表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未登録の魔法少女  作者: 浅川


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
137/163

第百三十七話

 魔法少女協会・日本支部。

 情報班トップである新実由鶴は、大型モニターに数枚の不気味な写真を投影した。それは、監視カメラが捉えた「人間の姿をした何か」の不鮮明な映像だった。


「——先日、羽衣大佐が報告してくれた裏社会の異常事態。それに呼応するように、我々にとって極めて厄介な『新たな脅威』が確認され始めている」


 会議室に集まった結衣や麗香、そして緋雪たちエース陣が、険しい表情でモニターを見つめる。


「新たな脅威、ですか?」


「ああ。……『自然発生型』の人型魔獣だよ」


 由鶴の言葉に、会議室の空気が一段と冷え込んだ。

 魔獣とは本来、動物や虫、あるいは架空の怪物のような姿をしているのが常である。人間の姿をした魔獣など、そうおいそれと現れるものではない。


「人型魔獣といえば……以前、ゴーストの交戦記録に残っていた星監の工作員、『レナード』という男がいましたね」


 副会長の麗香が、手元の資料をめくりながら言った。


「ルディア・ロンディニウムに両断された彼の残骸を我が情報班で極秘に回収・解析した結果、彼は人間ではなく、星監の魔力技術によって『人工的に合成された人型魔獣』であることが判明しました」


「その通り」と由鶴が頷く。


「星監の非道な人体実験、あるいは高度な錬金術の産物。我々はそう結論づけていた。……だが、最近都内で報告されている人型魔獣は違う。人間の負の感情が密集する都市部において、『自然発生的に』人間の姿を模倣して生まれているんだ」


「自然発生の人型魔獣……。つまり、人間に擬態して街に潜伏しているということですか?」


 緋雪が青ざめた顔で問う。


「そうだ。知能が高く、簡単な言葉すら発する個体もいる。群衆に紛れ込まれれば、我々の魔力探知でも判別が極めて難しい。……奴らが密集地帯で本性を現せば、大惨事になる」


 結衣が重々しい声で締めくくった。


「各員、パトロールの警戒レベルを最大に引き上げなさい。人型魔獣の擬態を見破るには、不自然な行動や、僅かに漏れる魔獣特有の『魔力反応』を察知するしかないわ」


 緋雪は強く頷きながら、内心で激しい焦燥感に駆られていた。


(人間に擬態する魔獣……! もし、そんなものが三神くんの通う学校やスーパーに現れたら……! 急いでパトロールを強化しなきゃ!)

              

 その頃。

 協会の懸念通り、街の日常のど真ん中に『脅威』は潜伏していた。


「……ヒヒッ。人間ドモ……美味ソウナ、人間ドモ……」


 スーパー『ヤオヨシ』の店内。

 目深に帽子を被り、マスクをした大柄な男——人間に擬態した『人型魔獣』は、夕方のタイムセールでごった返す店内を舐め回すように見ていた。

 これだけ人間が密集していれば、一気に喰い散らかすことができる。魔獣の赤い瞳が、獲物を定めて怪しく光った。

 ターゲットは、特売の『卵1パック98円(お一人様一点限り)』のワゴンに並んでいる、エプロン姿のひ弱そうな男子高校生。

 魔獣は男の姿のまま、ゆっくりと少年の背後に近づき、その鋭い爪を隠した腕を振り上げようとした——その瞬間。


「——ちょっと、そこのお兄さん。列は最後尾に並んでくださいね」


「……ギ?」


 振り返った男子高校生——三神零が、極めて冷ややかな『主夫の目』で魔獣を睨みつけていた。


「いや、分かりますよ。特売の卵は戦場です。でもね、みんなルールを守って並んでるんです。横入りはマナー違反ですよ。ほら、最後尾はあっち」


「グルル……ナメ、ルナ……!」


 人型魔獣は、擬態を解いて本性を現し、この生意気な人間を真っ二つに引き裂いてやろうと殺気を放った。

 しかし。


『……チッ』


「ヒッ!?」


 魔獣の背後から、信じられないほどの極悪な殺気が突き刺さった。

 振り返ると、鮮魚コーナーで特大のブリを捌いているパートの女性(教団の高級幹部・須藤真里)が、血まみれの出刃包丁を握りしめながら、般若のような形相で魔獣を睨みつけていたのだ。


(コイツ……神ノ気配ヲ持ツ少年ニ、割リ込モウトシタ……!? 切リ刻ンデ、ミンチニシテヤロウカ……!)


 魔獣の本能が「あの女には勝てない」と警鐘を鳴らす。

 慌てて後ずさり、レジの方へ逃げようとした魔獣だったが、今度はレジ打ちをしていた黄金の髪の女性ルディアと目が合った。


「お客様? 店内を走ると危険ですよ。……もし、彼の卵にヒビでも入れたら、この空間ごと『幽閉』して差し上げますわよ?」


 ニコリと微笑むルディアの背後に、魔獣にはハッキリと『絶対的な死の幻影(Sランクの魔圧)』が見えた。

 ヤバい。このスーパーはヤバすぎる。人間の皮を被った化物の巣窟だ。


「ガ、アァァァッ……!」


 パニックに陥った人型魔獣は、もはや獲物を喰らうことなど完全に諦め、出口に向かって全力で逃走を図った。


「あ、万引き犯だー!」


「……ん。確保する」


 しかし、出口付近でカートを整理していたゴスロリ衣装の双子(ルカ&リリア)が、楽しそうに魔獣の進路に立ち塞がる。


「お兄さんの平和なお買い物を邪魔する奴は——」


「——死刑」


 ドゴォォォン!!

 双子の放った容赦のない暗殺術(見えないほどの速さの蹴りと手刀)が、人型魔獣の急所を的確に粉砕した。

 魔獣は悲鳴を上げる間もなく、店外のバックヤードの影へと吹き飛ばされ、そのままチリとなって消滅した。

              

「いやー、最近はマナーの悪い客が多いな。万引きまで出るとか、店員さんも大変だ」


 無事に98円の卵をゲットした零は、エコバッグを手にしながら呑気に呟いた。


「でも、ここの店員さんはみんな仕事が早くて助かるよ。万引き犯も一瞬で取り押さえてたし」


「ふふっ、ありがとうございます三神くん。私たちは、お客様の『平穏』を守るのが仕事ですから」


 レジで微笑むルディアに卵の会計をしてもらいながら、零は満足げにスーパーを後にした。

 彼が去った後のヤオヨシでは、真里が「チッ、店内で血を流すわけにはいかないから我慢したが……」と包丁を洗い、双子たちが「よーし、お掃除完了!」とハイタッチを交わしていた。

              

 その数時間後。

 協会本部の情報班では、由鶴が信じられないものを見るような目でモニターを見つめていた。


「……なんですって? 都内に潜伏していた人型魔獣の魔力反応が、発生からわずか数分で『完全に消失』した?」


「はい! 戦闘の痕跡すらなく、文字通り一瞬で消え去りました!」


 オペレーターの報告に、由鶴は震える手で眼鏡を押し上げた。


「……間違いない。ゴーストですね、人型魔獣の擬態すら完璧に見破り、被害が出る前に一瞬で葬り去ったんです……!」


 魔法少女協会が警戒レベルを最大に引き上げて恐れる『新たな脅威』。

 それは、「特売への執念」と、カルト教団の「過剰な接客」の前では、ただの『マナーの悪い迷惑客』として処理される程度の存在でしかなかったのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