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未登録の魔法少女  作者: 浅川


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第百六十六話

 三神家のカオスなバーベキュー大会から数日後。

 都内にある超高級ホテルの最上階。本来であれば各界のVIPしか足を踏み入れることのできない会員制のプライベートラウンジは、この日、完全に貸し切られていた。

 その重厚な革張りのソファに腰を下ろしているのは、三人の少女と女性である。

 『白百合の盾』のトップエース、羽衣緋雪。

 『福音の鐘』の最高指導者、ルディア・ロンディニウム。

 『星監』の最高指導者、ヴィクトリア・ローゼンベルグ。

 表の世界の希望と、裏社会を牛耳る闇のトップ。

 本来であれば、顔を合わせた瞬間に血で血を洗う殺し合いに発展してもおかしくない三人が、一つのテーブルを囲んで静かに紅茶を飲んでいるという、世界中の情報機関が知ればパニックを起こすような異常事態であった。


「……ヴィクトリア・ローゼンベルグ。よくもまあ、こんな目立つ場所を貸し切ったものね」


 ルディアが、カップをソーサーに置きながら黄金の瞳を細めた。


「あら。三神くんのお隣さんとして、たまにはご近所の皆さんと親睦を深めるのも悪くないでしょう?」


 ヴィクトリアが、優雅に足を組み直して微笑む。


「……親睦会なんて名目で、私を呼び出したわけじゃないでしょ。白百合の諜報班から目を掻い潜ってここに来るの、結構大変だったんだから」


 緋雪が、警戒心を隠さずに二人を睨みつけた。

 先日、河川敷での魔獣の群れとの戦闘において、緋雪はルディアとヴィクトリアの正体に完全に気づいた。

 そして、彼女たちもまた、緋雪がそれに気づいた上で「三神家の日常を守るために黙備した」ことを理解していた。


「単刀直入に言うわ」


 緋雪が、テーブルに身を乗り出して二人を見据えた。


「あなたたちが何者で、何の目的があって三神くんの周りをウロチョロしているのかは知らない。でも……三神くんやご家族に危害を加えるつもりなら、私が全力で潰すわ。白百合の全戦力を以てしてもね」


 高校生でありながら、百戦錬磨の大人二人に対して一歩も引かない緋雪の眼差し。

 それを受けたルディアとヴィクトリアは、ふふっ、と同時に笑みを溢した。


「勘違いしないでちょうだい、白百合の騎士。私たちが三神くんに危害を加える? ……あり得ないわ。彼の平穏な日常を守ることこそ、我ら福音の鐘の悲願なのだから」


 ルディアが、胸に手を当てて恍惚とした表情を浮かべる。


「その通りよ。三神くんは、我々にとっても失うわけにはいかない大切な存在(エージェント)。彼の休息を邪魔する者は、星監の総力を挙げて排除するわ」


 ヴィクトリアも、冷たい紫の瞳に決意の光を宿して断言した。

 狂信と、有能な右腕(自称)としての忠誠。

 ベクトルも動機も完全に間違っているが、「三神零を守る」という目的においてのみ、彼女たちの意志は完全に一致していた。


「……そう。それなら、話は早いわ」


 緋雪は小さく息を吐き、真剣な顔で提案した。

「協定を結びましょう。私と、あなたたちの間で」


「協定?」


「ええ。第一に、三神くんとそのご家族には絶対に手を出さない。そしてお互いの組織の干渉もしない。……つまり、『三神くんに手を出さない限りは休戦』ということ」


 緋雪の言葉に、二人のトップは静かに頷く。


「そして第二に。もしも三神くんに、私たち以外の何者かから危険が近づいた場合……あるいは、あのストーカー女(ゴースト)のような規格外の怪物が彼を脅かそうとした場合は、組織の垣根を越えて、三人が協力して防衛にあたる。……どう?」


