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未登録の魔法少女  作者: 浅川


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第三百四十話

 郊外の古い工場の地下に、白い蒸気が、もうもうと立ち込めていた。

 錆びた配管も、埃を被った機械も、すっかり湯気の向こうに霞んでしまい、天井の照明だけが、ぼんやりとした光の輪になって浮かんでいた。

 蒸気の真ん中で、紅い髪の少女と白銀の髪の少女が、互いに武器を突きつけ合ったまま、ずぶ濡れになって睨み合っていた。


「……あんたのせいよ」


「……あなたのせいよ」


 ナンバー3の長槍の穂先からは、消えかけた炎が、じゅうじゅうと音を立てて煙を上げていた。

 ナンバー2の太刀の刃に張りついていた氷は、半分ほど溶けて、床に水溜まりを作っていた。

 二人で並んで踏み込もうとした、その最初の一歩で、炎と氷が正面からぶつかって、地下じゅうを蒸気で満たしてしまったのだった。

 蒸気の向こうでは、別の騒ぎが起きていた。


「遅い! 遅い遅い遅い!」


 翠の髪のナンバー6が、槍を抱えて地下の端から端までを一瞬で駆け抜けては、また戻ってきていた。

 その間、琥珀の髪のナンバー7は、大槌を両手で構えた姿勢のまま、最初の位置から一歩も動いていなかった。

 ナンバー6が何度目かの往復を終えて戻ってきた時、ナンバー7は、ようやく大槌を振り上げようとしていた。


「もういい! あたし一人で行く!」


 ナンバー6は、ナンバー7を置き去りにして、蒸気の中へ消えていった。

 ナンバー7は、振り上げかけた大槌を、ゆっくりと下ろした。

 眉間の皺が、一本だけ深くなった。

 地下の反対側では、金色の光の霧が、蒸気に混ざって渦を巻いていた。


「さあ、ナンバー5。わたくしの霧の中から、あなたの刃を——」


 ナンバー4が、芝居がかった仕草で両手を広げた、その時だった。

 霧の中を、細い水の刃が一筋、ひゅっと横切っていった。

 ナンバー4の金色の髪の先が、はらりと数本、床に落ちた。


「……わたくしの、髪が」


「……見えなかった」


 霧の外から、ナンバー5の淡々とした声が返ってきた。

 ナンバー4は、床に落ちた自分の髪を見下ろして、わなわなと肩を震わせた。


「わたくしの髪がああああっ!」


 その悲鳴を聞きつけたように、紫の髪のナンバー1が、壊れた機械の陰へ跳ねるように駆け寄っていった。

 膝を抱えて座っていたナンバー8の首に、両腕を回してしがみつく。


「ねえねえ、ナンバー8! あたしと組も!」


「……離れろ」


「雷じゃないけど、ナンバー8の銃、ぱんって音がいいんだもん! あたし、ああいう音、好き!」


「……離れろって」


 ナンバー8が、首に回された腕を引き剥がそうとしていると、蒸気の中から、白銀の髪がぬっと現れた。

 ずぶ濡れのナンバー2が、太刀を胸に抱えたまま、二人の前に立っていた。

 頬が、みるみるうちに赤くなっていった。


「ナ、ナンバー8は……」


 ナンバー2は、そこまで言いかけて、口をつぐんだ。

 ナンバー1が、きょとんとした顔でナンバー2を見上げた。


「なあに、ナンバー2?」


「……なんでもない」


 ナンバー2は、くるりと背を向けて、蒸気の中へ戻っていった。

