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週一度コンビニバイトで逢う二人  作者: おとさらおろち
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第39話 ジンギスカンと中原の友達(佐々木)

 バイトの時間が終了した。


「終わった終わった。佐々木、急ご!」


「あまりあわてるなよ中原。着替えたらジンギスカンとおにぎり買わないとな」


 あたしと中原は、すぐに私服に着替える。


 私服になれば、もう店員ではない。


 いつも商品の陳列で場所は把握している、自分のコンビニのおにぎりや、冷凍コーナーのジンギスカンを取り、レジに行く。


 あまり、自分の働いているコンビニで、物を買ったことがなかったので、何か新鮮だ。


「佐々木先輩、今日は何かあるんですか?」


「うん、中原と、その小中学校時代のお友達と、円山公園でお花見するんだ」


「えー!!」


 赤坂さんが、うらやましそうな声を上げる。


「うっしっしー、赤坂ー。うらやましいだろー。ジンギスカンパーティーだぞぉ~」


 中原が、いやらしい顔をしながら自慢する。


「ぐぬぬ~、中原パイセン、ずるいですぅ~」


 赤坂さんは、レジの中で地団太を踏んだ。


「もうっ、中原パイセンなんて、コロナ後にまだ円山公園で火気使用制限が解けていない世界線に転生してしまえばいいんですぅ~!」


 あたしと中原は、マイバッグにジンギスカンとおにぎりを詰め込んで、まだ恨めしそうにしている赤坂さんに別れを告げた。


「なあ中原、赤坂さんに悪かったかな」


「いいのいいの。今日はわたし達だけで、楽しくやろうよ」


 地下鉄月寒中央駅に下りる。


「それにしてもさ、佐々木」


「うん?」


「今日は来てくれて、ありがと」


 中原が、ニコッと笑う。


 くやしいけど、中原のこの笑顔を見ると、その可愛さにドキッとする。


「別に。しばらくジンギスカン食べてなかったし。ゴールデンウィークはヒマだし、ワンアクセントと思っただけだよ」


 すぐに栄町行きの地下鉄が到着した。


 中原と、コンビニのバイトの話で盛り上がる。


 大通駅に着くと、東西線に乗り換える。宮の沢行きは、すでに停車していた。そこまで急ぐ必要などないのだが、中原とともに小走りで乗り込む。


 東西線は、あまり乗ることがない。


 この前に乗ったのは、お正月に中原の家に泊めてもらった時だ。


 なんだかんだ、中原とは仲良くなったものだ。


 普段のあたしは、同世代の子と付き合うのが、苦手な方だ。


 どこかのスタンが付く国から来たという父の遺伝子の影響か、どこか外国人風の顔立ちで育った。皆、そんなあたしに、気を使って接していたのは、幼いころから感じていた。それに、大きくなるにつれ、目つきもきついと思われるような顔立ちになってしまった。不愛想な性格も災いして、学校では、次第に孤立するようになってしまった。


 人付き合いができないというわけではない。地域の活動には積極的に参加している。公民館の下の句かるたは、小さい子の教育係の師匠格ということになっている。子どもは、あたしの外見など関係なく接してくれる。あたしも、こういうところで活躍することの方が、楽だった。


