第44話 クビ!?(中原)
なぜかわたしは、生徒会長、そして北海道、いや日本でも特に有名な、北海道のブランド食品を製造する大企業の令嬢とともに、リムジンに乗っている。
豊平川に架かる橋まで差し掛かると、車の後方にテレビ塔が見える。
なぜ車の後方が見えるかって? 長いリムジンの、運転席とは背中合わせの席に座っているのだ。進行方向と逆向きにすわるなんて、なかなかないことだ。
なんて、なかなかないことだ。
そういえば、炭鉱で働いていたおじいちゃんが、坑内から地上に上がる時は、後ろ向きに進む人車に乗っていたと言っていたっけ。肉体労働の疲れから、僅かに傾斜のついた人車で坑口までひと眠りだったそうだ。
いやいや、そんなことはどうだっていい。
この車の行先は、わたしがバイトをしている、月寒のコンビニ。
生徒会長を見ると、微笑みを浮かべながら、窓の外に広がる大きな豊平川を覗いている。
ふと、わたしの顔を見て、また微笑む。
わたしは、きっと戸惑った顔をしているのだろう。
どうしてこんなことになっているのか。話は一時間ほどさかのぼる……。
先週はやってしまった……
佐々木が、客の中年のババアに、容姿をバカにされた。その挙句、ゴミ袋が品不足のことにたいしてまで、佐々木のせいにされたのだ。
佐々木はどこかのスタンのつく国のお父さんを持ち、どこか外国人に見えてしまう容姿だ。目つきも、きついところがある。でも、それだけの理由で、暴言を吐かれたのだ。
わたしは、そんな佐々木が美人だと思う。いやいや、それよりも、佐々木は性格も、ぶっきらぼうを装っているが、実は素直でかわいらしい。
毎週一度だけ、コンビニのバイトでペアを組む佐々木との時間が、いとおしく感じている。それを、邪魔されたのだ。
「おい、中原、聞いているのか!!」
センコーの声でふと我に返る。
「まったく、中原はマジメだと思っていたのに。まさか、校則に違反して、アルバイトをしているとはな」
ここは、生活指導室だった。そう、ついに、校則で禁止されているバイトがバレてしまったのだ。
「いや、違反だけならまだしも、お客さんを侮辱したなんて……」
あの中年のババア、なんとバイト先と、わたしの通う円山女子高校にまで苦情を言ってきたのだ。
「これは、正直、反省文だけでは済まないぞ……こんなの、本校始まって以来。前代未聞の事件だ」
わたしは、さすがにうなだれる。
よくて、バイトは辞めさせられてしまうだろう。それに、学校は停学だろうか。いや、もしかして、退学か? 退学したら、バイトは辞める必要がなくなる。そうしたら、また佐々木とペアを組んでコンビニバイトをすることができるのだろうか? いやいや、そういう問題じゃなくて……。
生活指導のセンコーはイライラしている。
それはそうだ。この案件に、どう対処してよいのか、分からないのだ。
ここは、清楚で従順な、令嬢たちの通う、札幌ではお嬢様学校として知られた、円山女子高校なのだ。こんな事件、開学以来、なかったのだろう。
センコーはまた、はあ、と息を吐いた。
しばらく、沈黙が続く。
たしかに、今回の件は、あの中年のババアがきっかけだ。でも、わたしはわたしで、校則を破ってバイトをしていた。いよいよ、年貢の納め時がきた、というやつなのだろうか。
そこへ、
「失礼いたしますわ」
と、ドアを開けて入ってきた生徒がいる。
「えっ、生徒会長?」
びっくりした。センコーも同様のようだ。
生徒会長は、臆することもなく、わたしと先生の向き合う二つの長机の短辺のところに椅子をもってきて座った。
「コホン」
と生徒会長は咳払いして。
「話は、生徒会の方にも入りましたわ。この案件、先生方には荷が重いでしょう。生徒会で引き受けますわ」
センコーは周りをキョロキョロしているが、
「そ、そうか。わかった。この案件は生徒会長に任せる」
と言って、渡りに船とばかり、生徒会長に一任する姿勢を示してしまった。
わたしも二年生になったので、この円山女子のヒエラルキーは理解してきている。
この円山女子は、なんといってもお家柄。名だたる企業のご令嬢でも、特に名の知られた社長令嬢が絶対的な権力を持つのだ。