 ナンバー8は、ようやくナンバー1の腕から抜け出して、深いため息をついた。


「……どっちも、嫌だ」


 一段高くなった場所で、無響は、目を閉じたまま、地下に満ちた騒ぎを聴いていた。

 蒸気が少しずつ晴れていく中で、温度のない声が、静かに落ちた。


「組みは、私が決める」


 ナンバーズの騒ぎが、ぴたりと止まった。

 だが、無響は、それ以上何も言わなかった。

 誰と誰を組ませるのかも、いつ決めるのかも告げないまま、また、目を閉じた。

 壊れた機械の陰で、ナンバー8は、乱れた襟元を直しながら、晴れていく蒸気の向こうを見つめていた。

 今は、滅茶苦茶だった。

 だが、この八人が組み方を覚えた時のことを考えると、背中に冷たいものが走った。



 そんなことが起きているとはつゆ知らず。

 昼休みの教室には、春の日差しが窓から斜めに差し込んでいた。

 零が弁当箱の蓋を開けた途端、前の席の椅子がくるりと反転して、狭間稔が身を乗り出してきた。


「零! お前、昨日の『星降る夜のエトワール』、見たか!」


「……いや、まだ録画したまま」


「何やってんだよ! 今季の覇権だぞ、あれは!」


 稔は、弁当そっちのけで、スマートフォンの画面を零の目の前に突きつけた。

 画面には、星の形の杖を構えた、桃色の髪の魔法少女のアニメイラストが映っていた。


「三話で主人公が覚醒するんだけどさ、その時の変身バンクが、作画、神なんだよ。三十秒ずっと髪の毛の一本一本まで動いてて——」


「待て」


 零は、箸を止めて、稔の顔の前に手のひらを突き出した。


「俺、まだ一話しか見てないんだよ」


「おう。だから三話の覚醒シーンが——」


「だから待てって」


「いや、覚醒するのは別にネタバレじゃないだろ。魔法少女ものなんだから、どうせ覚醒するんだし」


「どうせ覚醒するのと、三話で覚醒するのは、全然違うんだよ」


 零は、低い声で言った。

 録画を見る時間がないからこそ、まっさらな状態で見られる一話一話を、零はそれなりに楽しみにしていたのだった。

 稔は、少しだけ気まずそうに頭を掻いた。


「分かった、分かった。覚醒の話はもうしない」


「頼むぞ」


「その代わり、二話の話だけさせてくれ。二話のラストがヤバいんだよ」


「二話も見てない」


「大丈夫、核心には触れないから。……いや、あのさ、相棒の妖精いるだろ。一話で主人公に杖を渡した、あのふわふわの」


「……いるな」


「あいつ、実は最初から敵の幹部だったんだよ」


 教室の空気が、一瞬、止まったような気がした。

 零の手から、鶏の照り焼きが、ぽろりと弁当箱の中に落ちた。


「…………」


「…………あ」


「核心に、触れないんじゃなかったのか」


「いや、今のは、その、勢いで」


「勢いで一番でかいのを言うな!」


 零は、思わず机を叩いて立ち上がりかけた。

 近くの席でパンを齧っていたクラスメイトたちが、何事かと振り返った。

 稔は、両手を顔の前で合わせて、必死に頭を下げた。


「悪い! マジで悪い! あの、ほら、知ってから見ると、伏線の張り方がすげえ分かって二度おいしいっていうか——」


「一度目を返せ」


「……はい」


「あと、そのスマホの画面もしまえ。サムネイルに妖精が悪い顔してるのが映ってる」


「あ、ほんとだ」


 稔は、慌ててスマートフォンを裏返して、机の上に伏せた。

 零は、深いため息をついて、弁当箱の中に落ちた照り焼きを、箸で拾い直した。

