第二百五十九話
月曜日の朝。
郊外の小さな一軒家の居間に、鉛筆の音がぽつぽつと響いていた。
「……じゅう、なな」
奈緒は、算数のドリルを前に、鉛筆の尻を噛んでいた。
ちゃぶ台の上には、ひらがなの練習帳と、小学二年生向けの算数ドリルが広げられている。
身体は十四歳ほどでも、奈緒の勉強は、ここから始めるしかなかった。
「奈緒ちゃん。八たす九は?」
向かいに座った白鳥が、優しく問いかけた。
「……じゅうなな」
「正解。じゃあ、次は九たす六」
「……」
奈緒は、指を折って数え始めた。
途中で分からなくなり、もう一度最初から数え直す。
三回目で、鉛筆がちゃぶ台の上に転がった。
「……白鳥さん」
「なに?」
「おそと、いきたい」
「このページが終わったらね」
「……むう」
奈緒は、頬を膨らませてドリルに向き直った。
その仕草が、昨日庭のベンチで見た玲奈にそっくりで、白鳥は思わず笑ってしまった。
その時、台所の電話が鳴った。
「はい、白鳥です。……ええ、居場所の件で。……少々お待ちください」
白鳥は、受話器を手で押さえて居間を振り返った。
「奈緒ちゃん。少し長くなるから、その間にこのページ、やっておいてね」
「……うん」
奈緒は、素直に頷いた。
白鳥は、受話器を持ったまま、廊下の奥の部屋へと入っていった。
戸が閉まる音がした。
居間には、奈緒一人が残された。
「……九たす、六」
奈緒は、指を折った。
一つ、二つ、三つ。
窓の外で、何かが鳴いた。
顔を上げると、庭の柿の木に、見たことのない鳥がとまっていた。
白と黒の、尾の長い鳥だった。
鳥は、ちょん、ちょん、と枝の上を跳ねてから、垣根の向こうへと飛び立っていった。
「……あ」
奈緒は、鉛筆を置いた。
ドリルを見た。
窓の外を見た。
もう一度、ドリルを見た。
「……ちょっとだけ」
奈緒は、縁側の窓をそっと開けた。
冷たい冬の風が、居間に吹き込んでくる。
ちゃぶ台の上で、ドリルのページがぱらぱらとめくれた。
奈緒は、靴下のまま庭に降り、玄関先の自分の靴を拾って、垣根の隙間を抜けていった。
垣根の向こうの電柱の陰で、一人の女性が、静かにその背中を見送っていた。
「……八咫三番より、本部へ」
女性は、耳元の小さな通信機に囁いた。
「奈緒様が、お一人で外出されました。……追尾いたします」
田んぼのあぜ道は、どこまでも続いていた。
奈緒は、白と黒の鳥を追いかけて、夢中で走っていた。
鳥は、電線から電線へ、木から木へと、奈緒をからかうように飛び移っていく。
「まって」
奈緒は、息を弾ませながら笑っていた。
施設の白い廊下では、こんなふうに走ったことは一度もなかった。
走れば壁に突き当たり、突き当たれば白衣の誰かに止められた。
土の匂い。枯れ草の匂い。遠くで燃やしている籾殻の匂い。
世界には、こんなにたくさんの匂いがあったのだ。
鳥が、雑木林の向こうへと消えた。
奈緒は、足を止めた。
その時。
「……?」
奈緒の紅色の瞳が、すっと細められた。
鼻の奥に、焦げたような匂いが届いた。
籾殻の匂いではない。もっと鋭くて、もっと嫌な匂い。
魔力の匂いだった。
それも、二種類。
一つは、澄んだ光のような匂い。
もう一つは、腐った沼の底から湧き上がるような、濁った匂い。
「……たたかってる」
奈緒は、雑木林の奥を見つめた。
ドリルのことも、白鳥のことも、頭から消えていた。
雑木林を抜けた先の河川敷では、激しい戦闘が続いていた。
「——右から来ます!」
「防御陣、展開!」
協会の制服を纏った魔法少女たちが、四人がかりで一体の巨大な影を囲んでいた。
体長は、優に十メートルを超えている。
猪のような巨体に、節くれ立った角が三本。全身を覆う黒い剛毛の隙間から、濁った紫色の光が脈打っていた。
——ブオオオオオッ!!
