第31話 燃料の危機?(佐々木)
「ねえ佐々木」
「なんだよ中原」
隣でレジを売っていた中原が、珍しく深刻そうな顔であたしを見ている。
「まだ、ストーブ使ってる?」
「うん。まだまだ寒いからな」
「だよね……」
「それがどうしたの?」
「イラクが攻撃されたじゃん」
「トランプすごいよなー」
「原油価格が上がっちゃうよ! 燃料代高騰だよ! 道民にとっては死活問題だよ!」
「まあ、そうだよなー。せっかく光熱費下がってきたのになー」
「佐々木はいいの、それで。まだまだ寒い北海道で、暖房代が挙げられるのは、もう危機中の危機だよ!」
「中原、何気に世界問題詳しいよな」
「そりゃそうだよ。中東全体が戦争に巻き込まれてるんだよ! なんなら、わたしの友達、ドバイで足止め食らってるみたいだし」
「あー、そうかー、円山女子はお嬢様高校だもんなー。この時期行ってそうだよなー」
「はあ。うちは仏壇屋で、とにかく店は開けておかないといけないから、灯油代は、ばかにならないからさー。これでまた、食事がひもじくなるよ。バイバイ冬の味覚だよー」
「ダイエットになるからいんじゃね? 前に太ったって言ってたじゃん」
「うぐっ」
中原は痛いところを突かれたような顔をしている。
「投資家だって、原油で大損してるみたいじゃん。あの岐阜県のハゲとか」
「誰だよ」
「とにかく、トランプはなんなのさ。世界を恐怖の渦に巻き込もうとしているの? もう戦隊ヒーローものの悪の軍団じゃん。世界征服狙ってるんじゃないの?」
「そういや、戦隊ヒーローもの、終わっちゃったなー」
「トランプ、この前はベネズエラを攻撃してたじゃん。もう戦国武将の野望のプレイヤー感覚なんじゃないの。トランプ撃ち殺されてた世界線の方が、世界は平和だったんじゃないの」
「おまえ、それ以上言うとCIAか何かに葬られるぞ」
そこにお客さんがやってきた。
「CIA?」
「いや、お客さんだって。いらっしゃいませー」
お客さんは、カイロを買って帰っていった。
「ほらー、やっぱり原油が高くなるから、寒さ対策のために備えてるんだよー」
「今日はやけに引っ張るのな」
「はあ、このままわたし達道民は凍え死んじゃうんだ。全部戦争のせいだよ。戦争は世界を変えてしまうんだよ」
「まあ確かに、物価高の今、燃料費が高くなるのは辛いよなー」
しばらく客がいない時間がながれた。中原はまだ一人で、燃料高を嘆いている。
「ところで佐々木、なんかコンビニの中寒くない?」
「なんだよ中原、店長からの引き継ぎ書見てないの?」
「殴り書きで読みづらいしー」
「ちゃんと読めよ。お客さんがいない時は、節約のために店内温度下げろって書いてあっただろ」
「うそ、マジ?」
「うん。さっき少し下げたよ」
「うわー。ついにここにまで物価高騰の嵐がー。イラン戦争の余波がー。天は我を見放したー」
「大げさだって」
はあ、とため息をついてあたしは無意識にポケットに手を入れた。
「あっ、中原」
「どしたの、佐々木?」
「こんなのあったの忘れてた」
それは、以前商店街でたまたま引いた福引きでもらった、あたしたちが働いているコンビニ系列の、小さい缶のホットドリンクが50円で買えるクーポン券だった。
「二つまでだって。そろそろシフトの時間終わりだし、買ってく?」
「グッドタイミングだよ佐々木! めちゃめちゃ体が冷えてたんだー。このコンビニ、労働者に厳しすぎるよ」
中原は、すかさずホットドリンクの入ったレジ横の棚を物色する。
「中原ー、まだシフトの時間中だぞー。まあ、お客さんもいないし、いいか」
あたしと中原は、ホットドリンクの缶を見る。
「わたしはこれにしよっと」
中原が、スチール缶を一つ取り出す。
「あっ」
中原の手が滑り、スチール缶があたしの方へと転がる。
あたしはスチール缶を取ろうと一歩前進すると、スチール缶はちょうど何かの拍子で転がる速度を増した。
あたしは思わず、スチール缶を踏んづけてしまった。
「うわっ」
あたしは前のめりに倒れる。
「あんっ!」
なんだか、かわいらしい声が耳元でした。
ぐにゃりとした、やわらかい感触が両手に感じられる。
「んんっ」
あたしが目を開けると、中原を押し倒してしまっていた。
「ご、ごめん中原、けがはない?」
「う、うん……」
中原の顔は真っ赤になっている。顔が近い。ふんわりと中原の髪からいい匂いがする。
中原と目が合う。どうにも、合った目をそらすことができない。
サラサラの髪、やわらかそうな肌……
「佐々木? さわってるん……だけど……」
あたしの手は、まだやわらかいものを掴んでいる。
「うわっ、ごめん!!」
あたしは飛びよけた。
中原の胸を揉んでいたのだ。
あたしは、全身が熱くなっているのを感じた。
「中原、大丈夫だった? 痛くなかった?」
「う、うん。それはいいんだけど……。ラッキースケベだね、佐々木」
「!!」
全身から汗が噴き出す。
今日はもう、ストーブもいらないくらい、あたしの体のほてりは止まりそうにない。




