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役立たずと追放された俺の保存倉庫は、飢えた世界を救う最後の希望だった  作者: レモンティー


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第百九話 俺がいなくても届く食料

熱を出したのは、俺だった。

北と西の報告がそろった翌朝、立ち上がろうとして目の前が暗くなった。

「タクト、顔が赤い」

ミリが額に触れ、すぐに医師を呼んだ。

疲れが重なっているという。

俺は寝台へ戻され、数日は遠出をしないよう言われた。

「今日は会議がある。北と西の報告も聞かなきゃ」

「会議なら私たちがやるよ」

ミリの声はいつもより強かった。

俺は反論しかけて、やめた。

百話かけて作った仕組みが、俺の発熱一つで止まるなら、まだ完成していない。

昼前、山の十四人のところで食料が遅れていると知らせが来た。

東の尾根の道が再びぬかるみ、荷車が詰所まで入れない。

「俺が倉庫で運べば」

寝台から起きかけた俺を、トトが押し戻した。

「倉庫があっても、熱のある人が山道を歩いたら危ないよ」

「でも」

「俺たちがいる」

トトは地図を持って部屋を出た。

俺は天井を見つめた。

任せると決めたはずなのに、動けないと分かると怖くなる。

会議にはカイト、ミリ、トト、詰所の番人が集まった。

俺は隣の部屋から声だけを聞いていた。

「東の道は使えない。西は?」

「崖の下が危険。雨が止むまで入らない」

「なら、山の人に残量を聞こう」

「尾根の煙で伝えられるのは、危険か安全かだけだ」

ミリが提案した。

「麓の詰所まで使者が来られるなら、短い伝言を受け取れる。無理なら、今日は移動しない」

俺は口を挟みたくなったが、黙っていた。

夕方、山からロウの使いが着いた。

十四人には二日分の食料がある。

セラとルカは医師の見守りのもと落ち着いている。

ただし、雨が続けば薪が足りなくなる。

カイトはすぐに食料便を出さなかった。

「必要なのは今夜の食料じゃなく、雨が止んだ後に運べる薪と、医師の連絡だ」

詰所の番人が安全な薪置き場を教えた。

御者たちは麓で荷をまとめ、天候の回復を待った。

「何も運ばないのか」

俺は思わず尋ねた。

カイトは戸口から答えた。

「今は運ばない。今夜、無事に眠れることも仕事だ」

夜、ミリが俺の部屋へ来た。

「心配?」

「かなり」

「私も。だけど心配だからって、みんなを急がせたら、危ない道へ行かせちゃう」

彼女は帳面を開いた。

山の残量、天候の見通し、連絡時刻、次の判断をする人の名が書かれている。

「タクトがいつも書いてたことだよ」

「俺は自分でやる方が簡単だと思ってた」

「簡単だった?」

「いや。何度も間違えた」

ミリは笑った。

「じゃあ、私たちにも間違えたら直す時間をちょうだい」

俺は頷いた。


翌朝、雨が上がった。

カイトは道を見に行ったが、崖の亀裂を見つけて引き返した。

その報告を聞いたとき、俺は胸が締めつけられた。

もし昨日出発していたら、どうなっていたか分からない。

トトが別の案を出した。

「山の人たちが使ってた炭焼き道を、番人と一緒に調べよう。無理なら、食料は今ある分で持つ。医師には状況だけ知らせる」

調査には一日かかった。

安全な場所が確認できるまで、誰も荷を運ばなかった。

二日後、麓の詰所に荷車が着いた。

そこから先は、山の人々が交代で運べる量だけを持ち上げた。

ロウは受け取った薪を数え、オルナが食料の残量を確かめた。

「タクトは?」

ニノが尋ねると、トトが答えた。

「熱を出して寝てるよ」

「じゃあ、ぼくが手紙を書く」

届いた紙には、大きな字でこう書かれていた。

『きょうはこない日って、ちゃんとわかった。

だからこわくなかった』

俺はその紙を何度も読んだ。