魔獣が咆哮し、地面を蹴った。
巨体が、信じられない速度で突進してくる。
防御陣が紙のように砕け、二人の魔法少女が河原の石の上に叩きつけられた。
「湊さん! 佐伯さん!」
「……だ、大丈夫、です……」
「下がって! 私が引きつける!」
周防凛花が、光の剣を構えて前に出た。
協会の新たなトップエース。その剣が、陽光を束ねたように輝く。
「はああっ!」
凛花の斬撃が、魔獣の脇腹を捉えた。
だが、刃は剛毛の上を滑り、浅い傷しか残せなかった。
(……硬い)
凛花は、歯を食いしばった。
ただ硬いだけではない。
斬った瞬間、傷口の紫色の光が脈打ち、光の魔力を吸い込むように揺らいだのだ。
(……普通の魔獣じゃない)
魔獣が、角を振り上げた。
凛花は、紙一重で横に跳んでかわした。
背後の護岸のコンクリートが、角の一撃で粉々に砕け散る。
「隊長! 増援要請、出しました! 到着まで、あと十五分!」
「……十五分」
凛花は、荒い息を吐いた。
四人のうち二人は、もう立てない。残る一人も、防御で魔力を使い果たしかけている。
十五分、この化け物を一人で抑え続けることは、できない。
魔獣が、再び前脚で地面を掻いた。
紫色の光が、全身で一斉に強く脈打つ。
(……来る)
凛花は、剣を正面に構えた。
避ければ、後ろの二人が潰される。
その時。
——パキィィィンッ!!
凛花の目の前に、巨大な氷の壁がそびえ立った。
突進してきた魔獣の巨体が、氷壁に正面から激突する。
氷壁には無数のひびが走ったが、砕けはしなかった。
「……え」
凛花は、呆然と振り返った。
河川敷の土手の上に、一人の少女が立っていた。
白鳥のお下がりの紺のカーディガンに、泥のついた靴。
そして、左手に纏った白い冷気と、右手に揺らめく紅蓮の炎。
紅色の瞳が、まっすぐに魔獣を見据えていた。
「……奈緒、さん」
「あ、あれは……!」
倒れていた魔法少女の一人が、悲鳴のような声を上げた。
「廃工場の……偽ゴースト!?」
「なんで、こんなところに……!」
「総員、警戒を——」
「待って!!」
凛花が、鋭く叫んだ。
「攻撃しないで。……あの子は、敵じゃない」
「で、でも、隊長!」
「私が責任を持ちます。……今は、目の前の魔獣に集中して」
凛花の声には、一片の迷いもなかった。
隊員たちは、戸惑いながらも頷いた。
奈緒は、土手から軽やかに飛び降りた。
そして、凛花の隣に、とん、と着地した。
「……りんか、さん?」
「……私のこと、覚えてるの?」
「うん。こうじょうで、ひかりのけん、ふってた人」
奈緒は、こくりと頷いた。
凛花の胸が、ずきりと痛んだ。
あの夜、この子に向けて、殺すつもりで剣を振るったのだ。
「……あの時は、ごめんなさい」
「?」
「私、あなたを——」
——ブオオオオオッ!!
