第8話『溜まり場候補』
部が創設されたからと言って、すぐに部活ができるわけではない。
学校の中で調理台やシンクのある場所は家庭科室しかないが、現在家庭科室は被服部が主な活動拠点にしているらしい。
調理部の活動は、家庭科室を使うことが絶対条件だ。
なので、被服部の新たな活動拠点が選定されるまで、調理部の部活はお預けとなった。
「ねえみんな、部の結成祝いにどこか食べに行かない?」
校門を出たところで、村岡が嬉しそうに提案する。
俺は溜め息を吐いた。
こいつ、これからの状況分かってんのか?
「あのな、村岡。先生や会長が食費を出してくれるって言っても、学校から調理部に部費は出ないんだぞ。自分で作った物を自分で食って試行錯誤するには、自分の食費は自分で払うしかねえ。つまり、これから先節約した方がいいぞ。結成祝いなんてやる余裕あんの?」
捲し立てるようにそう言うと、プリアが悲しそうに言う。
「でも、結成祝いはやりたいです……」
「だよね! やりたいよね!」
プリアの同意を得て、嬉しそうな声を出す村岡。
まあ、これ以上反論して水を差すのは、さすがに空気が読めなさすぎか。
「仕方ねーな。幽霊部員だけど付き合うよ」
そう言って、今月の小遣いを計算する。
まあ、まだ何とかなるか……。
「あ、あの……」
松原が緊張しながら話す。
そういえば、このグループの中で松原が声を出すのは初めてだ。
皆が松原に注目し、松原は続けた。
「外食じゃなくて、自分たちで作って結成祝いをやれば、安く済むんじゃないかな……」
松原の発言に目を輝かせた村岡は、松原の両肩に両手を置いて言った。
「そうだよ! だって私たちは、調理部なんだから!」
盛り上がる女子3人。
すぐに同調し、結託する。
これだから女子が集まる所は、嫌いだ。
「どこでやんだよ、それ」
盛り上がる女子3人に、冷たく言い放つ。
「家庭科室が使えねえのに、どこで作って祝うんだよ?」
そう言うと、村岡が一人一人の住んでいる場所を聞き出した。
「私は北区に住んでるんだけど、プリアはどこに住んでいるの?」
「私は熱田区です」
「そっか、私と逆方向だね。松原さんはどこ?」
「東別院の近くだけど……」
「おっ、近いね。じゃあ、麦野君は?」
言いたくねえ……。
ここから徒歩10分もかからないとか、言いたくねえ……。
「松原の家でいいんじゃね? 東別院なら、歩いて20分もかからん距離だろ?」
そう言うと、松原は睨んで言った。
「ぜ、絶対ダメ! お母さんいるし、男の子なんか、家に上げれないよ!」
まあ、そうだよな……。
しかもついこの間まで険悪の間柄だったのだから尚更だ。
「で、麦野君はどこに住んでいるの?」
話を逸らそうと思ったのに、戻された。
「上前津……」
ボソッと答えた俺の声を、3人は聞き逃してくれなかった。
「えっ、めっちゃここから近いじゃん!」
「麦野君、そんなに家から近くに住んでたんだ……」
「決まりですね」
そう言ったプリアに、渾身の突っ込みを入れる。
「いやいや、本人抜きで勝手に決めんな!」
そう言うと、村岡は真っ直ぐこちらを見つめた。
「でも、節約しろって言ったのは麦野君だよ」
村岡の次に、松原が追い撃ちをかける。
「幽霊部員だけど付き合う、とも言ってたよね?」
さらにプリアがトドメを刺しにくる。
「自分の発言の責任が持てないなんて、男らしくないです」
また言ってやがる。
それ、コンプライアンス的に問題だからな!
「近所迷惑だけは、絶対にやめろよ」
そう言うと、3人は互いの顔を見合って嬉しそうに笑った。
せめてもの救いは、今日は両親とも夜勤で家に居ないことだ。
すぐに同調し、結託する。
女子が集まったら、本当に嫌いだ。