 弟が生まれてすぐに、父親は蒸発したという。勝手に国へ帰ってしまったのだ。


 お母さんは一人、すすきので働いていた。それでも、家計はなかなか大変だ。


 コンビニバイトなら、最近は外国の人もよく働いているし、接客は一合一会。共に働く人とも、それほど深い付き合いをしなくてよいだろうと思って選んだものだ。


 それが、


「円山公園駅は、すぐだよ~」


 隣で中原は、ウキウキしている。


 同い年の中原は、はじめからあたしと「普通」に接してくれた。


 その「普通」は、あたしがどうしても得られないものだった。


 はじめは、コンビニで、週に一度しかシフトが重ならないがゆえに、必要最低限のコミュニケーションなのかとも思った。


 中原が、名門で、なおかつお嬢様学校として知られる円山女子高校の生徒だったこともあり、話術は達者なのかとも思っていた。


 でも、中原は、あたしがバイトで、お客さんから心無い言葉をかけられたり、渡辺さんが嫌味を言ったりしてきた時には、本気で怒ってくれた。


 今では、たんなる家に入れるお金稼ぎだと思っていたアルバイトが、中原と逢えると思うと、楽しみになっている。


「中原の友達、どんなんなんだろうなー。中原と同じで、うるさかったら嫌だなー」


「ううん。気のいいやつらだよ。まあ、かわいさでは、この中原ちゃんにはかなわないだろうけどねっ!」


 そんな冗談を言い合える。


 正直、今日の中原と、その友達とのジンギスカンに参加するかどうかは、とても迷った。


 同世代の、それも初対面の子と一緒で、大丈夫だろうか。それに、相手は中原の小中学校時代の友達だ。あたしが、割って入ってもよいのだろうか。


 あたしがいたがために、変な雰囲気になってしまったら、それこそ、中原に、嫌われてしまうのではないか……。


「西18丁目駅を通過したよ。いよいよ次の駅だ。今日は祝日だから、動物園に行く人も多いねぇ」


 お花見や動物園に向かう人たちの笑顔で、地下鉄の車内はあふれている。


 そういつまでもうじうじとはしてはいられない。


 中原といると、いつも楽しいんだ。そんな中原が誘ってくれたんだ。あたしにとっては、勇気を出して、ということになるのだけれど、参加してみたい。中原が、どういう交友関係を持っているのかも知りたい。そう、中原のことを、もっと知りたい! そう思ったのだ。


 地下鉄は、円山公園駅に到着した。


 この駅も、大晦日に中原と来て以来だ。


 円山公園までの、比較的長い地下通路を、中原と肩を寄せて歩く。


「佐々木、大丈夫?」


「えっ?」


 突然、中原が心配そうに問いかける。


「いや、ちょっと、佐々木の顔色悪いかなって?」


「いや……」


 あたしは、緊張していた。どんな友達が待っているのか。変だと思われないだろうか。


「そっか……」


 そう言って、中原はレジ袋を持っていない方の手で、あたしの手を握る。


「ちょ、中原!?」


「えへへ、大晦日の時も、円山公園で手をつないだよね」


 大晦日の夜、中原は手袋を忘れてきていた。気温はマイナスの真冬。あたしは中原の手を握って、北海道神宮への初詣に向かって歩いていた。


「だいじょうぶだよ。きっと、佐々木も、気に入ると思うよ」


 中原には、あたしが緊張しているのがバレていたようだ。


「ごめん、でも、ちょっとだけ心配で」


「ううん。本当に、きてくれて、ありがと」


 地下鉄の構内から地上へ出ると、日差しが眩しい。あたしは、レジ袋を持った手で、目に入る直射日光を遮った。


「うんうん。快晴だし、気温も高い。絶好のジンギスカン日和だよ」


 円山公園の手前から、もうジンギスカンの臭いが漂っている。


 円山公園に足を踏み入れる。


「うわ、満開だな!」


 このところ、温かい日が続いているせいか、桜は満開で、まさに見ごろだった。


「すごいべ」


「なんで中原が威張るんだよ」


「あはは、いつも高校に行く時通るから、なんだかホームグラウンドみたいな気になっちゃった」


「なんだよ、それ」


 公園の中は、黒い星が描かれたビールや、貴族が描かれたウイスキー、孤独にグルメを楽しむ大きなおっさんのような名前の焼酎を飲んでどんちゃん騒ぎをする人たちでごった返してる。花より団子とは、このことだろう。