 緋雪の提案。

 それは、表の最大勢力と裏の二大組織が、たった一人の男子高校生(と思い込んでいる)を守るために手を組むという、前代未聞の『三神家防衛協定』であった。


「……素晴らしい提案ね。神の御庭を守る最強の盾。喜んでお受けいたしますわ」


「異論はないわ。利害は完全に一致しているもの」


 こうして、高級ホテルのラウンジにて。

 当の三神零は「絶対に被弾しないエコな魔法少女になる」と決意を固めている真っ最中だというのに、彼の周囲には、いかなる魔獣やテロリストも絶対に近づけないであろう「世界最強にして過保護すぎる防衛網」が、密かに完成してしまったのである。

              

 同じ頃。

 都内の地下深く、厳重なセキュリティに守られた『魔法少女協会・日本支部』の対策本部。

 ステラ・ドロップの不正使用問題で大炎上し、世間からの激しいバッシングと有能な魔法少女たちの大量離脱(白百合の盾への移籍)に見舞われた協会は、今まさに組織の存亡をかけた大きな変革の時を迎えていた。

 薄暗い会議室の巨大モニターには、ニュース番組で華々しく活躍を報じられる羽衣緋雪と、白百合の盾のメンバーたちの映像が映し出されている。


「……市民の支持は、完全に白百合の盾に傾いています。このままでは、協会の存在意義そのものが問われかねません」 


 残存する協会幹部の一人が、苦虫を噛み潰したような顔で報告した。


「ええ。旧体制の腐敗が招いた、当然の帰結ね」 

 冷徹で、氷のように感情の起伏がない声が、会議室に響いた。

 長机の上座。かつて更迭された宮田支部長が座っていたその席には、黒いタイトスーツに身を包み、銀縁の眼鏡の奥で鋭い知性を光らせる女性が座っていた。

 国家主導の組織改革により、外部から抜擢された新たな協会の総司令官。

 新指揮官・黒部雫(くろべ しずく)である。

 彼女は、テーブルの上で両手を組み、モニターに映る緋雪の姿を冷ややかに見つめていた。


「白百合の盾……理想を掲げた小娘たちの集まりが、随分と世間を賑わせているようだけれど。国家という強固なシステムとインフラを持たない民間組織など、いずれ限界が来るわ」 


「し、しかし黒部司令。現在、我が協会には彼女たちに対抗できるエース級の魔法少女が圧倒的に不足しております。新エース部隊も先のテロで壊滅し……」


「問題ないわ」


 黒部が、冷徹な声で幹部の言葉を遮る。


「白百合の盾に対抗、いえ、凌駕するための『新規エース級』の選定は、すでに私が独自の基準で進めているわ」 


 黒部が手元の端末を操作すると、モニターにいくつかの複雑な魔力波形のデータが映し出された。


「旧体制のような、薬物に頼った粗悪な強化は行わない。徹底した才能の選別と、最も合理的で非情な訓練によって、真の『最強の盾』をこの協会で作り上げる」


 黒部の眼鏡が、モニターの光を反射して怪しく光る。


「新規のエース候補は現在選定中よ。すぐには実戦投入できないけれど……彼女たちが完成した時こそ、白百合の盾の薄っぺらい理想が崩れ去る時よ」


「……はっ! 期待しております、司令」


 幹部たちが、黒部の冷徹なカリスマ性に呑まれるように一斉に頭を下げた。

 白百合の盾と魔法少女協会。

 魔法少女界を二分する勢力の対立は、この冷酷なる新指揮官の誕生によって、新たな局面へと突入しようとしていた。

              

 表舞台で進む協会の再編と、白百合の盾への対抗策。

 裏社会のトップたちが結んだ、三神零を守るための秘密協定。

 世界が彼を中心に音を立てて回り始めていた。

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― 新着の感想 ―
協会が一生かませで草
新体制もアホなのか…魔法少女は軍人としての運用は現実的じゃないって。軍人は教導側も同等以上の実力があるから鍛え上げる事が可能なんであって、今現在まともな戦力の存在しない協会が幾ら鍛えた所で現状以上の戦…
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