第41話 道民のラーメン(佐々木)
北海道外からの観光客のように見えるお客さん達が、カップラーメンのコーナーで盛り上がっている。
「北海道のラーメンって、麺が縮れているんだろ?」
「そうらしいわよ。しかも、まっ黄色らしいわ」
「なんだよそれー。げてものフードかぁ?」
「お店とタイアップしたラーメンばかりで、よく分からないわよねー」
お客さんは他にいないので、店内に会話が響く。
「さっき、千歳の空港で、ラーメン屋が軒を並べているところいっただろ? でも、麺の固さも選べないし、こってりかあっさりかも選べない。あれ、どうかしてるよなー」
「北海道の人って、所詮田舎者だから、呪文なんて唱えられないのよきっと」
二人は、アハハハハーと笑って、カップラーメンコーナーを去り、メロンアイスを買って店を出て行った。
「ねえ、佐々木」
隣のレジに立っている中原が、むすっとしている。
「なんだ、中原……?」
「なんか、腹立つよね」
「反応は人によりけり、だろ。あまり腹を立てるなよ」
「だってぇ、ラーメンと言えば、北海道民のソウルフードどころじゃないよ。むしろ、血肉だよ」
「大きく出たな」
「それをあいつら、なめくさりやがってぇぇぇ」
「お客さんにあいつら呼ばわりするなよ」
「だってぇぇぇ」
「まあ、北海道で生まれ育った者として、確かにラーメンが大切な食べ物っていうのには同意だな」
「それに、北海道ラーメンは、店のこだわりを楽しむのがいいんだよね。麺の固さなんて、そもそも客が決めるものじゃないよ」
「ああ。こってりもあっさりも、店の特色だからな。呪文を唱えさせる時点で、負けだよな」
「そうそう。そして、北海道ラーメンといえば、なんといっても味噌の風味」
「あん?」
「えっ、何、佐々木?」
「ラーメンと言えば、醤油だろ?」
「はあ、何言ってるの? ラーメンは断然味噌でしょ。店によって違うコクを楽しむのが通だよ!」
「通ぶるなよ。この前だって、月寒のなぜか赤い小次郎の醤油ラーメン、おいしいって言ってたじゃん」
「それはおいしいけど、とにかく味噌なんだよっ! ここに縮れ麺がつけ込まれて、濃厚な風味が生まれるんだよ!」
「それなら、醤油だってそうだろ。醸造からこだわってるんだからな。醤油の歴史なめるなよ」
そこへ、自動ドアが開いた。
「いらっしゃいませ!!」
あたしと中原が同時に、大声を上げた。
「うわっ、びっくりした。二人とも、何興奮してるんですか?」
入ってきたのは、後輩の赤坂さんだ。
「あ、赤坂さん。あたしたち、ちょっと、興奮してた?」
「は、はい。あのー、それ、お客さんだったら、驚いて出て行っちゃいますよ?」
「ご、ごめん、反省するよ」
確かに、中原と一緒にラーメン談議で興奮しすぎた。これは、反省だ。
「赤坂さん、今日はシフトないよね?」
「はい、ちょっと買い物を……。それで、何を興奮してたんですか?」
「いや、聞いてよ赤坂さん。中原ったら、ラーメンと言えば味噌だっていうんだよ。ラーメンと言えば、醤油だよね」
「ちょ、ずるいよ佐々木。ラーメンは断然味噌だよ。どう、赤坂? 佐々木の肩持ちたいのは分かるけど、ここで意見を曲げるようじゃ、道民失格だよ!!」
「お二人とも……」
「えっ?」
ショートボブの赤坂さんが、珍しく、ゴゴゴゴゴと音を立てて、何か言おうとしている。
あたしは、ごくりとツバを飲み込んだ。隣で、中原も、緊張している。
「ラーメンと言えば、塩ですよ! 北海道は太平洋、日本海、そしてオホーツク海に囲まれた大きな島! そして、他県には類を見ないくらいの激しい荒波が打ち付けるんです。かつて北前船で運ばれた昆布やニシンが育つ栄養豊富な海の味を沁み込ませた塩ラーメンが究極であり至高であることは言うまでもありません! 塩ラーメン食べたことないんですか!? ラッコやトドが、口の中で舞い踊るあの奇跡のような風味を感じたことがないんですか!? ラーメンの味は塩で、議論の余地なんかないんですよ!!」
あまりに熱く赤坂さんが語るものだから、あたしも中原も、反論できなかった。
そこへ、また観光客と思われるお客さんが入ってきた。
「コンビニにもラーメン売ってるかな~。ねえ、店員さん。バターの入っているカップラーメンはどこ?」
あまりの無粋さに、あたしたちは三人そろって、
「ありません!!」
と言ってしまった。
お客さんは驚いていたが、バターの乗っかったラーメンなどは、道民の魂を売ってしまったとしか思えない、あたしたちだった。