寝台のそばには、最初に王宮でもらった銀貨を数えたときの古い帳面があった。

角が擦れ、表紙は何度も濡れている。

俺はそれを開き、最初のページを読んだ。

『四十七人。

今夜の食料は足りない』

あのころは、足りないという事実を書くことさえ怖かった。

今も怖さは消えない。

だが、足りないと分かれば、誰かに頼める。

俺は寝台の上で、久しぶりに何も指示しない一日を過ごした。

ミリが持ってきた報告には、赤い印が付いていた。

「何かあったのか」

「荷車の車軸が傷んでる。今日は出さないって決めた」

「代わりは?」

「隣村に頼んだ。でも向こうも無理なら、届け先へ遅れるって知らせる」

俺は思わず笑った。

「そんなことまで、もう決めてるのか」

「タクトが寝てるから、決めないと進まないんだよ」

彼女はそう言って、湯の入った器を置いた。

夜、トトが部屋へ来た。

「山の道、見に行きたかった?」

「行きたかった」

「でも行かなかったね」

「行けなかったんだ」

トトは首を振った。

「違うよ。熱があるって言われて、ちゃんと休んだ。昔のタクトなら、無理してたと思う」

俺は返事に困った。

休むことまで褒められるとは思わなかった。

「俺がいないと困ることは?」

「あるよ。タクトしか知らない話もある。でも、困ったら聞ける。いなくても全部止まるわけじゃない」

その答えが、今の俺には十分だった。

二日目の夕方、山の使いから小さな包みが届いた。

中には乾いた木の実が入っていた。

『タクトも食べて。

ニノより』

俺は一つ口に入れた。

甘くもない実だった。

最初にトトがくれた木の実を思い出す。

あのとき俺は、何も持たない子供から食べ物を分けてもらった。

今度は、俺が動けないときに、山の子が食べ物を分けてくれた。

「次に会ったら、ありがとうって言わないとな」

俺は包みを閉じた。

助ける側に立ち続けなくても、誰かの手を借りていいのだと、ようやく思えた。

医師は帰り際、俺に言った。

『熱が下がっても、急に山道へ出ないでください』

俺は素直に頷いた。

寝ている間も食糧便の車輪は回っていた。

俺が休む日を予定に入れることも、これからの仕組みには必要なのだろう。

ミリはその言葉を聞き、俺の仕事の欄に初めて『休養』と書き込んだ。

窓辺に置いた地図には、俺が知らない筆跡が増えていた。

新しい御者たちが、危ない道と安全な水場を書き足したのだ。

俺はその地図を閉じず、次の人が続きを書けるよう机に広げたままにした。

熱が下がったころ、カイトが受領書を持ってきた。

「全部届いた?」

「必要な分だけ。無理な分は次便にした」

「俺がいなくても?」

言ってから、ひどく身勝手な問いだと思った。

皆が雨の道を歩いている間、俺は寝台の上で、失敗したらどうしようと怯えていただけだ。

「いないから、みんなで相談した」

カイトは受領書を広げた。

そこには俺の筆跡が一つもなかった。

トトの確認印、ミリの配分記録、御者の引き返した理由。

どれも、俺が書くより具体的だった。

俺は笑ってしまった。

胸の奥が熱くなり、笑っていなければ泣いてしまいそうだった。

「一つだけ、悔しいな」

カイトが顔を上げた。

「何が?」

「俺もその場で、みんなと迷いたかった」

「次は一緒に迷えばいい。でも熱がある日は寝てろ」

その当たり前の言葉に、俺は目を伏せた。

任せることは、もう自分が必要ないと認めることではない。

必要なときに誰かを頼り、誰かに頼られることなのだ。

王宮で役立たずと言われた能力を、俺は長い間、役に立つと証明しようとしてきた。

だが今は、俺が動けない日にも誰かが食事を取れることの方が、ずっと嬉しい。

窓の外では、次の荷車が出発していた。

俺は寝台の上から、その車輪の音を聞いた。

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