぎだした。
「って中原、何してる!?」
「んー」
中原は、コンビニの制服の胸の部分の上部を引っ張って、体の中に風を送り込んでいる。
「はしたないって」
「いやー、お客さんいないし」
中原が仰ぐ風が、あたしの顔に触れる。一緒に、中原のほんのりと甘くてあたたかい匂いがやってくる。
「ちょっと、やめろって!」
「んー、どしたー佐々木ぃー。あまりにセクシーな中原ちゃんに、発情しちゃったのかぁー?」
まったく、コイツは、と思う。
こういうことをするから、すすきのでも襲われるのだ。無防備すぎる。
「まったく、そんなことして、また襲われても知らないんだからな」
「まあ、その時は、佐々木が助けてくれるからさ」
本当に、中原ときたら、と思う。
「えーと、それにしてもさ」
「今度はなんだよ」
「最近は、朝の通学だけで、すっごく暑いの」
「すごい人だからな」
「わたしは、琴似駅から円山公園駅までだからマシだけど、佐々木はどう?」
「大通駅に近づくにつれて人が多くなるぞー。大通駅では一通り人が入れ替わって、札幌駅まで結局人は多いままだからな。車内が汗臭くなって、最悪だな」
「だよねー。このジメジメの臭さは、最悪だよねー」
最近では、朝から暑い。早く夏休みになって、この通学からは解放されたい。
「それにしても、こんなに暑いのに、二年生になってから、一時間目に体育がある曜日があるんだけど、もう最悪なんだよ」
「それは、嫌だな」
「でも、わたしは、最近あることをひらめいたのだよ!」
「なんだー」
「通学中に汗をかくじゃん」
「ああ。かくな」
「汗をかわかすためには、あたためないといけない」
「乾燥機的な?」
「そう。一時間目が体育ならば、体を使ってあたためることができ、服を乾かすことができるのだよ!」
「…………。あまりの暑さに頭がおかしくなったかー」
「軽いジョークだよ」
「あまりおだつなよー」
そこに、虫取りカゴをもった子どもが何人か入ってきた。
騒がしくしゃべっている。
「おい、クーラーの効いたコンビニなんかに入るなよ」
「なんでだよ」
「走り回って体を温めた方が、すぐに服がかわくんだぞ」
「えー、うそだー」
「うそじゃないって。ストーブだって、温かかったら、すぐかわくだろ」
「それもそうだよなー」
子どもたちは、お菓子コーナーで賑やかに話し込んでいる。
「なあ、中原」
「なに、佐々木……」
「だいたい、おんなじこと言ってるけど」
「うう……。ちょっと、はんかくさかったです……」




