第38話 贅沢な防災?(中原)
コンビニの商品棚は、空になっているところがチラホラ見られる。
お客が、
「米は売っていますか」
と尋ねる。
「備蓄米ならありますよ」
というと、それならいいです、と言って帰って行く。
「ねえ佐々木」
「なんだ、中原」
「今の人は贅沢だよね」
「まあ、確かに、備蓄米は、ちょっと風味が劣るよな」
「佐々木、味が分かるの?」
「中原は、分からないのか?」
「う、うん……あまり、意識しなかった」
「まあでも、普通のお米にみんな目が向いているから、備蓄米が相当安くなったのは、助かるな」
「そうだよねー。わたしの家も、まだまだ備蓄米だよー」
「お嬢様なのにな」
「そうそう、この前、地震あったじゃん」
「ああ。三陸沖後発地震注意情報が出されているよな」
「それで、お米の備蓄がーとかって話しを学校でしているんだけど、みんな、東川産のゆめぴりかだーとか、ななつぼしがーとか言ってるんだよ。高級米のことばかり言って」
「やっぱり、お嬢様学校だな」
「しまいには、魚沼産のコシヒカリだーって言っている子がいたから、わたしは備蓄米食べてるよって言うと、正直引かれた……」
「そこは、話を合わせておけよ」
また、お客が入ってきた。
飲料の棚を見ている。
「二リットルの水は?」
などと聞いていく。
「水も、無くなったよねー」
「災害が起こりそうって言うと、なくなるよな。お嬢様学校はどうよ?」
「そうそう聞いてよ。これも、東川の水だの、帯広の水道水だの、使用人に京極町の水を汲んできてもらうだのって話してるんだよ」
「使用人に汲んできてもらうって、スケールでかいな」
「北海道の水はきれいなんだから、何かあったら豊平川の水でも汲んで飲めよってーの」
「さすがに、豊平川の水は、ヤバくない?」
「煮沸すればエキノコックスだって大丈夫だよ」
「中原って、たまに、なかなかワイルドだよな」
「佐々木は、虫が嫌いだから、たしかに苦手かもだよね」
「うん。たしかに、川の水はいやだな」
「でも、札幌は水道水だっておいしいんだから、空のペットボトルに溜めておけばいいんじゃないのって思うんだけどね」
「あたしの家は、風呂に水溜めてるぞ」
「そうだよねー。防災まで贅沢しなくてもいいよね」
また、お客がやってくる。
いくつか残っていた乾パンを買っていく。
「防災グッズ、売れ行きいいねー」
「乾パン、今のお客さんで売り切れだな。発注しないと」
「でもさ、みんなこういう、差し迫ったときに買い溜めはじめるじゃん」
「不安になるだろうからな」
「でも、やっぱり防災は、あらかじめしておかないといけないと思うんだよね」
「事前の備えが大切だよな」
「ってことでさ、わたし、防災のためにお菓子を定期的に買ってるんだよね」
「高カロリーで、保存も利くよな」
「だけどさ、ついつい食べちゃうんだよね」
「まあ、中原ならそうなるよな」
「そして、また備蓄のために買うんだけど……」
「そんなことしてるから、太るんだぞ」
「まあ、欲望には勝てないわけで……」
「中原、正月太りは解消したのか?」
「いや、まだなんだけれど……。少しは、災害でひもじい思いをした方がいいかな」
「不謹慎極まりない発言だな」
またお客が入ってきた。
「電池とラジオ、懐中電灯ある?」
「すみません、もう全部売り切れで」
「ああん? コンビニなんだから、それくらいそろえておけよ!」
お客は、捨て台詞を吐いて去って行った。
「なに、あの客! むかつくよね」
「でもさ、ああいう人が、急なことが起こった時に慌てるんだよな」
「そうだよね。急なことが起こった時こそ、落ち着いていかないといけないよね」
「まあ、たしかに、今は電気がないと、夜は暗いし、何かと不便だよな」
「えーそうかな?」
「電気がないと、明かりがないじゃん」
「うち、仏壇屋だから、ローソクはたくさんあるよ。いざとなれば、百本くらい灯せば、結構明るいと思うよ」
「なんか、別の意味で、怖いな」
「とにかく、今の人は、贅沢に慣れ過ぎたんだよ。もっと、昔の生活を思い出すべきなんだよ。北海道の開拓の歴史を見てみなよ。原野を切り開いたんだよ?」
「いや、そこまで昔に戻る必要はないだろ」
「当時は災害だらけだよ。クマやイナゴや」
「脱線がいちじるしいな」
そこへ、コンビニの電話が鳴った。
「なんだろ、珍しいな」
と言って、佐々木が応対する。
「電話、何だったの?」
「地震の影響で、マンガ雑誌が届くの遅れるんだって」
「えっ、うそー、今週の楽しみにしてたのにぃー」
「中原、それを贅沢っていうんだぞ」
「いや、わたし、立ち読みでいいし」
「そういう話じゃないって。それに、そこは、ちゃんと買えよ……」




