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輝け! ヤバ高キュイジーヌ  作者: しーなもん
第1章:創設ヤバ高調理部
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第4話『謝罪の後の生姜味』

 次の日の朝、俺は学校に行く前に、バリカンで頭を丸刈りにした。

 元々スポーツ刈りを少し伸ばした髪型だった俺が、謝罪の意を込めて丸刈りにする価値は低い。

 だからこんなことで許されるとは思っていない。

 これは、暴言を吐いてしまった自分へのケジメだ。

 そう思いながら、振動するバリカンを髪に当てた。



 

 放課後、席に座って帰り支度をしている松原に近付いた。

 背が低く、茶色い姫カットのボブに目が大きく丸顔の可愛らしい顔をしている。

 男子からの人気も高く、女子の友達も多い。

 そんな松原を大泣きさせたんだから、クラス中から敵視されて孤立してしまうのは、当然なのかもしれない。


「松原」


 俺がその一言を発すると、松原の側に立っていた女子が警戒して俺を睨んだ。


「何よ麦野。紅葉もみじに話しかける権利なんて、あんたには無いんだから!」


 つい睨み返そうとしてしまい、目を閉じてグッと堪える。

 そして俺はそのまま頭を下げた。


「松原、ごめん! あの時は言い過ぎた!」


 返事はない。

 俺は頭を下げたまま続けた。


「そして、できれば一緒に家庭科部に入ってほしい!」


 そこまで言うと、松原の側の女子が俺の肩を軽く押した。

 体勢を崩しかけ、一歩下がって顔を上げる。

 松原の側にいる女子は鬼の形相で言った。


「あんたなんか許すわけないじゃん!」


 今まで我慢していたが、もう耐えられない。

 松原本人にそれを言われるならまだいい。

 だけど、側にいるこいつは無関係の人間だ。

 俺は側にいる女子を睨んで言った。


「松原に謝ってんだ。お前が口出すんじゃねえよ!」


 俺がそう言うと、松原は席を立って一歩俺に近付いた。


「謝るって何?」


 そしてまた一歩近付き、続ける。


「麦野君が謝る必要なんてないじゃん」


 さらに一歩近付き、続ける。


「頭なんか丸くしちゃってさ。あの時は頭沸いてた私が悪いんでしょ?」


 小さな体の松原に、迫力で押されて俺は一歩下がった。

 その拍子に松原がまた一歩近付く。


「私の事なんか知ろうとする気なんて微塵も起こらないんでしょ? なのに何で部活なんて誘うの? ねえ、何で?」


「そ、それは……」


「どうせあれでしょ? 私のことなんか、誰彼構わず告白する恋愛バカのキショい奴とでも思ってるんでしょ?」


「そんなこと、思ってねえよ」


「何? 惚れられてるからちょっと謝れば入部するとでも思った?」


「違う」


「私の洋菓子選手権の結果、見たんでしょ? 私には興味ないくせに、利用できるとでも思ったんだよね?」


 図星だ。

 部活に勧誘した件は、何も反論できない。

 だけど、もうそんな事はどうでもいい。

 松原の迫力から、松原がどれだけあの時傷心したのか、痛いほど伝わってくる。

 俺は意を決して両手で松原の両手を握った。


「どうか、謝らせてほしい!」


 松原は俺の手を振り払って睨んだ。


「バカにしないでよ!」


 そう怒鳴った後、声を落として続ける。


「初めてだったんだよ……。勇気出して、初めて告白したんだよ。なのに、あんな言葉、酷いよ……」


 そう言って涙を流す松原に、俺は深く頭を下げた。


「松原、ごめん……」


 20秒ほど頭を下げ続ける。

 言い繕うことなんかできない。

 正直、あの時は緊張と混乱で悪態をいてしまったんだ。 

 告白を断るにしても、過度に傷心させてしまったのは、俺が悪い。

 松原、本当にごめん……。


「紅葉、あっち行こう」


 松原の側の女子の声が聞こえ、俺は頭を上げて教室を後にした。




 校門を出たところで、村岡とプリアが並んで歩いているのが見えた。

 小走りで二人に近付く。


「よお」


 声をかけると、俺の頭に気付いた村岡が言う。


「頭、サッパリしたじゃん」


 続いて心配そうに、プリアが言う。


「麦野君、ちゃんと謝罪はできましたか?」


 俺は、涼しくなった後頭部を触りながら答えた。


「謝ったけど、許してはくれなかった」


 そう言うと、村岡がジト目でこちらに顔を向ける。


「心を込めて謝ったのお?」


「謝ったよ、誠心誠意」


「ホントかなぁ?」


「ってかお前、キッカケさえあれば仲直りできるとか言ってなかったか? 無茶苦茶怨念向けられたんだけど」


「そりゃそうだよ。だって松原さんが孤立した麦野君の責任を感じてるとかいうの、全部私の想像だもん」


 あっけらかんと言った村岡に、俺は拳を震わせた。


「お前な……」


「でも謝れたのは、麦野君にとって大きな一歩だよ」


 俺は目を見開いて村岡を見た。


「お前、まともなことも言うんだな……」


「いつもまともですぅ!」


 そう言って口を尖らせた村岡に、俺は心の中で感謝した。

 村岡が言わなければ、俺は松原に謝ることなんてしなかっただろう。

 今日の謝罪がなければ、松原がどれだけ傷付いていたのかも、どれだけ俺を恨んでいたのかも知らないままだった。

 調子に乗りそうだから、言葉にはしない。

 村岡、謝る機会をくれて、ありがとう……。




 翌日の昼休憩、松原が俺の席にやって来て、無言で机の上に水色の巾着袋きんちゃくぶくろを置いて去っていった。

 巾着袋を開けて中を覗くと、複数の小さなクッキーと一切れの紙が入っているのが見える。

 何だろう?

 袋から紙を取り出し、読んでみる。


『急に謝るとか、正直蛙化(かえるか)した。でも、しょうがないから全部なかったことにしてあげる』


 紙にはそれだけが書いてある。

 クッキーを一つ、口に運ぶ。

 少し固めのザクザクした食感に、ピリッとした刺激のジンジャークッキーだ。

 シナモンの匂いがフワッと口に広がり、ほのかに甘く、無茶苦茶旨い。


「しょうが、ありまくりじゃねーか……」


 ポツリと呟き、俺は誰に向けるでもなく頭を下げた。

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