氷壁の向こうで、魔獣が咆哮した。
ひび割れた氷壁が、内側から砕け散る。
「あとで」
奈緒は、凛花の言葉を遮った。
その声は、幼い子供のものだった。
だが、その目は、戦う者の目だった。
「いまは、あれ」
「……ええ」
凛花は、剣を握り直した。
「あの魔獣、光の魔力を吸い込むの。私の剣だけじゃ、通らない」
「……わかった」
奈緒は、両手を広げた。
左手の冷気が、白い霧となって河原を覆っていく。
右手の炎が、蛇のようにうねりながら膨れ上がっていく。
「こおらせて、もやす」
奈緒が、地を蹴った。
速い。
凛花の目でも、辛うじて追えるほどの速度だった。
奈緒は、突進してくる魔獣の正面から、ほんの半歩だけ横にずれた。
すれ違いざまに、左手を魔獣の前脚に叩きつける。
——ピキィィィッ!
魔獣の前脚が、根本から凍りついた。
巨体が、つんのめるように体勢を崩す。
奈緒は、そのまま魔獣の背中を駆け上がった。
右手の炎を、凍りついた前脚の付け根へと叩き込む。
——ドォォォンッ!!
凍結と灼熱。
急激な温度差に、魔獣の剛毛と皮膚が、ばりばりと音を立てて裂けていった。
——ブギャアアアッ!?
魔獣が、初めて苦痛の声を上げた。
裂けた皮膚の下で、紫色の光が激しく明滅している。
凛花は、息を呑んでいた。
(……この、戦い方)
氷で動きを止める。炎で砕く。
相手の突進を、最小限の動きでいなす。
幼い頃から、何度も何度も、食い入るように見つめ続けてきた背中。
(お姉ちゃんの……)
廃工場の夜にも、同じものを見た。
あの時は、姉の力を汚されたと思った。
だが、今は違う。
目の前の少女は、誰かを守るために、姉と同じ剣筋で戦っていた。
「りんかさん!」
魔獣の背中の上から、奈緒が叫んだ。
「ここ! ひかってるとこ!」
奈緒が指さしたのは、裂けた皮膚の奥で、ひときわ強く脈打つ紫色の光だった。
魔獣の心臓の真上。
光の魔力を吸い込んでいた、源のような場所。
「わたしが、こおらせる! そしたら、きって!」
「……分かった!」
凛花は、剣に全魔力を注ぎ込んだ。
光の刃が、太陽のように膨れ上がる。
奈緒が、両手を紫色の光に押し当てた。
「——こおれ」
冷気が、紫色の光を包み込んだ。
脈動が、鈍くなる。
光を吸い込む力が、凍りついていく。
「今!」
凛花が、地を蹴った。
魔獣の巨体を駆け上がり、奈緒の隣へと跳ぶ。
「はあああああっ!!」
光の剣が、凍りついた紫色の光を、真上から貫いた。
——ギィィィィィッ!!
甲高い断末魔が、河川敷に響き渡った。
魔獣の巨体が、内側から光に満たされていく。
そして、無数の光の粒子となって、冬の空へと散っていった。
静寂が、戻ってきた。
川の流れる音だけが、やけに大きく聞こえる。
凛花は、荒い息を吐きながら、河原の石の上に膝をついた。
隣に、奈緒がとん、と着地する。
「……たおした?」
「……ええ。倒したわ」
「やった」
奈緒は、泥だらけの顔で、にぱっと笑った。
凛花は、その笑顔から、しばらく目を離せなかった。
魔獣が消えた跡に、何かが落ちていた。
凛花は、それを拾い上げた。
親指ほどの大きさの、黒い結晶だった。
表面には、見たこともない紋様が刻まれている。自然にできたものではない。明らかに、人の——あるいは人ではない何かの手によって、刻まれたものだった。
(……魔獣の中に、こんなものが)
結晶は、まだ微かに、紫色の光を脈打たせていた。
凛花は、それをハンカチで包み、制服の内ポケットにしまった。
増援が到着する前に、凛花は隊員たちの応急処置を済ませた。
湊と佐伯は、骨折と打撲。命に別状はない。
