↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
役立たずと追放された俺の保存倉庫は、飢えた世界を救う最後の希望だった  作者: レモンティー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
110/110

第百十話 最後の一人に届くまで

山の十四人から、正式な返事が届いた。

『出生の届け出は受理されました。

土地のことはまだ審査中です。

食料は今週も届いています』

ロウの字だった。

最後に小さく、『ニノが毎日、次便の時刻を確かめています』とある。

俺は紙を畳み、共同倉庫の壁に掛かった地図を見た。

新しい印が増えている。

だが、空白はまだ残っていた。

「全部、見つけられたと思う?」

ミリが尋ねた。

「いや。見つけていない人は、見つけていないとしか言えない」

「じゃあ、終わらないね」

「終わらない。でも、続けられる」

新しい食糧便の会議には、各地の代表が集まった。

救援を受けた村、買い物便を利用する集落、医師、御者、役所の担当者。

全員が同じ意見ではない。

「登録のない届け先を増やしすぎれば、横流しが起きる」

監査官が言った。

「だからといって、書類がそろうまで飢えさせられない」

ロウが返した。

カイトは二人の間に地図を置いた。

「届け先を確かめる仕事と、食料を急いで運ぶ仕事を分けましょう。どちらの記録も残す。食い違いがあれば調べる。でも、調べるために食事を止めない」

それは王宮で始まった試行を、もっと小さな場所にも使えるようにする提案だった。

会議では、失敗した例も隠さず出した。

無人の小屋へ便を出しかけたこと。

袋の数だけ見て重量の違いを疑ったこと。

危ない道を通ろうとして引き返したこと。

トトが言った。

「助けるつもりで間違えることもあります。だから、間違いを知らせる道が必要です」

ミリは地図の隅に、連絡先と確認日を書く欄を作った。

「届かなかったときも、何があったか書こう。受け取れなかった人が、理由を知れるように」

監査官は頷いた。

「数字を隠さないなら、試行を続けられる」

ロウは言った。

「名前を守ることも、忘れるな」

「もちろんです」

会議が終わる前、一人の女性が手を挙げた。

北の谷から来た炊事係だった。

「救援を受けるだけじゃなく、うちの村にも余ったものがあります。冬に使う乾燥野菜です。次は、山の人たちへ売れませんか」

ロウが目を丸くした。

「俺たちにも買える仕事があるのか?」

「炭焼きの道具を直せる人がいると聞きました。うちの竈も直してほしい」

誰かを助ける側と助けられる側に、ずっと分けておく必要はない。

俺は二人の話を聞きながら、最初に香草を売った日のことを思い出した。

売るものがある。

買う人がいる。

間をつなぐ道があれば、明日の食事は一度きりの施しではなくなる。


その日の夕方、ラトナ村へ戻ると、トトが荷車の前に立っていた。

「タクト、これを見て」

荷札には山の暫定救援地点の名が書かれていた。

食料のほかに、修理用の金具が積まれている。

「ロウさんたちが、今度は道具を直してくれるんだ」

「いい取引だな」

「うん。値段も、向こうと相談して決めた」

俺は受領簿を確かめた。

救援物資と売買の荷は別に記録されている。

どちらも必要で、混ぜてはいけない。

翌朝、ミリが倉庫の前で俺を呼んだ。

「タクト、今日は何をする?」

「まず、昨日届いた手紙を読む」

「配達は?」

「カイトたちが決める。俺は頼まれたら手伝う」

ミリは満足そうに頷いた。

昔なら俺は、真っ先に倉庫を開いていたかもしれない。

今は違う。

どこに何が足りないかを聞き、誰が安全に届けられるかを確かめる。

俺の能力は、その選択肢の一つになった。


昼過ぎ、山から荷車が戻った。

ロウの作った小さな木箱が積まれていた。

中には、ニノが描いた地図が入っている。

山の小屋が四つ描かれ、その間に細い道がある。

隅には赤ん坊を抱いたセラと、丸い太陽。

裏に字が書かれていた。

『ここに、ぼくたちがいます』

俺はしばらくその紙を見つめた。

地図に名前がないからといって、人がいないわけではない。

名前を書いたからといって、すべての問題が消えるわけでもない。

それでも、誰かがそこにいると分かれば、道を探すことができる。

会議の後、フェルトが俺のところへ来た。

