第47話 にわかファン?(佐々木)
「ねえ佐々木」
「なんだ中原」
「まだ釧路の疲れが残っているよ……」
「そうだなー。あたしも、今週はちょっと授業に集中できなかったなぁ」
先週は、中原と一緒に、人材交流のため、夜行バスで釧路のコンビニを往復した。
「夜に飯場のねーちゃんのおのろけメッセージのやり取りしてたし、睡眠不足にもなっちゃったよ~」
「中原、飯場さんに気に入られてたもんな~」
「どうしたぁ~? 妬いてるのかぁ~?」
中原が、このこのーという感じで、肘打ちしてくる。まったくウザイものだ。
「まあでもさ、これでようやく、日常に戻ったな」
「そうだねぇ~。ここのところ、色々と大変だったからねぇ~」
「日常と言っても、世間は騒がしいよな」
「え? 騒がしいって、どんなところ?」
「いつもと違うだろ。ほら」
あたしは、商品を物色しているお客さんを示した。
サッカーとコラボした商品をチェックしている。オマケのカードは、プレミアがついているものもあるようだ。
「ああ、そっか。ワールドカップだもんね」
「あたしの学校、男子達が教室の中でドリフトしたりゴールの真似事したりしてさ。何回かボール頭にぶつけられたぞ……」
「うげぇ。わたしの学校は、そういうのないなぁ。ただ、メキシコまで飛んでいった子はいるけど」
「さすがお嬢様学校だな……」
「ねえ佐々木、学校、楽しい?」
「ん?」
突然、中原が真剣な顔になる。
「いや、佐々木、奨学金もらうために、北十三条高校に行ってるでしょ。本当は、もっと上位の進学校行けたんじゃないかなって思って」
「ああ、そういうことか」
中原は、こういう点で、心配してくれる。
むしろ、こうした話はみんな、したがらない。家庭の事情、お金の話は、友達の間では禁句というのが、どこでも暗黙の了解のようになっていると思う。
その点、中原は、ある意味直球で聞いてくる。
もともとは、コンビニで週に一度しか逢わないあたし達だったからこその話題だ。
でも、決して興味本位ではなく、中原は本気で心配してくれていることが分かる。
「うん、けっこう楽しくやってるから、大丈夫だ」
「そっか」
中原は、複雑そうな笑みを浮かべる。
こういう、中原の性格を、あたしは気に入っている。
「中原こそ、お嬢様学校の話題についていけてるのかよ」
「まあ、わたしは持ち前のトーク力で、あることないこと」
「ないことは、ダメだろ……」
「まあ、ね。正直、飛行機もビジネスクラスとかエコノミーとか、何がどう違うのか、分からなくてさー。エコノミーなんて人権のない席には乗れないよねーなんて話されても、正直ピンとこないんだよねー」
「そうだよな。飛行機なんて、普段乗らないもんな」
「中学生の時、お父さんが大阪で仕事があったのとくっつけて、家族旅行したことがあったんだけど、LCCってやつだったよ。もう席が狭いのなんのって」
「LCCはきついっていうもんなー」
「まあでも、結局飛行機なんてあまり乗らないから、にわかで会話に入っても、ボロ出すだけだからね。難しいんだよ」
「でも、いいな、大阪」
「うん。テーマパークもお金に余裕がなくてさー。わたしとお母さんで、大阪城見て、通天閣見て、四天王寺に立ち寄ったくらいだったよー。あべのハルカスは感動したけど」
「あべのハルカス、有名だよな。感動って、どんなふうに」
「いや、だって、めちゃくちゃ高いのなんのって。札幌駅付属のタワーの比じゃないないんだよ」
「すごいな」
「うん。デパ地下も、札幌駅の比じゃなかった……。さすが、府をやめて都にしようとしているくらいだよね」
「それ、関係あるか?」
「まあ、札幌なんて、お情けで政令指定都市になってるくらいのもんなんだよ」
「お情け言うなよ」
「とにかく、大阪のあきんどはもうかりまっかーなんやねん!」
「中原、そういうところがにわかって言われるところだぞー。きっと文法も違ってるだろうし」
「そうやろかー。なんでやねん。まあでも、わたしはやっぱり、札幌が住みやすくていいなぁ。しらんけど」
「そっか……」
「うん。札幌にいたからこそ、こうして佐々木とも出逢えたんだし」
「うっ!?」
まったく、不意をつかれる。中原のこういうところだ。
「なんだぁ~佐々木~。照れてるのかぁ~」
中原がニヤニヤとしてくる。
「あー、ウザイウザイ。それで、中原はサッカー見てるのか?」
「うーん。ちょっと今回は、時間が合わなくてね~」
「そうか。中原、スポーツとか興味なかったっけ? クリスマスの時はSAIZOに熱狂してただろ」
「筋肉だらけのおじさんと、そこにある友情の物語がいいんだよ! サッカーは、うーん。あまり興味ないかなー」
「あたしには、なかなか違いが分からないけど……」
「正直、みんなよくあれだけ興奮できるよね。渋谷のスクランブル交差点とかさ」
「テレビでやってるけど、熱狂的だよな」
「でもさ、あれって、結局、試合見てないよね。暴れたいだけだよね」
「暴れる言うなって。でも、実際にそうなのかもな。すすきののバーでも、パブリックビューイングや録画観戦やってたけど、結局酒飲んで騒ぎたいだけの人が集まっている感じだし」
「え、すすきので、そんなの見てきたの?」
「ああ、いやいや、お母さんにお弁当を届けることがあってさ」
「ああ、そっか。そうだったね。お母さん、頑張っているね」
中原が、複雑そうな表情を浮かべた。
「いや、別にいいよ」
なんだか、中原に気を遣わせてしまった。
中原は、こういう職業などで人を評価するやつじゃないことは、よく分かっている。ただ、なんとも答えようがなかったのだ。
「とにかく、にわかサッカーファンは、騒ぎたいだけって話だよ」
「そうだよねー。まあ、本当のファンは、真剣に応援するもんね」
すると、さっきワールドカップとのコラボ商品を見ていたお客さんが、大量の商品を持ってレジにやってきた。大人買い、というやつだ。
「中原、手伝って……」
「う、うん」
あたしと中原が手分けして、商品をスキャンする。
お客さんは、気持ちよさそうにコンビニを後にしていった。
「あの人、にわかなのかな? 真のファンなのかな?」
「分からないけど、コンビニとしては、どっちにしても、ありがたいことには違いないんだろうな」
あたしと中原は、大量の商品を持ったお客さんの後ろ姿を眺めていた。