「……隊長」
残る一人の船戸が、奈緒を警戒するように見つめながら口を開いた。
「あの子のことは、どう報告すれば」
「私が報告します」
凛花は、きっぱりと答えた。
「魔獣討伐に際し、民間の協力者から支援を受けた。……それだけよ」
「でも、あの子は廃工場の——」
「あの件は、政府の旧組織が起こしたことよ。あの子は、使われていただけ」
凛花は、隊員の目をまっすぐに見た。
「今日、あなたたちの命を救ったのは、誰?」
「……」
船戸は、しばらく黙り込んでいた。
それから、小さく頷いた。
「……了解、しました」
凛花は、奈緒のもとへ歩み寄った。
奈緒は、河原にしゃがみ込んで、平たい石を拾っては川に投げていた。
「奈緒さん」
「なに?」
「さっきの話。……廃工場の夜、私はあなたを斬ろうとした。本当に、ごめんなさい」
凛花は、深く頭を下げた。
奈緒は、石を持ったまま、きょとんと首を傾げていた。
「……いいよ」
「え?」
「わたしも、りんかさんのなかま、けがさせた。……ごめんなさい」
奈緒も、ぺこりと頭を下げた。
それから、顔を上げて、凛花の顔をじっと見つめた。
すん、と小さく鼻を鳴らす。
「……りんかさん」
「なに?」
「わたしと、ちょっとだけ、にたにおいがする」
凛花の呼吸が、止まった。
奈緒の中には、姉の遺伝子が流れている。
そして、凛花の中にも。
「……そう」
凛花は、震える声で答えた。
目の奥が、熱かった。
「……そう、かもしれないわね」
凛花は、奈緒の泥だらけの頬を、ハンカチの端でそっと拭った。
奈緒は、くすぐったそうに目を細めた。
その時、土手の上から、悲鳴のような声が聞こえてきた。
「——奈緒ちゃん!!」
息を切らせた白鳥が、土手を駆け下りてきた。
髪は乱れ、サンダル履きのままだった。
「白鳥さん」
「奈緒ちゃん! どこに行ってたの! 電話を終えて戻ったら、窓が開いてて、ドリルが……!」
白鳥は、奈緒の両肩を掴んだ。
その手が、激しく震えていた。
「……ごめんなさい」
「どれだけ、心配したと思って……!」
白鳥の目から、涙が零れた。
奈緒は、その涙を見て、ようやく自分のしたことに気づいたようだった。
みるみる顔が歪んでいく。
「……ごめん、なさい……」
「怪我は? 怪我はしてない?」
「……してない」
「……よかった」
白鳥は、奈緒をぎゅっと抱きしめた。
かつて番号で呼ばれていた少女が、今、別の誰かのために震えている。
凛花は、その様子を少し離れた場所から見つめていた。
白鳥が、奈緒を抱きしめたまま、凛花に気づいて顔を上げた。
「……あなたは、協会の」
「周防凛花です」
凛花は、静かに頭を下げた。
「奈緒さんに、助けていただきました。……私たち、四人とも」
白鳥は、腕の中の奈緒を見下ろした。
奈緒は、白鳥のカーディガンに顔を埋めたまま、小さく鼻をすすっていた。
「……そう」
白鳥の表情が、複雑に揺れた。
叱らなければならない。だが、この子は誰かを守ったのだ。
「奈緒ちゃん」
「……うん」
「勝手に出ていったことは、いけないことよ」
「……うん」
「でも、凛花さんたちを助けたことは、えらかったわ」
奈緒が、そっと顔を上げた。
「……えらい?」
「ええ。えらい」
白鳥は、奈緒の頭を撫でた。
「だから、帰ったら、ドリルの続き。二ページ分」
「……にページ」
「一ページは、勝手に出ていった分」
奈緒は、しばらく唸っていた。
それから、観念したように頷いた。
「……やる」
凛花は、思わず小さく笑ってしまった。
その夜。
白鳥の家の奈緒の部屋に、窓から一つの影が滑り込んだ。
