第36話 強敵の新アルバイター(中原)
女子高生が、コンビニのスイーツコーナーで、商品を物色しながら、どこ中? などと話に花を咲かせている。いかにも、新入生らしい会話だ。
「ねえ佐々木」
「なんだ、中原」
「新学期が始まったね」
「ついにあたし達、二年生だな」
「無事進級できたよ……」
「円山女子、結構勉強難しいんだろ」
「そうそう。本当に、一時はどうなるかと思ったよ」
「中原が進級できなかったら、あたしのこと、先輩って呼ばないといけないんだぞー」
佐々木はまったく、何を言い出すのやら。
でも、佐々木を先輩とよんでみるのも、なんだか良さそうだ。
「うん。佐々木先輩!」
「うっ」
なぜだか、佐々木は照れている。かわいらしいやつだ。
とそこへ、店長が現れた。
「二人とも、今日は新入りの子が入ったんだ」
はじめて見る子がいる。
背はわたしよりも少し小さい、黒髪をショートボブにした、おとなしそうな女の子だ。
「今日からお世話になります。福住高校一年生の赤坂です。よろしくお願いします」
赤坂は、ペコリとお辞儀をした。
礼儀正しそうな子だ。
「今日はまだ見習い期間だから、二人とも、ちょっと教えてあげてね~」
そういって、店長は女の子をわたし達に丸投げして、帰っていった。
「そっかそっか、赤坂ちゃん、よろし……」
わたしがそう言うか言わぬ間に、
「佐々木先輩ですよね! わたしのこと覚えてます? あの時、電話をかけた者です!!」
なんだ、こいつ……
佐々木を見ると、何が何だか分からず、あっけにとられている。
「えーと、ごめん、どちらさまだっけ?」
佐々木が問いかける。
「あっ、すみません。前に、佐々木先輩が泥棒を捕まえた時に、電話をかけました」
わたしと佐々木は顔を見合わせた。
そうだ。前に万引き犯を佐々木が捕まえた時に、佐々木が警察に電話をするように指示を出した子だ。たしかあの時は、このあたりの中学校の制服を着ていたはずだ。
「佐々木先輩! あの時の啖呵、すごかったです! コンビニ娘って言ってたやつ。わたし、大ファンになりました!!」
「ううっ」
佐々木は顔を赤らめる。
「わたしの友達も佐々木先輩のファンになって、あの動画、何度も見返してます! もう映画の女優みたいです! わたし、高校に入ったら、ここのコンビニで佐々木先輩と一緒に働きたいって思っていまいた。いま、とっても嬉しいです!」
「そ、そっか……ありがとう」
佐々木は困惑している。
赤坂はまだ続けて話そうとする。
「はいはい、そこまでそこまで。バイトになったんだから仕事仕事。色々教えてあげるからね」
「はあ、あなたどちらですぅ~」
赤坂はじろっとわたしを睨む。
「今わたし、佐々木先輩と話してるんですけど~」
「ううっ」
なんだ、このクソガキは。最初のイメージと、ぜんぜん違うじゃないか。
「い、一応、わたし、先輩なんだけど……」
「え~、わたし、佐々木先輩に教えてもらいたいんですけど~」
わたしは、眉間のあたりがピクピクする感覚を覚えた。
「赤坂さん、中原はこのコンビニでも、けっこうみんなから頼りにされているんだ。色々勉強になると思うよ」
「分かりました!」
赤坂は、佐々木の言うことは素直に聞くようだ。
「じゃあ~、中原パイセン、何からやればいいんですか~」
パイセン、だと……。
わたしは、顔が笑っていない笑顔を作った。
と、そこへお客がレジに並ぶ。
佐々木がそつなく、お客を捌いた。
「さすがです、佐々木先輩! 見事なレジ捌きでした!」
「あっ、ありがとう……」
「じゃあ、赤坂さん、レジ打ち、教えるね」
「えー、やっぱり中原パイセンに教わるんですか~」
まだ言うか、コイツは。
とそこへ、またお客がやってきた。急いでいるようで、お客は、レジに立ったばかりの赤坂のところにいくつかの商品を置く。
「あっ、すみません、その子はまだ慣れてなくて」
しかし、止める間もなく、赤坂は、新人とは思えない手つきで、商品をバーコードスキャンしていく。
「1200円です。クレジットカードですね。タッチはできますか? はい、そちらにかざしてください。領収書ですか? 少々お待ちください。宛名はいかがしましょう。会社名ですね。会は旧字体ですか。かしこまりました。こちらでよろしいでしょうか。ありがとうございました」
赤坂は、流れるようにお客を捌いて見せた。
「赤坂さん、すごいね!」
佐々木が言う。
「ありがとうございます佐々木先輩! ずっとここのコンビニで働きたくて、イメージトレーニング積んできたんです!」
そういって、赤坂は、横目でわたしの方を見て、ニヤリと笑った。
ううっ!
思わぬ強敵が現れてしまった……。




