第35話 春になると現れる小川……(佐々木)
「ねえ佐々木」
「なんだよ中原」
「暖かくなったよねぇ」
中原が、レジカウンターに頬杖をついている。長い髪の毛が、レジ台にドサッと垂れている。
「はしたないぞー」
「今日はお客、こないねー」
「真冬は、お客さん来ない時は雪かきだったから、なんだか手持無沙汰になるな」
「いいじゃん、いいじゃん。楽して時給もらえるなら」
「はあ、まったく」
でも、こんなふうに、ゆっくりと中原と話している時間は楽しい。
「それにしてもさ。まだ雪残ってるところは残ってるじゃん?」
「そうだな。まだあるよな」
「この時期の雪って、きたないよね」
「真っ黒いからな」
「だいたい、犬の糞がくっついてるよね」
「あれ、なんでなんだろうな。この時期、雪が溶け出して、汚い水が流れていくの、かわすのがたいへんなんだよな」
「えー、わたしは好きだけどな」
「はぁ?」
中原は、よく分からないことを言い出す。
「中原、好きってなんだよ」
「えー、だって、なんかいいじゃん。何メートルも、何十メートルも、小さな川みたいな感じで流れて。そこを歩くの、楽しくない?」
「楽しくないって。歩いたら、べちゃべちゃして、たまに水が飛んで素足に当たるし」
「それは、たしかに嫌だけど。でも、足で流れをせき止めたり、近くの雪崩してダムにしたり、面白くない」
「はぁ?」
やはり、中原は独特の感性を持っている。
「いや、確かに小さい時はそんなことして遊んだ記憶あるけど、中原、今もそんなことやってるの?」
「うん。いいじゃん。誰に迷惑かけるわけでもないしさ。学校帰りとか、楽しいよ?」
「楽しいって……」
なんだか、中原が小さな子供みたいに雪遊びをしている様子を思い描いてしまう。ただ、なんだかそれもかわいらしい気がする。
「でも、そのうち転ぶぞー」
「大丈夫大丈夫」
そこに、おばあさんが入ってきた。
「あのー、ちょっと道を教えてほしいんだけどねぇ」
「はいはいー」
中原が元気よく出て行く。中原も、だいぶ月寒の地理に詳しくなったようだ。
コンビニのガラス越しに、中原がおばあさんに道を教えている様子が見える。
しばらくして、おばあさんが、去っていった。
中原は得意げに小走りでコンビニに戻ろうとするが、
「あっ」
思わず、口から声が漏れた。
中原がズルっとその場に転んでしまった。
「中原!」
あたしはコンビニの外へと出る。
「佐々木ぃ~」
中原は尻もちをついている。
「お尻、ぐしょぐしょだよ~」
雪が溶けて小川のようになったところに、ちょうど尻もちをついている。
「よ、良かったじゃん。雪遊びできて」
「ちっとも良くないよ!」
「下着、売ってるぞー」
転んだ中原に手を貸して、コンビニに戻っていく。
まったく、言わんこっちゃない、と思ったが、なんとも、中原らしい。




