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輝け! ヤバ高キュイジーヌ  作者: しーなもん
第1章:創設ヤバ高調理部
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第7話『生徒会室の駆け引き』

 放課後になり、帰ろうとしている松原に声をかける。


「松原、この後ちょっと付いてきてほしい所があるんだけど、時間あるか?」


 そう言うと、松原は驚いて俺を見た。

 周りの女子も、唖然と俺を見ている。

 俺は自分が言ったことがまるでデートでも誘うかのような台詞だと気付き、慌てて「部活のことで」と付け加えた。


「あ、ああ、部活のことね……ビックリした」


 松原がそう言って溜め息を吐く。

 隣に立っている女子が松原に質問した。


「えっ、紅葉、もしかして麦野と同じ部活に入るの?」


「う、うん……」


 弱々しくそう答える松原。

 隣の女子は目を丸くして松原に言った。


「は? 何で!? あんなことがあったのに」


 そう思うのは無理もない。

 クラスの奴らは、俺と松原が、今までの出来事を無かったことにしたことなんて知らない。


「ご、ごめん亜香里あかり、どうしても、家庭科部の料理大会が気になるの」


 そう言って松原は足早に歩き出した。


「行こう、麦野君」


「お、おう」


 慌てて自分の机に置いた鞄を取って、松原と教室を出る。

 ふと振り返ると、亜香里と呼ばれた女子が教室の中でうらめしそうにこちらをにらんでいた。




 1組のプリアに声をかけ、4組の村岡の元へ行く。

 そして俺たち4人は、生徒会室を訪ねた。

 長方形に並べられたテーブルの一番奥に、生徒会長の野田さんが座っている。

 黒髪ショートカットの眼鏡、いかにも優等生という佇まいの女だ。


「家庭科部ね。もう4人集まったんだ」


 俺たちの入部届けを見ながらそう言った。

 会長の隣に立って同じように入部届けを眺めている、体格のいい角刈りに赤ジャージの、いかにも体育教師という出で立ちの若い男の教師が言う。


「部の創設となると顧問が必要だな」


 会長が男の教師に言う。


「先生方で部活の顧問をやっていないかたは、どれくらいいますか?」


「まあ、結構いるにはいるが……」


 そう言って腕を組み、あごさすって言いにくそうに続けた。


「誰もやりたがらんだろうな……」


「何でですか!?」


 村岡が食ってかかる。

 教師はさらに言いにくそうに言った。


「だってお前らの部活、金かかるだろ、これ……」


 確かに、男教師の言うとおりかもしれない。

 俺たちの部活内容は、料理を作ることだ。

 料理を作るためには、食材がいる。

 学校から貰える部費だけではまかなえず、各々が足りない分を出すことになるだろう。

 きっと、その金額はバカにならない額だ。


「それに、衛生管理の責任も重大だしな」


 なるほど。

 食中毒なんかが起こらないとは限らない。

 この部活は、顧問のリスクが高すぎるんだ……。


 しばらくの沈黙。

 この部活の創設は無理だ。

 そんな言葉が会長から出てきそうな雰囲気の中、村岡がうつむいてポツリと言った。


「折角、全国大会目指せるみんなを集めたのに……」


 全国大会……。

 その言葉の響きを聞いて、一旦は俺も入部しようと考えた。

 紆余曲折あって退部しようと考えているが、その言葉は今の俺にも魅力だ。


「お前らはやる気がありそうだし、俺もできれば力になってやりたいが……」


 ポツリと言った教師の言葉に、俺はある妙案が浮かんだ。


「残念だけど村岡さん、部の創設は──」


 会長が諦めの言葉を放とうとした時、俺はその言葉を遮って教師に質問した。


「先生、先生は独身ですか?」


 鳩が豆鉄砲を食らったような顔で、教師は答える。


「えっ、お、おう、そうだが?」


 即座に次の質問を入れる。


「一人暮らしですか?」