 夜ごとに大剣を握って、本物の魔獣や、自分と同じ顔をした少女たちと斬り結んでいる身には、画面の中の魔法少女たちの戦いは、どこか遠い国のお伽噺のようなものだった。

 それでも、そのお伽噺をまっさらな気持ちで見られる時間は、零にとって、数少ない息抜きの一つだったのだ。

 それが、昼休みの五分で、一つ潰された。


「……三話以降、俺の前でエトワールの話は禁止だからな」


「えっ、それは無理だろ。来週の四話、絶対ヤバいって予告で——」


「稔」


「……禁止で、いいです」


 稔は、しゅんと肩を落として、ようやく自分の弁当に手をつけ始めた。

 その横顔があまりにしょげていたので、零は、少しだけ笑ってしまった。

 昨夜の焦げた中庭のことを、その間だけは、すっかり忘れていた。


 弁当を半分ほど食べたところで、稔は、ふと零の顔をまじまじと見た。


「お前さ、最近ずっと目の下に隈あるぞ。ちゃんと寝てんのか」


「……寝てるよ。たぶん」


「たぶんって何だよ」


 稔は呆れたように言ったが、それ以上は追及しなかった。


 予鈴が鳴る直前、担任が教室に入ってきて、薄い紙の束を配り始めた。

 回ってきたのは、進路希望調査票だった。

 稔は、受け取るなり、迷いもなく第一志望の欄にペンを走らせていた。


「お前、もう決めてんの?」


「おう。アニメーションの専門学校。作る側に回るんだ、俺は」


 稔は、得意そうに胸を張った。

 零は、自分の手元の調査票を見下ろした。

 第一志望も、第二志望も、空欄のままだった。

 母を守ること。家族の弁当を作ること。夜ごとに大剣を握ること。

 今の自分を形作っているものは、どれも、この紙の欄には書き込めないものばかりだった。


 その日の夕方。

 中州には、川面から立ち昇る薄い霧が、葦の間をゆっくりと流れていた。

 砂利の上に立った澪は、両手を胸の前で丸く合わせ、目を閉じていた。

 手のひらの間で、空気が、静かに回っていた。

 その中心に、澪は、小さな炎を一つ灯した。

 炎は、回る空気の籠の中で、風に煽られることもなく、まっすぐに燃え続けていた。

 三日前の夜、幹線道路の上で、ナンバー6の速さに翻弄されながら、それでも一度も消えなかった炎だった。


「ええ籠じゃ」


 流木に腰掛けたヴィルヘルミナが、湯気の立つ水筒の蓋を両手で包みながら言った。


「籠の目が、ずいぶん細かくなった。……ひと月前のおぬしなら、そこで炎が三回は消えとる」


 澪は、目を開けて、手のひらの間の炎を見下ろした。

 それから、ふっと息を吹きかけて、炎と籠を一緒に消した。


「……ねえ」


 澪は、ヴィルヘルミナのほうを振り返らずに言った。


「その集まりに行ったら、私は、何ができるようになるの」


 ヴィルヘルミナは、水筒の蓋に口をつけて、ゆっくりと茶をすすった。


「風を籠にできる者は、いずれ嵐も籠に入れられるようになる」


 ヴィルヘルミナは、川面に流れる霧を見つめながら言った。


「炎も、水も、雷も、籠の中で好きなように飼い慣らせる。……いずれは、誰かの魔法そのものを、籠に閉じ込めることもできるじゃろう」


「すごいのね」


「その分」


 ヴィルヘルミナは、蓋を膝の上に置いた。


「家族と過ごす時間は、短うなる。わしらの集まりは、遠いところにある。年に何度も帰れるもんではない。……それに、籠を極めた者は、たいてい、年を取るのを忘れてしまう」