親ガチャなんて言葉があるけど、それもここまでいくと、清々しい。
「さて、中原さん」
生徒会長は、センコーの座っていた椅子の前までやってきた。
何も言わずにセンコーは立ち上がり、先程生徒会長が座っていた場所に移動した。
生徒会長は、センコーのいた場所に座り直し、わたしの正面でほほえんだ。
「今回の件だけれど、災難でしたわね」
「災難、でしょうか」
「疑問形、ということは、自分にも非があることを理解しているのね。話が早いですわね」
「たしかに、校則を破ったことは悪いことだったと思っています。言い訳はしません。どんな罰でも受けます」
「あら、中原さんって、そういうタイプの方でしたのね。てっきり、うまい頓智の一つや二つ披露してくれると思っていましたわ」
なんだか、バカにされた気がする。
そんな考えが顔に出てしまったのか、
「あら、ごめんなさい。決して皮肉を言ったつもりじゃないのですわ」
生徒会長は手で制して、
「それじゃあ、中原さんには、頓智合戦は無用のようですわね。わたしも、単刀直入に申し上げますわ」
わたしは、なんだか、緊張してきた。
やはり、大企業の社長令嬢ともなると、頭の回転が速い。そして、すぐさま、話を進めていく。
「一つだけ、質問させていただきますわ。中原さん、アルバイトを続けたいですの?」
「えっ?」
意外だった。アルバイトは絶対禁止、と言われるかと思った。
いや、でも、ただ好奇心から質問してきているだけかもしれない。
でも、生徒会長のような人だ。普段から、権謀術数うごめく業界で生きてきている。わたしなんかが付け焼刃で、その場逃れの体裁を整えたとしても、かなうはずがない。
「はい、続けたいです」
わたしは、正直に答えた。
「それは、なぜですの?」
生徒会長は、真剣な顔で聞いている。
なんとなくだが、この人は信用できそうな気がした。単なる好奇心で聞いているわけではなさそうなのだ。
「それは……」
そこまで言って、わたしは、自分でも分からなくなってしまった。
ここまでして、バイトを続けたいのは、なぜなのだろう。
お金のため? それもある。家の仏壇屋がピンチなのは事実だ。
最初の目的は、お金だった。
でも、今は違う。
佐々木だ。佐々木と逢いたい。佐々木と一緒にバイトをしたい。
だから、佐々木が侮辱されたことに、わたしはあれほどまでに、腹を立ててしまったのだ。
「もしかして、佐々木さんですの?」
「えっ!?」
わたしは、生徒会長から佐々木の名前が出てきたことに驚いてしまった。
ただ、わたしの驚きをよそに、生徒会長は話を進めた。
「どうやら、図星のようですわね。佐々木さん、有名ですもの。万引きをしたお方を捕まえる動画、拝見しましたわ。素敵な方ですわね……。そういうことなのでしょう?」
「…………」
わたしは、あまりに驚いて、言葉を失ってしまった。
「どうなのかしら?」
こくり、と一つだけ首を縦に動かした。
パンっと、生徒会長は一つ、手を大きくたたいた。
「決まりましたわ!!」
生徒会長は大声で言う。黙って聞いていたセンコーも驚いたようだ。
「時代に合わせて変革していくのは世の常ですわ! むしろ、変革なきところに未来なし。試される大地、北海道はボーイズビーアンビシャスのスローガンの下に進むのですわ! 社会勉強を学生のうちにしていこくことは、将来のために貴重な経験となりますわ。今日より本生徒会は、生徒のアルバイトを解禁いたしますわ。もちろん、学業に支障がない範囲で、ですけれどね」
センコーは、口をパクパクさせて、何か言おうとしていたが、
「先生、よろしいですわよね!」
生徒会長が先に言ったので、センコーは黙ってしまった。
「さあ、校則を改正しなければなりませんわね。でもその前に、中原さん」
生徒会長はわたしを見る。
「校則改正は校則改正。その前の校則違反は校則違反ですわ。きちんと罰は受けていただきますわよ」
「は、はい……」
「中原さんは、コンビニでアルバイトをしているのですわよね」
「そうです」
