表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
週一度コンビニバイトで逢う二人  作者: おとさらおろち
40/45

第40話 トイレの神様のご利益?(中原)

 赤坂がコンビニの制服から着替えを終えて、事務室から出てくる。


「えーと、本当に、わたし帰ってしまっていいんですか?」


 赤坂が、しきりにトイレの方を見ている。


「いいよ、いいよ、あとはあたし達がやっておくから」


 と佐々木が言う。


「うう、佐々木先輩~、ありがとうございます~」


 次に、赤坂が私の方を向く。


「中原パイセンも、いいんですか……」


 赤坂がわたしにも声をかけてきたのは意外だった。いつもは佐々木に媚びて、わたしのことをパイセン、なんてからかっているのに。


「いいっていいって。したっけね、赤坂」


「あの、中原パイセン、ありがとうございます」


 そう言って、赤坂はお辞儀をして、コンビニを出ていった。


「赤坂さん、礼儀正しいね」


「うん。ああしていればいい子なのにね。まったく、それでもわたしのこと、パイセンとか言って」


「それだけ、中原に懐いているんだろ」


「そうなのかなぁ。絡んできているだけじゃないのかなぁ」


 そんな話も(つか)()、トイレから、


「ウォエエエェェェー」


 と、声がした。


「うっわー……」


「おい中原、お客さんなんだから、そんなこと言うなよ……」


 ようやく、青ざめた顔のおやじがトイレから出てきた。


 そのおやじは、何を買うでもなく、わたしと佐々木の立つレジの前を通り過ぎて、外へ出ていった。


 通り過ぎると、プーンと甘ったるいにおいがする。


「うっわ、酒くさっ!」


「だから、お客さんなんだから、そんなこと言うなよ」


「だってぇ~、今の人、何も買わずに出て行ったよ。ただトイレで吐いていっただけじゃん」


「今日はそうだけど、他の日に買い物してくれてるかもしれないだろ」


「それはそうだけどさぁ~」


 ただ、あとにはトイレ掃除が残っている。


 あれだけ盛大に吐くおやじだ。さぞかし汚していったに違いない。


「はあ。特別手当なんて、出ないのかなぁ……」


「そんなの出るわけないだろ。さて、じゃあ、どっちが掃除する?」


「…………じゃあ、ここは公平に、コイントスで」


「コイントスって、じゃんけんじゃないのかよ」


「いいじゃんか。わたし、じゃんけん弱いし」


「まあ、公平だからいいけど」


 わたしは、レジから10円玉を出す。


「おい、レジから勝手にお金を出すなよ」


「まあ、使ったらすぐに戻すし。じゃあ、表と裏どっち?」


「じゃあ、表」


「よし、じゃあ投げるよ」


「いやちょっと待った」


「なに?」


「中原、実は投げた後、10円って書いてある方が出たら、実はお金は数字の書いてない方が表なんですーなんて言うつもりだろ」


「いや、そんなことないし……」


「目が泳いでるぞー」


「わたしを見くびらないでほしい! そんなに卑怯じゃないよ」


「じゃあ、あたしは、平等院鳳凰堂の描いてある方で」


「わ、わかったよ。じゃあ、投げるよ」


 まったく、佐々木ときたら疑い深い。まあ、これも、佐々木なりのジョークなのだろう。


 わたしは、コインを親指でピンとはじいた。


 コインが宙をくるくる舞う。


 わたしは手の(こう)でコインを受け、すかさずもう片方の手でコインを隠した。


「どう、わたしのコイントステクニック」


「あー、うまいうまい」


「なんだよぉ、そのどうでも良さそうな反応は」


「それよりも、どっちが出たんだ」


「じゃあ、開けるよ」


 わたしは、手の甲をおおった片手をゆっくりと離した。


「…………」


「中原、ご愁傷様……」


 平等院鳳凰堂が(きら)びやかに顔をのぞかせていた。


 わたしは、ゴム手袋とマスクを着用。トイレに入った。


「うっわー……」


 想像の通り、トイレの床まで……。もう、これ以上は考えたくない……。無心だ……。




「中原、お疲れ……」


「佐々木……疲れたよぉ……」


「お、おう……」


「はあ、なんか、精神すり減った……」


「なんか、悪いな」


「いや、いいんだよ。コイントスの結果だよ。これは、トイレの神様がわたしに何か恵みを与えてくれる、啓示なのだよ」


 わたしは、ゴム手袋とマスクを捨て、入念に手を洗った。


 そこへ、お客が入ってきた。


「漏れそう漏れそう~」


 とか言って、トイレに駆け込んでいく。


「おうおう、わたしの掃除したての、さわやかなトイレを使うがいいさ」


 わたしは、はあ、とため息をついた。


 佐々木は、レジのまわりの整頓(せいとん)をしている。


「コンビニのバイトってさ、ただレジに立つだけじゃないんだよな。ゴミの処理、店の中や外の掃き掃除。そして、トイレ掃除……。やることはたくさんなのに……。みんなそんなこと考えないんだよな」


「そうだよね。辛いよね」


「中原、よく頑張りました。めんこい、めんこい」


 そういって、佐々木は、わたしの頭にポンと手をのせて、なでなでする。


「うっ、佐々木!?」


 とっさのことだったので、わたしは驚いた。


「ん? あっ、いや、その」


 佐々木も焦っている。


「いや、いつも弟を()める時に頭なでるから……。つい……」


「ううん。いいよ……」


 なんだか、恥ずかしい。


「ねえ、佐々木」


「なんだ、中原……」


「わたしの精神力ゲージを回復させるために、もうちょっと、頭なでなでしてくれない?」


「ううっ……。別に、いいけど……」


 佐々木は、わたしの頭をなでてくれる。佐々木の手、温かい。ぽかぽかする。


 わたしは、そっと上目遣いで、佐々木の顔を見る。


 佐々木は、目をそらしながら、恥ずかしそうにわたしの頭の上の手を動かしている。なんだか、そんな恥ずかしそうにしている佐々木は、かわいい。


「あの~……」


 突然呼びかけられて、我に返った。


「すみません、これ~」


 さっき、トイレに入った人が、商品をレジに持ってきていた。


「あっ、すみません!!」


 すぐに名札をスキャンして、お客さんの商品をレジに打ち込む。


「ありがとうございましたー!」


 お客さんは、チラチラとわたし達の方を見ながら、コンビニを出て行った。


「見られちゃった……」


「ああ、見られたな……」


 恥ずかしい。


 だけど、思いがけず、佐々木のぬくもりを感じることができた。  もしかしたら、トイレの神様のご利益かもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