第33話 春の波乱の予感?(佐々木)
お客さんが、春の新作スイーツを買っていく。
やはり季節物は人気が高いようだ。
「ねえ佐々木」
「なんだー、中原」
「テレビ見てるとさ、もう桜が咲いたとか、開花宣言はいつだ、とかで盛り上がってるじゃん」
「朝のテレビは、たいていそんな話題だよな」
「でもさ、やっぱりメディアって、結局東京までだよね!」
「突然どうしたー?」
「だってさ、結局南から桜前線が北上してくるって言っても、東京で開花したら、もうその後の報道はなしだよ」
「視聴者数は圧倒的に東京が多いからな、仕方が無いんじゃね?」
「でもでも、桜前線の北上は終わらないんだよ! 北海道なんて、桜が咲くのなんて、だいたい5月じゃん」
「それだけ寒い場所だからな」
「桜といえば卒業式とか始業式って感じだけど、こっちはまだまだ冬だよ冬。雪が降ってるよ。もうそんな厳しい北海道の環境の事なんて、全国の人は興味ないんだよ!」
中原は、こういうどうでもよいことに、ムキになる。
でも、今日はお客さんも少ないし、そんなどうでもよい会話が心地よい。
「あたしは、5月の桜って、好きだな」
「佐々木、そうなの?」
「だって、だいたいゴールデンウィーク中じゃん? 昔は友達に誘われて、桜の下でジンギスカンやったなー」
「たしかに、そうだよね。ゴールデンウィークと言えば、北海道神宮でのジンギスカンだよね」
「そういえばさ、神社って、基本的にそういうナマグサって禁止じゃん」
「そうだね」
「でも、札幌の人って、北海道神宮でゴールデンウィークにジンギスカンやるの、普通になってるよな」
「そ、そうだね」
「あれって、神様への冒涜なんじゃね?」
「ええっ?」
「それに、神社って、木が多いじゃん。実際、桜の下でやってるんだから。火気の使用は危ないじゃん」
「うっ、なんというか、この季節だけは治外法権っていうかー……」
「大人にはお酒も入ってるし、だいたい乱痴気騒ぎじゃん。もう気をつけること自体が無理じゃん」
「い、いや、いいんだよ。札幌の人は、生まれたときからそのあたりはわきまえているから……」
「どういう理屈だよ」
「佐々木は、今年はジンギスカンやるの?」
「今年どころか、しばらくやってないよ。お母さんは仕事してるしさ」
「じゃあさ」
中原がにこりとする。
「ゴールデンウィークに、一緒にジンギスカンやらない?」
「中原と?」
「えーと、わたしの小中時代の友達とやる予定なんだ」
「そっかー」
あたしは、少し残念な気がした。提案を受けたとき、とっさに中原と二人きりを想像した。
でも、なぜ二人きりでないと残念なのだろう。自分で疑問に思ってしまう。
「知らない人とだと、嫌?」
「ううん、そうじゃないけど、いいの、あたしも入って?」
「うん。大丈夫だよ! みんな高校でうまくいってない者同士のなぐさめあう会だから。そういう集まりだから!」
「どういう集まりだよ」
「それに、ちょっとコンビニバイトしてるって話しのなかでさ、佐々木のことも話したんだ。そんな美人さん、一回会ってみたいって」
「はっ!? 美人?」
「あはは、そういう説明してるんだ……」
「はあ……」
あたしはため息をつく。
「ハードル上げるなよ」
「まあ、まだ先だから、考えといてよ」
「うん。考えとくよ」
ただ、中原が誘ってくらんだ。
中原の友達には、悪い人はいないと思う。きっと受け入れてくれるだろう。
でも、何かモヤモヤする。中原には、中原にしか知らない世界がある。
そこにあたしが踏み入ってもよいものだろうか。
いや、踏み入ってもよい、ではない。実は、それで自分がショックを受けるかもしれない……。
ショックって?
「ちょ、佐々木、お客さん!」
中原の声でふと我に返る。
お客さんがあたしのレジに立っている。
「あっ、失礼しました」
あたしは、お客さんの持ってきた、やはり季節限定のスイーツのバーコードをスキャンする。
ゴールデンウィーク、今のところ、バイトか勉強するしか、予定は入っていなかった。
でも、どうしよう……。
行くべきか、行かないべきか……。
そんなことを考えながら、日常になってしまったバイトの時間は流れていった。