「それなら、2週間程、お昼休みに購買の販売のお手伝いをする、という罰にいたしましょうか。生徒が働く姿を見せれば、全校のご令嬢たちも、労働から何が得られるのかを学ぶこともできますわ」
「そ、それだけで、いいんですか?」
「あら、不服かしら?」
「い、いいえ。ありがとうございます……」
わたしは、あまりの軽い処分に、力が抜けてしまった。
最悪、退学まで覚悟したのだ。このくらいで済むなんて……。
「さあ、中原さん。学校のことはこれで終わりましたわ。次は、コンビニですわ」
「えっ? コンビニにも行くんですか?」
「もちろんですわ。生徒の所属する生徒会は、学校の中だけでなく、生徒の生活全般にも責任を持ちますわよ!」
月寒の、コンビニの前に着いた。
リムジンのドアを、運転をしてきていた執事がすぐさま外から開く。
生徒会長が降り立ち、わたしも後から続く。
「さあ中原さん、行きますわよ。準備はよくって?」
「は、はい……」
自動ドアが開く。
「いらっしゃいませ……って、中原? と……」
「あなたが、佐々木さんね。万引き犯を捕まえる動画、見ましたわよ」
「えーと……」
「わたし、円山女子高校の生徒会で会長をしております者ですわ。たいへん不躾なお願いですが、オーナー様とご面会は叶いまして?」
ただならぬ気配を感じたのか、店長が店の奥から出てくる。
「あっ、中原さん!! いま、本社とも相談していたところなんだよ。まったくお客さんにあんな態度を取るなんて。これから、ちょうど本社の部長がうちにやってくることになっているんだ。最悪、クビになっちゃうよ。この店もペナルティでマージン高く取られちゃうよ。どうしてくれるのさ! って、そっちの人は?」
店長は、生徒会長を見て、ぽかんとしている。
「今、本社の方が見えると言っていましたわね」
「そ、そうだよ。もうすぐ到着すると思うよ」
「それは、話が早いですわ」
話していると、店の前に、コンビニのイメージカラーでラッピングされた車が止まった。
「あっ、ほら、やってきた。中原さん、あの人が札幌本部の部長さんだよ。将来、代表取締役になっていく人だよ!」
部長が店に入ってくるなり、店長は、
ははぁー、と深々なお辞儀をした。
部長は、ふんぞりかえるように、店長に、
「店長。この落とし前、どうつけてくれるんだべ?」
と聞いた。
「い、いや、今回の件は中原の一存でやったことでして」
「バイトごときが、そんな権限あるはずもないべや。まったく、どんな悪ガキなんだべ」
すると、そこへ、佐々木が割って入る。
「中原は、あたしをかばってやってくれたんです。本をただせば、あたしがお客さんに文句を言われた時に、自分で注意するなりすればよかったんです。確かに、中原は言葉と態度の選び方を間違ったと思います。でも、中原は普段はきちんと仕事をこなしています」
「ああん? 関係ねーべさ。一度でも致命的なミスをしたら、それは落とし前をつけないといけないことだべ。それに、コンビニのバイトなんて、できて当たり前。きんちんと仕事をこなして当たり前なんだべ。そんなことだから、最近のわけーもんはダメなんだべ」
佐々木はムッとして、さらに言い返そうとしている。
これ以上、佐々木に迷惑はかけられない。
わたしは、一歩前に出た。
「わたしが、中原です」
「ほう、お前さんが……」
部長は、わたしを見て、威勢の良かった姿勢が少し崩れた。
「円山女子か……」
どうやら、制服を着ていることが幸いしたようだ。お嬢様学校の生徒であると見て、ビジネスのつながりのある家の娘かもしれないという計算の音が聞こえる。
「たしかに、アルバイトの身分で、いいえ、コンビニで働く者として、お客さんに歯向かったのは反省しています。でも、わたしは、一緒に働く佐々木が、嫌なことを言われて、黙っていられなかったんです!」
部長は、コホンと咳ばらいをした。
「ところで、君の家は、何をやっているのかね?」
さっきまでの偉そうな態度での北海道弁を改めて部長は聞く。
「ぶ、仏壇屋ですけど」
「仏壇……。滝野のお墓とか、株価を当てる社長のいる企業に近しい店とかの?」
「い、いえ。個人経営の小さな仏壇屋です!」