「山の土地の審査は、まだ結論が出ません。隣の領地との境界が古い地図と合わないのです」

「いつまでかかりますか」

「分かりません。ですが、次の審査日と担当者は決まりました。ロウさんたちにも直接伝えます」

俺は頷いた。

「食料の便は続けられますか」

「緊急救援地点としての登録は継続できます。土地の争いとは分けて扱います」

全部が解決したわけではない。

それでも、解決していないことを隠さず、食事を止めずに待てる。

最初に山へ行った日のロウに、聞かせたい返事だった。

トトは新しい御者の訓練を始めていた。

荷札の読み方、道の危険を知らせる方法、帰着時刻の記録。

「一番大事なのは?」

若い御者が尋ねる。

「届けること」

と別の御者が答えた。

トトは首を振った。

「届けられないとき、黙って消えないこと。危ないなら引き返して、待つ人へ知らせること」

俺は遠くから聞いていた。

昔の俺なら、まず最短の道を教えただろう。

今のトトは、帰ってくる道から教えている。

ミリは小さな箱を持ってきた。

中には、山の人々が送ってきた修理用の木札が入っている。

「これ、配達の記録に使えるかな」

「どう使う?」

「荷が着いたら一枚、届かなかったら別の色。字が読めない人でも分かるように」

俺はすぐに褒めようとして、手を止めた。

「色が見分けにくい人は?」

ミリは考えた。

「形も変えよう。丸と三角にする」

「いいな。使う人にも確かめよう」

彼女は箱を抱えて走っていった。

俺の答えを待たず、現場へ聞きに行くために。

山の地図を見せに来たニノは、後日こんな言葉を添えていた。

『ここにいるって言ったら、だれかがきいてくれた』

俺はその紙を、最初のラトナ村の帳面と一緒にしまった。

四十七人から始まった道は、百の村を通り、名前のない十三人のところへつながった。

だが数が増えたことだけが成果ではない。

誰かが困ったとき、助けてと言える。

助けられないときは、理由を知らせられる。

受け取った人が、次は別の人へ手を伸ばせる。

その一つずつが、俺の倉庫には入らないものだった。

夕方、トトが鐘を鳴らした。

新しい便が出発する合図だ。

御者たちは荷を数え、道の状態を確かめ、遅れたときの連絡先を確認した。

ミリは荷札を渡し、カイトは若い御者に言った。

「危ないと思ったら、引き返していい」

「はい。帰って報告します」

荷車が動き出す。

俺は見送るだけだった。

荷車の音が遠ざかると、トトが小さな紙包みを差し出した。

「覚えてる? 最初に俺が村へ案内した日」

中には、乾いた木の実が一つ入っていた。

「腹が減ってたのに、半分こしてくれた。あの日、俺は食べ物だけじゃなくて、明日もあるって思えたんだ」

トトは木の実を指で転がした。

「今度、山のルカが大きくなって誰かに食べ物を分ける日が来たら、きっと同じことを思うよ」

ミリが笑った。

「今度は私たちが、まだ知らない子に届ける番だね」

俺は木の実を手のひらに乗せた。

五百キロの倉庫に入れるほどのものではない。

けれど、最初の一日から今日まで、ずっと運んできたものがそこにある気がした。

「俺の仕事、なくなりそうだな」

「なくならないよ」

トトは首を振った。

「次に誰かが困ったら、今度は俺たちが一緒に考えるんだ」

俺は木の実を包み直し、共同倉庫の棚に置いた。

トトは棚の前でしばらく動かなかった。

「これ、最初の便で渡したものと同じ木から拾ったんだ」

「そうだったのか」

「その木、今年は実がたくさんなった。みんなで分けても、まだ残ったよ」

俺は包みの小さな重さを確かめた。

かつて一つの食事を待っていた子が、今は誰かに分けられる実りを持っている。

大きな倉庫を満たすより、そのことが嬉しかった。

誰かがまた出発するとき、持っていけるように。

ミリはその横に小さな札を立てた。

『最初の便から、次の便へ』

俺の名前は書かなかった。

それが少しだけ誇らしかった。

そのとき、別の村から小さな伝令が駆けてきた。

「地図にない家があるんです。見に来てもらえますか」

俺は伝令に水を渡した。

「まず座って、何を見たのか教えてくれ」

倉庫の表示は閉じたまま。

俺の前には、まだ知らない誰かの話がある。

最後の一人に届くまで、俺たちの仕事は続いていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。