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役立たずと追放された俺の保存倉庫は、飢えた世界を救う最後の希望だった  作者: レモンティー


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第五十七話 配給所に並ばない人々

北方の町エルメンでは、配給所に長い列ができていた。

しかし診療所の医師は、別の名簿を俺に差し出した。

「この人たちは、列に来られません」

寝たきりの老人、幼い子供を抱えた母親、歩けない負傷者。

名簿には八十六人の名前があった。

「配給の記録には全員『受領済み』とあります」

ミラは言葉を選んで言った。

俺は帳簿を見た。

確かに受領印が押されている。

だが医師は首を振った。

「配給所に行けない人の分を、家族が受け取ったことにされている。でも家族のいない人もいる」

配給所の責任者は憤慨した。

「我々は規則どおりに配った!」

「責めに来たわけじゃありません。受領印の仕組みを確かめたいんです」

調べると、配給所では名簿に名前があるだけで受領済みの印を押していた。

実際に渡したかどうかの記録がなかった。

「列を早く進めるためだった」

と係員が言った。

「一人ずつ確認していたら日が暮れる」

俺は係員の手を見た。

指先は赤く腫れ、朝から休まず袋を運んでいたことが分かる。

「人手が足りないんですね」

「そうだ。だから文句を言われても困る」

俺は町の人々に呼びかけ、訪問配達の協力者を募った。

だが最初に集まったのは三人だけだった。

「知らない家へ行くのは怖い」

「盗んだと言われたらどうする」

その不安はもっともだった。

俺は二人一組で訪問し、受け渡しを本人か介助者に確認してもらう方式を提案した。

受け取れない場合は持ち帰り、理由を記録する。

「これなら誰かが食料を抜いても分かる」

とミラ。

訪問配達の途中、戸口で食料を断る女性がいた。

「隣の家の方が困っている」

医師が事情を聞くと、女性自身も三日ほとんど食べていなかった。

俺は他人に譲りたい気持ちを否定せず、彼女の分と隣家の分を別々に確保すると説明した。

印一つの裏に、まだ食事を受け取れていない人がいる。

受け取った本人が字を書けない場合は、立会人が名前と理由を記した。

配達人が勝手に受領済みにしないよう、未配達の欄も目立つ位置に置いた。

町の子供たちは、訪問先への道案内を買って出た。

ただし食料を運ぶ責任は大人が持つ。

俺は子供たちに危険な仕事を任せず、家の場所を示したら学校へ戻るよう頼んだ。

小さな案内役は胸を張り、教室へ走っていった。

「それより、届かなかった人が分かることが大事だ」

初日の訪問先は、町外れの小さな家だった。

扉を叩いても返事がない。

医師と一緒に中へ入ると、寝台に老人が横たわっていた。

「……もう、配給は終わったのか」

「いいえ。今からお届けします」

老人は驚いたように目を開けた。

食事は柔らかく煮た豆と粥。

医師が状態を確認し、少しずつ食べさせた。

「若い頃は、俺が荷車を引いていた」

と老人が言った。

「今じゃ、扉まで行くこともできん」

「荷車を引いた人がいたから、今の道があるんでしょう」

老人は何も言わず、粥を口へ運んだ。

診療所へ戻ると、配給係の青年が戸口で待っていた。

「受領印を押したのは俺です。家族が持ち帰ると思っていました」

俺は彼を責めるより、本人が受け取った日を別欄に書こうと提案した。

青年は震える指で帳簿を開いた。

二日目、訪問配達の協力者は十二人に増えた。

配給所の列に並ぶ人の中から、近所の老人の分も届けたいという申し出が出たのだ。

だが俺は、代理受領を無条件には認めなかった。

本人の同意と受領確認が必要だと説明した。

「信用してないのか」

と男が怒った。

「信用しているからこそ、あとで疑われない記録を残したいんです」

男はしばらく考え、紙に名前を書いた。


三日後、八十六人のうち八十一人に食料が届いた。

残る五人は転居したと記されていたが、医師と町役場はその記録を鵜呑みにせず、実際の所在を調べ始めた。

配給所の責任者は、新しい帳簿を見て深く息を吐いた。

初日の訪問記録を配給所の帳簿と突き合わせると、受領印だけが先に押されていた家が分かった。

俺は配達完了の条件を書き直した。

「受領済みの印だけで、仕事が終わった気になっていた」

翌日からは受領印のある家も抜き取り確認し、本人へ届いたかを聞くことにした。

「俺も最初は、倉庫から出したら配達完了だと思っていました」

夕方、訪問先の老人から一枚の紙が届いた。

震える字で、『明日も生きていてよいと思えた』と書かれていた。

俺は紙を折り、帳簿の間に挟んだ。

数字の向こうにいる一人を、見失わないために。

配達を終えた青年は、空になった袋を数えながら言った。

「列が短くなったから、みんな食べられたと思っていました」

「俺もだ。けれど、まだ訪ねていない家がある」

青年が指したのは坂の上の一軒だった。

転居した五人の一人と記された住所だが、隣人は

「引っ越していない」

と証言した。

名簿の転居情報そのものが誤っていたのだ。

俺たちは医師を呼び、日が暮れる前に坂を上った。

隣人の立ち会いで戸を開けると、寝台に老女が横たわっていた。

医師が脈を確かめ、俺は水を取り出した。

老女は目を開けたが、椀を持つ力も残っていない。

「受け取ったって、書いてあるのに……」

青年は帳簿の印を消そうとした。

俺はその手を止めた。

「この人は転居していない。まず名簿を直して、今日の訪問を記録しよう」

医師の指示で粥を少しずつ口に運ぶ。

老女の喉が動き、青年はようやく息を吐いた。


翌朝、訪ね直すと窓が開いていた。

「昨日は風の音も分からなかったよ。今日は朝だと分かる」

老女は青年を呼び止めた。

「隣のお爺さんにも寄っておくれ。あの人も列には並べないから」

青年は一度だけ振り返った。

「昨日、印を押したときは、届けたつもりでした」

老女は首を横に振った。

「間違えたなら、次は戸を叩いておくれ。返事がなくても帰らないで」

青年は老女に頼まれた隣家を、その日のうちに訪ねた。

戸を叩いても返事はなかった。

いつもなら転居扱いの名簿を見て帰っていたかもしれない。

だが青年は隣人に声をかけ、医師を呼んだ。

戸を開けると、寝台のそばで老人が倒れていた。

医師が脈を確かめる間、青年は椀を洗い、粥が冷めないよう布で包んだ。

老人が目を開けると、青年は受領印を押さずに尋ねた。

「少し、食べられますか」

老人はかすかに頷いた。

匙が二度、三度と動くのを確かめてから、青年は訪問表に受け渡しの時刻と医師の名前を記した。

隣家の老女からの伝言も渡す。

「明日の朝は、窓を開けておくよ」

老人は椀を両手で包み、そう返した。

配給所へ戻ると、転居と記された残りの住所についても、町役場と医師の往診記録を照らし合わせた。

二つの名簿で住所が食い違う人がいた。

青年はその行に『未確認』と書き、翌朝、仲間と二組で訪ねることを決めた。

「印があるから終わり、じゃないんですね」

「そうだ。届いていない人を見つけるための表だ」

俺が答えると、青年は受領印の箱を机の端へ寄せた。


翌日の訪問先の欄だけを、手元に残した。

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