わたしは正直に言う。でも、それを聞いて、また部長は、ふっと安心したような息を吐いた。
「んなら、やっぱりだめだべ!」
部長は、わたしが小さな個人経営の仏壇屋だということが分かり、自社とはかかわりのない人物だと知るやいなや、すぐに態度を元に戻した。
「それこそ、個人経営の店は、お客様に真摯に向き合うべきでねーの? それができなきゃ、店、潰れるべ? そうだべ? ここいらで、社会の厳しさ、知っておかねーとならんべさ。もう、クビしかねーべさ。クビだべ、クビ」
そっか、ついに、クビか……。
「中原がクビなら、あたしも辞めます!!」
横で、佐々木が大声を上げた。
「佐々木!?」
「あたし、このコンビニで、色んな人に、嫌なこと言われました。この容姿だから仕方ないって思って、ちょっといじけていたところがありました。でも、中原が、それではダメだって気づかせてくれました。あたしには、中原が必要なんです」
「あん? アルバイトは友達ごっこじゃねーべさ」
「はい。だから、それを認めてくれない以上、あたしは辞めます」
「佐々木! ダメだよ。家計、苦しいんでしょ?」
「ううん。バイトは、別の仕事探すよ。今は幸い売り手市場だし」
「佐々木、本当にいいの?」
「ああ、いまのあたしなら、大丈夫な気がする。中原が、たくさんのこと、くれたから」
佐々木が、レジから出て、わたしの手を握って、ニコリとした。
「佐々木。そっか。もう、こわいものなし、なのかな?」
「いや、怖い物はあるけど。これからは、バイト仲間じゃなくて、ただの友達だな」
「ただの友達か……。それも、いいね」
わたしも、佐々木の手をギュッとにぎった。
なんだか、不安は吹き飛んだ。
「ああ、いいべいいべ、みんな辞めればいいべ」
部長は、手で、しっしっ、のポーズを取った。
でも、その横で、
「尊い……尊いですわー!!」
と、生徒会長が叫んだ。
そうだ、生徒会長を忘れていた。
「きみは、だれだべ!」
部長も、その存在に気づいて声を荒らげた。
部長は、中原が大企業の令嬢でもなんでもないという前例から、完全に威勢のよい姿勢で、生徒会長に挑む。
「わたしの存在なんてどうでもいいですわ。それより、部長さん。あなた、分かっていないですわね。人は城、人は石垣と言う言葉を知らないんですの? あなたなど、せいぜい今のまま部長止まりですわね」
「な、なんだべ、おめー」
部長がそう言うと、
「お嬢様、間もなく到着のようです」
車を運転してきていた執事が言った。
「そう、ありがとう」
言うか言わぬか、というところへ、さきほど部長が乗ってきたのと同じカラーの、コンビニのラッピング自動車が到着した。
中から、急いで一人の男性が下りてきた。
「しゃ、社長!!」
部長は、驚いたような、慌てたような顔をした。
「もう、いい頃合いのようですわね」
生徒会長がそう言うと、執事が、
「この社章が目に入りませぬかぁー」
と、大きな星があしらわれた、企業の社章の入った名刺を差し出した。
「こちらにおわすお方をどなたと心得まするか! 畏れ多くも先の開拓使を祖に持つ、大手道産食品グループの令嬢にあらせられるまするぞ! 一同、ご令嬢の御前でございまする。おひかえなされませーぃ」
「は、はぁーー」
と、部長と店長は、その場にひれ伏した。
「社長さん、お久しぶりですわね」
「これはご令嬢。このようなところまで御足労いただき、たいへん恐縮です」
「いいんですのよ。ただ、少々、わたしのお友達とその同僚の方が困っていたようですので、力を貸して差し上げたまでのことですわ」
「これはありがたいお言葉です」
「ところで社長さん。わたしの家では、社員こそ宝という家訓がございますの。もちろん、御社もそういう理念をお持ちということでよろしいですわよね」
「もちろんです。弊社も、社員、アルバイト、パート、派遣の皆さんにいたるまで、何にも代えがたい宝だと思っています」
「でも、身内の恥を曝すようですけれど、弊社の重役にも、残念ながら、不心得をしている方がいらっしゃるのが事実で、頭を抱えておりますの」