「えーと、待ち合わせ場所はこのあたりなんだけど」


 中原がキョロキョロとあたりを見回す。


 あたしも、同じように見回すが、そもそも、相手の顔を知らないので、見回したところで仕方がないということに気が付いた。


「おーい、こっちこっちー」


「あ、シラベ!」


 中原が反応する。向こう、ショートカットの女の子が、手を振っている。


 レジャーシートの上には、もう一人、ツインテールにした女の子も座っていた。


「そろそろ来る頃だろうって思って、シラベちゃんと一緒に炭をおこしてたんだよ~」


「ありがとう、カオリ」


 すでに、コンロが置かれていて、炭に火がついている。


「持ってくるの大変だったんじゃない?」


「自転車で運んで、そこからここまでは担がないといけなかったからな」


「うん。シラベちゃんはバスケ部だから力持ちだろうけど、吹奏楽部のわたしは、もう手がプルプルだよ~」


 三人は、合流できたことを喜び合っている。


「はい、じゃあ、社交辞令はこのあたりにして」


 中原が、手をポンとたたいて話を遮った。


「みなさんお待ちかね、本日のゲスト、わたしのコンビニバイト仲間の、佐々木さんです!」


 中原は、両手をあたしの方に向けて、二人に紹介する。


 シラベさんとカオリさんは、「おー」と声をあわせる。


「あっ、どうも、佐々木です。えーと、今日はせっかくの友達の会にお誘いいただいて、ありがとうございます」


「佐々木、そうかしこまらなくても」


 中原が苦笑いする。


「ねえねえ、佐々木さん、コンビニバイト、うちの子が迷惑かけてない?」


「佐々木さん、万引き犯つかまえる動画見たよ~。かっこよかったよ~」


 シラベさんとカオリさんが、すぐに話しかけてくれる。


「あ、ありがとう。えーと、中原は、頑張っているんじゃないかな」


 まだ、あたしは初対面の二人に対して、ぎこちない返事をする。


 でも、二人はニコニコして聞いてくれている。


「まあ、まずは打ち解けも兼ねて、早速肉を焼こうよ。私たちのコンビニのお肉だよ~。そして、わたしたちのコンビニのおにぎりぃ~」


「中原、自家製みたいに言うなよ」


 あたしと中原がそんな会話をすると、シラベさんとカオリさんは、


「なに、万歳みたいじゃん!」


「えー、いつもそんな感じでバイトしてるの~」


 と大笑いした。


 あたしも、つられて笑ってしまった。


「ねえ、佐々木さん、料理できるんでしょ? 一緒に焼こう。わたしもバスケ部の合宿で料理担当なんだよ」


「う、うん」


「じゃあ、わたしは野菜焼くよ~。家で切ってきたんだ~」


 あたしは、シラベさんとカオリさんに挟まれて、ジンギスカンを焼く。


「さすが佐々木さん、慣れてるね。はじめての人だったら、何度もひっくりかえしちゃうんだけど、一回だね」


「あ、佐々木さん、そっちのトウキビひっくり返して。たまねぎは、もういい感じかな?」


 なんだか、楽しい。


 はじめは、なじめるかどうか、不安でいっぱいだった。でも、そんなこと、一つも不安に感じることなどなかった。


「シラベさん、そのお肉ちょっとスジがあるみたいだから切ろうか。カオリさん、ピーマンはちょうどいいみたい」


 春の陽気とコンロからの熱で、額には汗が浮かび出した。


「あのー、みなさん……」


 横から中原が口をはさむ。


「わたしは、何をすれば……」


 中原は、一人作業からあふれてしまっていた。


 あたしは、シラベさんとカオリさんと顔を見合わせて、大笑いをした。




「それでさ、まったく渡辺のババアだったら、腹立つよね。佐々木がちょっと怖い顔してるからってさー」


 一通り、ジンギスカンを食べ終わった。


 カオリさんの持ってきてくれた、柳花庵のお菓子を食べながら、中原は、コンビニバイトの辛さをとくとくと語る。


「それに赤坂っていう新人、佐々木にばっかり懐いてさー。わたしのことはパイセンって言うんだよ。舐めてんのかっつーの」


 みんなで笑いあう。


「いやー。でも、本当に、コンビニバイトがうまくいってるみたいでよかったよ。佐々木さんのおかげだよな」


「うん。正直、円山女子に行ったのは驚いたよ~。うまくやっていけるのかなってさ~」


 シラベさんとカオリさんは、うんうんと頷いている。


「中学時代の中原って、どんなだったの?」


 あたしは聞いてみる。


「まあ、こんな調子だったな。でも、こんなんだからさ、正直、あのお嬢様学校のマルジョでやっていけるのかって、本気で心配したもんだよ」


「そうそう、育ちの悪い庶民丸出しだからね~」


「何を~」


 中原は合いの手を入れる。


「でも、こうしてみんな無事、高校二年生になれたわけだし、良かったってことだよな」


「うんうん。人間、なんとかなるもんだよね」


 シラベさんも、カオリさんも、確かに本当に中原を心配していたようだ。


「このわたしの適応力を舐めないでもらいたいよね!」


 中原は自信満々で答える。


「お嬢様学校、ご機嫌ようって言っていれば、なんとかなるんざますよ。では、わたくしはお花摘みに行ってくるざます。ごめんあそばせっ」


 と言って、中原は席をはずす。


「ねえ、佐々木さん、なんか、ありがとね」


 シラベさんが突然あらたまる。


「うん。なんだか、佐々木さんと一緒にいる様子見ていると、楽しそうだなっていうの伝わってきて、安心したんだ」


 カオリさんも、ニコリとする。


「えーと、どういうこと?」


 あたしは、まだ、二人の言っていることが、よく分からない。


「わたしたち、小学校からの腐れ縁でさ、だいたいいつも三人一緒だったんだ。でも、高校からは離れ離れになっちゃったんだ。それに、放課後や休みも、わたしもカオリも部活に入ったから、なかなか逢うことができなくて」