「ああ、そうだが……?」


 教師の返答を聞き、俺は一呼吸置いて言った。


「じゃあ、一つ提案があるんですけど」


 この期に及んで一体何なんだ。

 そんな言葉が会長から聞こえそうだ。

 もう、この会長に頼んでも部を創設するのは無理だろう。

 だけど、この教師は発言が協力的だ。

 頭ごなしにダメだとは言わず、部の創設自体は賛同してくれているように感じる。

 落とすなら、会長よりこの教師の方だ。

 俺は続けた。


「先生の晩飯を俺たちが作るっていうのはどうですか?」


 先生の返答よりも先に、会長が大声を出した。


「はあ!? あなた、何言ってるの!?」


 会長の言葉には構わず、俺は続けた。


「先生、結構体鍛えてますよね? タンパク質豊富な美味しいご飯を約束しますよ」


 腕を組んで目を瞑り、顔を上げて思案する教師。

 会長は険しい表情で言った。


「そんなの、ダメに決まってるでしょ!」


 俺は会長をギロリと睨んで言った。


「何がダメなんですか? そんな校則あるなら、今すぐ出してもらえませんか?」


「あなたねえ……。そんなの、部費で賄っていいわけないでしょ! ヘタすると高橋先生が横領だって言われかねないわよ!」


 この教師の名前は、高橋と言うらしい。


「部費じゃ賄いませんよ。先生の財布から全部出してもらいます。その代わり、先生は晩飯を用意しなくてもいい。なかなかいい条件だとは思いませんか、高橋先生?」


 顔を上げていた高橋先生は、目をゆっくりと開けてこちらに顔を向けた。


「条件がある」


「ちょっと、先生!」


 高橋先生の言葉に不安そうな顔で訴えかける会長。

 そんな会長に構わず、高橋先生は言った。


「衛生管理だけはしっかりしてくれ。衛生管理の状況を毎日報告すること。問題が起こったら、即刻活動を停止すること。それを守ってくれるなら、俺が顧問をやろう」


 高橋先生の言葉に、俺たちの表情が明るくなる。


「ああ、あと、顧問に料理の指導的な何かを求めるのはよしてくれ。俺は料理が不得意なんだ」


 そう言って高橋先生は笑った。

 俺たちとは逆に、さらに暗い表情になった会長が言う。


「先生、生徒会顧問はどうするんですか!?」


 なるほど。

 会長が否定的なのは、生徒会顧問の高橋先生が取られそうだからだったのか。

 だけどそれは、続けてもらっていいんじゃないか?

 料理の指導はできないって言っているし、生徒会との顧問が両立できないほど忙しくなるとは思えない。


「生徒会顧問もする。お前たちの顧問もする。それでいいだろ」


 高橋先生の言葉に、会長は大きな溜め息を吐いた。


「分かったわ。じゃあ、部の創設を認めます」


 部が創設する瞬間だ。

 村岡を見ると、泣きそうな顔をしているのに目が合うとニッコリと嬉しそうに笑った。


「だけど、家庭科部っていう名前はダメね」


 会長の言葉に、無言で疑問符を投げ掛ける。

 会長は続けた。


「ウチの学校には、被服部と手芸部があるの。家庭科部っていう名前じゃ混同するわ」


「じゃあ、調理部で!」


 村岡が即答する。

 それが最もな名前だろう。


「分かったわ。じゃあ、ヤバ高調理部として活動してね」


 俺たちは互いに顔を見合せ、喜びを分かち合った。


「ところで、部費……じゃなくて、食費を出せば、私にもご飯を作ってくれるのかしら?」


 思いもしない質問だった。

 部費を食費と言い直したのは、高橋先生に晩飯を提供することは部の活動ではないと暗に示しているのだろう。


「えっ、まあ、はい……」


 高橋先生の晩飯を作ると言った手前、そう答えるしかない。


「じゃあ、私の分もお願いするわ」


 人数が増えたほうが食費に余裕ができる。

 作れる飯のバリエーションも増えるだろう。

 願ってもない依頼だ。


「了解です!」


 そう答えると、会長が初めて笑顔を見せたのだった。


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