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役立たずと追放された俺の保存倉庫は、飢えた世界を救う最後の希望だった  作者: レモンティー


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第五十九話 王都の金庫は空だった

王都から緊急の使者が来たのは、救援便の出発直前だった。

「共同基金への支払いが停止された」

ミラが帳簿を閉じた。

「どういうこと?」

「国庫の救援予算が尽きたそうです」

運送組合への未払いが三週間分。

厩舎では御者が馬の餌を自腹で買っていた。

ある男は子供の靴を買う金を餌代に回し、

「善意だけで次の冬は越せない」

と言った。

農家への買い取り代金も一部が残っている。

このままでは荷車が動かない。

俺は王都へ向かった。

財務官は疲れ切った顔で机に座っていた。

「兵糧、堤防修理、病院への支払い。どれも止められん。救援のための金はもうない」

「でも、食料が届かなければ病院の食事も止まります」

「分かっている。だから困っているんだ」

俺は支払いの一覧を見せてもらった。

予定額と実際の支出が混ざり、何にいくら残っているのか分かりにくい。

「まず、未払いと今後必要な金を分けませんか」

財務官は顔をしかめた。

「数字を並べ替えても金は増えん」

そのとき、廊下で御者たちの靴音が止まった。

代表の男は帽子を胸に押し当て、机の未払い伝票を見た。

「俺たちは金貨のためだけに走ってるわけじゃない。だが馬は言葉じゃ食えねえ」

俺は反論できなかった。

御者の後ろには、飼料代の請求書を握った若い女が立っていた。

「今夜出せる額と、残りを払う日を、ここで決めてください。曖昧な約束なら俺は荷車を出しません」

財務官は初めて顔を上げた。

空の金庫よりも、その沈黙の方が重かった。

「増えません。でも、今ある金で何を守れるか決められます」

調べると、王都の一部倉庫には長期保管の穀物が残っていた。

すでに購入済みなのに、輸送先が決まらず動いていない。

「これを救援へ回せれば、新しく買う費用は減ります」

「軍の予備だ。勝手には動かせない」

俺は軍の補給官を訪ねた。

補給官は最初、断った。

しかし使用期限が近い備蓄を先に出し、後から新しい穀物で補充する案には耳を傾けた。

「補充ができなければ軍が困る」

「期限と数量を契約に書きます。守れなければ、救援側の新規購入を先に止めます」

支払い猶予を頼む席で、俺は一度だけ声を荒げそうになった。

「命がかかっている」

と言えば、誰も断れない気がしたからだ。

しかし御者にも家族があり、馬の飼料代が必要だった。

善意を理由に相手の生活を犠牲にしてはならない。

財務官は夜遅くまで帳簿を直していた。

俺が差し入れたパンを見て、彼は苦笑した。

「食料を届ける人間に、食事を忘れるなと言われるとは」

二人は机を挟んでパンを食べ、翌日の支払い順を確かめた。

寄付金の使途を掲示すると、批判も届いた。

「運賃が高い」

「事務費を減らせ」

俺は一つずつ回答した。

未払いの御者は、馬に水を飲ませながら掲示板を見た。

「期日を守れないなら、その日には俺も断る」

ミラはその言葉を契約書の余白に書き入れた。

救援を続けるために、働く人の拒否権も必要だった。

説明する仕事も、救援の一部だった。

補給官は交換する備蓄の数量と補充期限を読み上げ、軍の帳簿に署名した。

それでも補充が遅れれば、次の救援便を止めなければならない。

俺はその条件も御者たちに隠さなかった。

次に俺は商人たちへ、救援便の到着確認を条件とする短期の支払い猶予を頼んだ。

「信用できるのか」

と組合長。

「今までの受領記録と未払い額を公開します。無理な約束はしません」