「それに、あの子、お母さんがマルジョ出身ってことで、ご息女枠で入学金とか学費が安いって理由で、マルジョに決めちゃったからさ。でも、あの学校、お嬢様ばかりで、大丈夫かなって、とても心配だったんだ」


 シラベさんもカオリさんも、真剣な表情になる。


「高校がはじまったばかりの頃はさ、たまに集まっていたんだけど、あいつ、どこか暗い顔してたんだよ」


「うん。学校になじめてないみたいでさ」


 あたしは驚いた。あの中原が、そんな状況に置かれていたとは、知らなかった。


「わたし達も、高校に入ってすぐの頃だったし、部活に慣れるので精いっぱいで、何も力になってあげられなかったんだ」


「そんな時、急にコンビニバイト始めたって言われたから、びっくりしちゃったよ~」


「ああ。こんな時に、やめておいた方がいいんじゃないかとも思ったよな」


「うん。わたしも。でもさ」


 二人は、そこからは、少し笑顔になった。


「コンビニバイトはじめてからアイツ、元気取り戻してさ」


「うん。どうしたのかなって思っていたらさ、しょっちゅう佐々木さんの話するようになったんだよ」


「えっ、あたしの?」


 あたしは、急に自分の名前が二人の会話に登場したので、聞き返した。


「そうそう。明らかに、佐々木さんが元気の源って感じだったよな」


「うん。すごく楽しそうに話すから、彼氏さんなんだろうなって思っちゃったくらいだよ」


「か、彼氏って」


 あたしは、声がうわずってしまった。


「そうそう。あれは、完全に彼氏を語る時のノリだったよな」


「あはは。そうだよね。いつ紹介してくれるのかな~って思ってた。わたしたち、佐々木さんには、正直感謝しているんだよ。こんな話、ちょっとおかしいかもだけど、あの子の幼馴染として、すごく安心したんだ~」


 そして、シラベさんとカオリさんは、声を合せて、


「佐々木さん、ありがとう」


 と言った。


「ちょ、やめてやめて、そんなの」


「あはは、でも、佐々木さん、今日会ってみて、本当に良かったよ。思った通りの人だった」


「ちょっとシラベちゃん、いまのセリフ、なんだか抜き打ちテストみたいで嫌な感じだよ」


「そう? ゴメン佐々木さん。でも」


「うん。これからも、あの子のこと、よろしくね」


 なんだか、あたしは照れてしまった。


 中原が、あたしがきっかけで元気を取り戻したとは、正直思えない。


 だけど、もし本当にそうだとしたら、なんだか嬉しい。


「うーん? みんななんの話してたの~?」


 中原が戻ってきた。


「おうおう、うかうかしてたら、佐々木さんのこと、わたしが取っちゃうぞ~って話~」


「そうそう、わたしも、佐々木さんのこと、今度デートに誘っちゃおうかな~」


 シラベさんとカオリさんは、そんな冗談を言ったが。


「ダ、ダメ!」


 と、中原が言った時には、一瞬、みんなポカンとしてしまった。


「ダメって?」


「えーと、今の、冗談、だよ?」


 シラベさんとカオリさんは、不思議そうに中原を見る。


 中原は、顔を真っ赤にしてしまった。


「え、えと、その、佐々木は、わたしの、だから……」


 中原は、小さな声でうつむいた。


「おのろけ、かよ……」


「なに、それ、かわいい……」


「うわー! 今のなしなし! お菓子食べよ。お菓子食べたら片付けだよ。この時期、暗くなってくるとまだ寒いんだから!」


 中原は、自分でジュースを紙コップに注いで、一気に飲み込む。あわてたのか、むせてしまっている。


「なあ、中原」


「なに、佐々木?」


「今日は、ありがとな」


「楽しかった?」


「ああ。すごく」


「そっか。良かったよ」


「中原の、意外な過去も知れたしな」


「な、なに、それ。やっぱり、わたしが便所に行っていた間に、何話してたのさ」


「それは内緒だ。それに、便所言うな。お花摘みだろ、お嬢様」


 中原のことを、よく知ることができた。それに、シラベさんもカオリさんと話すのは、楽しかった。


 シラベさんとカオリさんは、あたしが中原の元気を取り戻したと言っていた。そのことは、あまりピンとこない。


 むしろ、あたしの方が、こうして、中原のおかげで元気をもらえている。


 ただ、もしあたしも中原に元気をわたせているのだとしたら、それは、とてもうれしいことだと思った。


 涼やかな春の風が、さくらの花びらとともに、あたしの頬をなでた。

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