 澪は、黙ってヴィルヘルミナの横顔を見た。

 可憐な少女の顔だった。だが、その目の奥にあるものは、どう見ても、少女のものではなかった。


「……零は、あの時、本気で断ったのよね」


「本気じゃったのう」


「弁当を五つ作らないといけないから、って。……あの時は、冗談だと思ってた」


「あやつは、冗談で首を振る男ではないぞ」


 澪は、笑おうとして、笑えなくなった。

 弁当を五つ。

 家族の数だった。

 弟は、時々、ひどく遠くを見るような目をする。夜に部屋の明かりが消えていても、朝には、誰よりも早く台所に立っている。

 その理由を、澪は知らなかった。

 知らないまま、それでも弟が「家族」を何より先に置いていることだけは、分かっていた。


「……もう少しだけ、待って」


 澪は、川面に目を落として言った。


「まだ、決められない」


「ええとも」


 ヴィルヘルミナは、水筒の蓋に新しい茶を注いで、澪に差し出した。


「わしは、待つのは得意じゃ。……百年ほど、待っとったこともある」


 その夜の三神家の食卓には、零が作った鰆の西京焼きと、春キャベツの浅漬けと、豆腐と若布の味噌汁が並んでいた。

 五郎は、ビールのグラスを片手に、上機嫌で鰆をつついていたが、ふと思い出したように箸を止めた。


「そういえば、澪。ミナちゃんの話だけどな」


「……何よ」


「父さんは、反対だからな。澪がどこか遠くへ行くのは」


「まだ何も決めてないって言ってるでしょ」


 澪は、味噌汁の椀を持ったまま、むっとして答えた。

 ヴィルヘルミナは、浅漬けをぽりぽりと噛みながら、知らん顔をしていた。

 玲奈が、二人の顔を交互に見比べて、肩をすくめた。

 奈々美は、湯呑みに茶を注ぎながら、何気ない調子で言った。


「そういえば、昨日の夜、遠くで雷が鳴ってたわね」


 零の箸が、一瞬だけ止まった。


「春の雷ですって。ミナちゃんが言ってたわ」


「そうじゃ、そうじゃ」


 ヴィルヘルミナが、浅漬けを噛みながら頷いた。

 奈々美は、それ以上何も言わず、五郎の空いたグラスにビールを注ぎ足した。

 零は、何事もなかったように鰆の骨を外しながら、母の横顔を、そっと盗み見た。

 いつもと同じ、穏やかな笑顔だった。



 その夜更け、翼の家の居間には、ちゃぶ台を囲んで、八人が顔を揃えていた。

 ゴーストと緋雪が並んで座り、その向かいに、ルディアが袖で口元を隠して座っていた。

 ヴィクトリアは、白鳥が淹れた紅茶のカップを手に、ちゃぶ台の端に控えていた。

 凛花は、背筋を伸ばして正座し、奈緒は、ゴーストのすぐ隣にぴったりとくっついて座っていた。

 そして、誰も呼んでいないはずのヴィルヘルミナが、ちゃぶ台の一角に陣取って、白鳥が出した煎餅をぱりぱりとかじっていた。


「……面白そうじゃったからのう」


 誰に聞かれるでもなく、ヴィルヘルミナは言った。

 台所のほうからは、テレサとエリが、湯呑みを洗いながら小声で話す声が、かすかに聞こえてきていた。

 奈緒が、ゴーストの袖を引っ張ったまま、ヴィルヘルミナの顔をじっと見つめていた。


「……おばあちゃん」


「おう、奈緒か」


 ヴィルヘルミナは、嬉しそうに目を細めると、袂から飴を一つ取り出して、奈緒の手のひらに乗せた。


「ほれ。苺味じゃ」


「ありがとう、おばあちゃん」


 奈緒は、飴を両手で包んで、にこにこと笑った。

 その様子を見ていたルディアが、袖の陰でくすりと笑った。


「まあ、微笑ましいこと。わたくしも、おばあ様とお呼びすれば、飴を——」


「おぬしは、駄目じゃ」


 ヴィルヘルミナの目が、すっと細くなった。

 部屋の空気が、ほんの一瞬だけ、冷えた。

 ルディアは、袖で口元を隠したまま、ぴたりと言葉を止めた。


「……失礼いたしましたわ」


「分かればええ」


 ヴィルヘルミナは、何事もなかったように、また煎餅をかじり始めた。

 凛花が、小さく首を傾げて、緋雪に耳打ちした。


「……奈緒ちゃんは、いいんですか」


「そうみたいね」


 緋雪は、苦笑しながら答えた。

 白鳥が、ちゃぶ台の向こうから、ゴーストと緋雪が並んで座っている様子を、なぜか感慨深げに眺めていた。


「……二人とも、昨日は息がぴったりだったそうね。やっぱり、そういう間柄だと、違うのかしら」


「どういう間柄よ」


 緋雪が、少しだけ頬を赤くして言い返した。

 ゴーストは、何も聞かなかったことにして、ちゃぶ台の上に視線を落とした。


「本題に入るわ」


 ゴーストが、静かに口を開いた。


「昨夜、ナンバー1を退けた。でも、あれは一人で来たから勝てたの。……あの子たちが、二人で組んで来たら、話は変わる」