漆黒のドレスを纏った少女である。
「……お姉ちゃん!」
布団の中でひらがなの練習帳を抱えていた奈緒が、跳ね起きた。
ゴーストは、唇の前に人差し指を立てた。
「しー。白鳥さんが、起きてしまうわ」
「……うん」
奈緒は、声を潜めて、ゴーストの腰にしがみついた。
「お姉ちゃん。わたし、きょう、たたかった」
「ええ。聞いたわ」
「りんかさんたち、たすけた」
「ええ」
ゴーストは、奈緒の頭を撫でた。
「よく頑張ったわね。……誰も、傷つけなかった」
「うん。お姉ちゃんとの、やくそく」
奈緒は、得意げに胸を張った。
ゴーストは、少しだけ表情を引き締めた。
「でもね、奈緒」
「……うん」
「白鳥さんに黙って、一人で出ていったのは駄目よ」
「……」
「白鳥さん、泣いていたでしょう」
奈緒の顔が、くしゃりと歪んだ。
「……うん」
「あの人は、あなたのことを本当に大事に思ってくれているの。……心配をかけては、駄目」
「……ごめんなさい」
奈緒は、ゴーストのドレスに顔を埋めた。
「もう、しない。……ドリルも、ちゃんとやる」
「ええ。約束よ」
「やくそく」
奈緒は、小指を差し出した。
ゴーストは、その小さな指に、自分の小指をそっと絡めた。
奈緒が眠りに落ちるまで、ゴーストはその枕元に座っていた。
寝息が規則正しくなったのを確かめてから、静かに窓の外へと滑り出る。
庭の柿の木の下に、一人の女性が立っていた。
昼間、奈緒を追尾していた、八咫三番である。
「——三神様」
「……今日は、ありがとうございました。奈緒を見ていてくれて」
「職務ですので」
八咫三番は、淡々と答えた。
「ご報告がございます。……本日、奈緒様と周防凛花様が討伐した魔獣について」
「……聞かせてください」
「周防様が回収した黒い結晶。協会に提出される前に、八咫一番が写しを取りました」
八咫三番は、懐から一枚の写真を取り出した。
月明かりの下に、黒い結晶と、その表面に刻まれた紋様が浮かび上がる。
「勾玉の解析によれば、この紋様は……魔獣の行動を外部から誘導するための、術式の一部と考えられます」
ゴーストの目が、鋭く細められた。
「……誰かが、魔獣を操っている」
「はい。そして、この結晶が発する魔力の波形は」
八咫三番は、僅かに言葉を切った。
「先日、設計図の流出経路の一つで、我々が追跡を断たれた地点。……そこで一瞬だけ観測された波形と、一致しております」
夜風が、柿の木の枝を揺らした。
人の気配が、途中で消える経路。
人ではない何かが、設計図を手にしている。
そして、その何かが、魔獣を操っている。
「……殿下は、何と」
「引き続き、警戒を強めるように、と。……そして、周防凛花様には、白百合の新実様を通じて、この件を共有していただくのがよいだろう、と」
「……分かりました。由鶴さんに、伝えます」
「では」
八咫三番は、一礼した。
次の瞬間、柿の木の下には、誰もいなくなっていた。
ゴーストは、白鳥の家を振り返った。
奈緒の部屋の窓は、暗く静まり返っている。
今日、あの子が駆けつけなければ、凛花たちはどうなっていたか分からない。
そして、あの魔獣が現れたのは、この家から歩いて行ける距離だった。
(……偶然、なのかしら)
ゴーストは、冬の夜空を見上げた。
星が、冷たく瞬いていた。
同じ頃。
光の届かない、どこかの暗闇の中。
人の形をした何かが、砕けた結晶の欠片を、長い指で弄んでいた。
「……氷と、炎」
温度のない声が、闇に溶けた。
「あの剣姫の力を持つ人形が、まだ生きていたか」
指先の欠片が、紫色に一度だけ脈打ち、そして静かに光を失った。