一人の御者が手を挙げた。

「俺の村は食糧便に救われた。今度は一週間だけ待つ」

しかし別の御者は首を振った。

「うちは馬の飼料を買う金がない。待てない」

俺はその意見も受け入れた。

待てる業者だけに負担を押しつけず、緊急性の高い支払いを先に行う順番を作った。

夜、ミラが言った。

「これで何日持つ?」

「十日。長くても二週間」

「その先は?」

「新しい財源が必要だ」

俺は王都の市場へ出た。

飢饉の影響を受けていない地域では、商売が続いている。

彼らに救援への参加を求める方法を考えた。

空の金庫を見て、御者の一人が前金なしで出ると言った。

俺はその申し出を受ける前に、家族の食費が残るか尋ねた。

「救援のために家を飢えさせるな」

町の商人が燃料代を立て替えると決め、御者はようやく手綱を取った。


翌日、食糧便は寄付を集めるだけでなく、救援輸送の経費を公開する仕組みを始めた。

一口の寄付で何食分を運べたか、誰でも見られるようにした。

最初の寄付者はパン屋の店主だった。

「お前が初めて買った、あの硬い黒パンを覚えてるか」

王都の残金を確かめた俺は、パン屋への支払い期日と配達先を別々に記した。

善意に頼るだけでは、次のパンを焼いてもらえない。

夜明け前、荷車の車輪を点検する音がした。

「今度は売れ残りじゃない。新しく焼いたパンを届けてくれ」

店主は袋を差し出した。

俺は受領書を書き、行き先を記した。

王都の金庫は空に近い。

それでも、支える手までなくなったわけではなかった。

財務官は机に積まれた契約書を開き、未払いの一覧を赤と青の札で分けた。

「今日払わなければ馬が動かない金と、猶予を交渉できる金だ」

年長の御者が身を乗り出した。

「金庫が空なのに、何を払う」

「全部は払えません」

俺が答えると、部屋が静まり返った。

「でも、仕事をした人へ嘘の支払日を約束することもしません」

御者の一人が椅子を蹴った。

「うちの子は熱を出してる。今日の賃金がなけりゃ薬も買えない!」

引き止めようとした役人を、ミラが制した。

「待てる人と待てない人を同じにしないでください」

財務官は手元の支出予定を確かめ、今週中に支払い可能な小口賃金を先に確保した。

大商会への延期通知には、自分の名で封をした。

「役所の都合で待たせる。責任は私が引き受ける」

鍛冶屋が手を挙げた。

「蹄鉄の修理代は収穫後でいい。書面をくれ」

パン屋の店主は新しく焼いたパンを運び込んだ。

「食料なら出せる。だが寄付で御者の賃金まで払ったことにするなよ」

ミラは頷き、寄付と賃金を別の欄に記した。

病気の子を持つ御者には、当日支払いの短い便が割り当てられた。

「俺だけ特別扱いか」

「あなたが運んだ分の代金です。待てる人には別の便を頼みます」

御者は受領書を握りしめ、長い間うつむいていた。


やがて顔を上げる。

「その便なら、日暮れまでに戻れる」

翌朝、厩舎で馬の鼻息が響いた。

出発の合図を出したのは俺ではない。

昨日席を立った御者だった。

「病院の分を先に積め。俺の子も、あそこに世話になった」

財務官は未払い一覧を役所の前に掲示した。

支払える金額と、まだ支払えない金額が、同じ紙に並んでいる。

「約束を破れば次の便は止める」

御者の言葉に財務官は頷いた。

御者の妻は未払いの紙を見て

「明日のパンを、来月の約束では買えない」

と言った。

財務官は反論できず、病院への便と生活費の支払いを別々に記録した。

馬が動き、車輪が石畳を鳴らす。

金庫の底はまだ見えたままだ。

それでも御者は手綱を握り直し、病院へ向かう坂を上っていった。

俺はその背を見送り、次の支払日を帳簿に記した。

今日の出発を一度きりで終わらせないために。

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