「組んで来る、と思われますの、我らが神」


「思うわ。一人で来て負けたなら、次は数を揃える。誰だって、そう考える」


 ヴィクトリアが、紅茶のカップを受け皿に戻した。


「昨夜の二人のやり方は、うまくいったわね。緋雪さんの氷柱で影を増やして、そこを出口にする。氷と闇の組み合わせとしては、理想的だったと思うわ」


「でも、それは向こうが雷だったからよ」


 緋雪が、首を横に振った。


「氷は雷を通しにくい。だから、地面を凍らせるだけで雷が鈍った。……相手が炎なら、氷柱はすぐに溶かされるわ」


「光も、厄介です」


 凛花が、正座した膝の上で拳を握りながら言った。


「ナンバー4の光の霧の中では、私の光の刃が、まっすぐに飛びませんでした。霧の粒に当たって、全部散らばってしまうんです。同じ光だから、迷子になるんだと思います」


「わたくしの『幽閉の楽園』を、霧にして写したのでしょうね」


 ルディアが、袖の陰で、少しだけ申し訳なさそうに目を伏せた。


「あの霧は、光を受けて広げるもの。……光で挑めば挑むほど、深くなりますわ」


 ちゃぶ台の周りに、しばらく沈黙が落ちた。

 ナンバーズが誰と誰で組むのか、それぞれがどんな連携をしてくるのか、こちらには何一つ分かっていなかった。

 ナンバー8からの紙も、今日はどこにも届いていなかった。


「お姉ちゃん」


 奈緒が、ゴーストの袖を引いた。


「奈緒も、お姉ちゃんと組める?」


「……奈緒は、ここを守るのが一番の仕事よ」


 ゴーストは、奈緒の頭にそっと手を置いた。

 奈緒は、少しだけ不満そうに頬を膨らませたが、それ以上は何も言わなかった。

 煎餅をかじっていたヴィルヘルミナが、ぽつりと口を挟んだ。


「組むというのはのう」


 皆の視線が、ヴィルヘルミナに集まった。


「相手の癖を、自分の癖にすることじゃ。……昨夜の二人がうまくいったのは、片方が相手の癖を見抜いて、もう片方がそれを、自分の動きのように使えたからじゃろう。右で受けて、半拍遅れて左。じゃったか」


 緋雪とゴーストが、同時にヴィルヘルミナを見た。

 その場にいなかったはずの者が、どうしてそれを知っているのかは、誰も聞かなかった。


「向こうの写しどもは、一人一人の癖は山ほど持っとる。じゃが、隣の者の癖を、自分の癖にしたことは、まだ一度もない」


 ヴィルヘルミナは、最後の煎餅をかじって、指先についた粉を払った。


「先に覚えたほうが、勝つ。……それだけのことじゃ」


 郊外の古い工場の地下では、蒸気の名残の水溜まりが、まだ床のあちこちに残っていた。

 一段高くなった場所で、無響が、ゆっくりと目を開けた。

 温度のない目が、並んだナンバーズを、順に見渡していった。


「組みを、告げる」


 地下の空気が、張り詰めた。


「ナンバー1と、ナンバー7」


「やったあ!」


 ナンバー1が、両手を上げて跳びはねた。


「雷じゃないけど、ナンバー7、硬そうでいいね! いっぱい叩いても、壊れなさそう!」


 ナンバー7は、大槌に腕を乗せたまま、何も言わなかった。

 ただ、眉間の皺が、また一本深くなった。


「ナンバー3と、ナンバー6」


「……速いだけの奴と?」


「……熱いだけの奴と?」


 ナンバー3とナンバー6が、同時に互いを睨みつけた。


「ナンバー4と、ナンバー5」


 ナンバー4は、まだ少し短くなった髪の先を指で気にしながら、ナンバー5を見下ろした。

 ナンバー5は、無言のまま、ナンバー4を見上げた。

 二人とも、何も言わなかった。


「ナンバー2と、ナンバー8」


 ナンバー2の肩が、びくりと跳ねた。

 白銀の髪の下で、頬から耳の先までが、見る間に真っ赤に染まっていった。

 ナンバー2は、太刀を両腕で胸に抱きしめて、誰とも目を合わせないように、床の一点を見つめていた。

 壊れた機械の陰で、ナンバー8は、深い、深いため息をついた。

 無響は、それ以上何も告げずに、また目を閉じた。

 ナンバーズが三々五々散っていった後、ナンバー8は、ポケットから黒い紙を一枚取り出しかけた。

 指先に、闇を集めかけて、止めた。


(……まだ、組んだだけだ)


 どう動くのかも、いつ出るのかも、まだ何も決まっていなかった。

 決まっていないことを書いても、向こうを迷わせるだけだった。

 ナンバー8は、黒い紙をポケットに戻した。

 地下の隅で、ナンバー2が、太刀を抱きしめたまま、こちらをちらちらと盗み見ているのが、目の端に映っていた。

 ナンバー8は、もう一度だけ、小さくため息をついた。

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