「いや、どこにでもそういう不埒者は現れる道理。トップに立つものは、どれだけ早く、これを見つけ、再教育できるかが勝負だと心得ています」
「さすが社長。では、この件については、どうぞ寛大なご処置を」
「心得ております。さて部長! 勝手にアルバイトの首を切るような発言をしたことは、先程ご令嬢から受けた連絡で聞いている。後でこの件については厳しく吟味する。本社に戻って謹慎していなさい!」
「は、はい……」
部長は、しおしお、としてしまっている。
「さて、中原さん。お客さんに暴言を吐いた件については、把握しています。間違いありませんね」
社長は、わたしに話しかける。
「はい……」
「たしかに、お客さんに暴言を吐いたやり方は間違っています。しかし、同僚の佐々木さんを言葉の暴力から守った姿勢は評価できます。それに、こうしたお客さんからの過剰な文句への対処法をきちんと教育してこなかったわが社にも大きな責任がある。よって、この件については不問とします。ぜひ、引き続き、わが社のコンビニでアルバイトを続けてほしいと思っています。どうですか?」
「は、はい。佐々木と一緒に仕事ができるなら」
「うん。店長も、それでいいですね」
店長は、腰が抜けてしまったようで、ガクガクと震えながら、首を縦に振った。
「それでは、わたしは諸々の処理があるので、失敬します。ご令嬢、またの機会にゆっくりとお話しをしましょう」
社長は、すぐに車に乗り込み、去っていった。
あとには、わたしと佐々木、そして生徒会長と、まだ震えが止まらずに地べたに座り込んでいる店長が残された。
「あの、生徒会長、なんだか、ありがとうございます。まだピンときていないんですけれど、佐々木とこうして仕事ができるなんて。本当にありがとうございます」
「あたしからも、お礼を言わせてください。ありがとうございます」
佐々木も、横からお礼を言った。
でも、なんだか、引っかかる。
「中原さん、何か言いたげですわね」
「はい……。正直、今回は、生徒会長の、権力みたいなものでおさまったようなものです。どうしても、チートを使って解決したようで、本当にこれで良かったのかなって……」
わたしは、佐々木を見る。
佐々木は、外国人のような外見をしている。それで、様々な苦難に遭ってきた。
それを見ていると、どうしても、人間の運による部分で解決することに、気が引ける。
「中原さんの言いたいこと、分かりますわ。だけれど、今はまず解決することが先決だと判断したんですね。もし、余計なことだったとしたら、お詫びしますわ」
「いえ、余計だなんて……」
「このことは、とっても難しい問題だと思いますの。根強い差別。権力への迎合。わたしも嫌いですわ。願わくば、一緒に、解決に向けて考えていければと思っていますわ。今は、それで納得していただければよいのですが」
わたしと佐々木は、お互いに顔を見て、
「はい、これから、よく考えたいと思います」
佐々木も、隣でうん、と一つうなずいた。
「ありがとうございます。では、このお話はこのくらいにして……。もう一つ聞きたいことがあるのですが……」
生徒会長は、モジモジしている。
「生徒会長?」
わたしは、佐々木とともに、顔を見合わせた。
「あ、あの、お二人は、付き合っておられるのですか?」
「ええっ!?」
わたしと佐々木は、二人で大声をあげてしまった。
「だってですの! 先ほど、手を握りあっていたではないですの! しかも、恋人握りになっていましたわよ!! それに、ちょっとした裏ルートから入手してしまいましたのですが、今回の中原さんが佐々木さんをお客さんから救った動画を見ると、もう尊くて尊くて。ああ、これはもう、専属の絵師に、薄い本を書いてもらわないといけないですわー!!」
生徒会長は、なんだか恥ずかしいことを叫び続けている。
「なあ、中原?」
「な、なに、佐々木?」
「いろんな意味で、中原の学校、すごい人が多いんだな」
「そ、そうでしょ……」
これからも佐々木と一緒にコンビニバイトが続けられる。
でも、その喜びは、もう少し落ち着かなければ、噛みしめられそうになさそうだ。




