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異世界転生してパワハラ上司を駆逐してたらいつの間にか偉くなってた  作者: ぽてと
書類上のホワイト組織は、絶望のデスマーチ(物流ルート)でした 〜「勢いで乗り切れ」と喚く意識高い系トップを、最強の社畜が物理的論破で更迭します〜

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第48話 廃墟の軍事倉庫〜異常な不動産管理〜

エルザの規格外の剣閃『物理的除雪』によって完全に舗装レベリングされた街道を、修復されたコンボイ(輸送隊)は滑るように進んでいた。

魔物の脅威も、悪路による馬車へのダメージも一切ない。

輸送兵たちは御者台に座りながら、特務監査部隊が提供する「安全という名の最強のインフラ」の恩恵を噛み締め、静かな感動に浸っていた。


そして、森を抜け、開けた盆地に出たところで、目的の建物が見えてきた。


「アレン中隊長。あれが、軍の所有する『第十四中継倉庫』です……」

先頭の馬車を操るリックが、前方を指差して力なく告げた。


「……なるほど。あれが、ティノが報告していた『莫大な家賃コスト』が発生している重要施設ですか」


並走していたアレンは、視線の先にあるその建造物を鋭い目でスキャンし、深く、酷く冷たい嘆息を漏らした。


そこに建っていたのは、およそ「軍事施設」や「中継倉庫」と呼べるような代物ではなかった。

外壁の石積みはあちこちが崩落し、屋根の瓦は半分以上が剥がれ落ちている。窓ガラスはすべて割れ、辛うじて打ち付けられた木の板も腐り果て、建物の周囲には雑草が人の背丈ほどまで生い茂っていた。


どう贔屓目に見ても、数十年は放置された『ただの廃墟』である。


「アレン中隊長……俺たち、いつもここで仮眠を取るんです。でも、屋根に穴が開いてるから雨の日は最悪で……隙間風で凍えそうになるから、みんなで身を寄せ合って、体温を分け合いながら数時間だけ目を閉じるんです……」


リックが申し訳なさそうに、泥だらけの顔を俯かせる。


「謝る必要はありません、リックさん。恥じるべきは、この環境を放置している経営トップ(司令官)です」


コンボイが完全に停止し、アレン、エルザ、クラウスの三人は、崩れかけた倉庫の扉の前に立った。

扉は蝶番ちょうつがいが壊れており、エルザが軽く指で触れただけで、ギィィィ……と嫌な音を立てて内側へ倒れ込んだ。


内部の惨状は、外観以上に酷かった。

床の板材は湿気で完全に腐敗しており、一歩足を踏み入れればズボッと抜け落ちてしまう。備え付けられているはずの暖炉は崩れ、倉庫内に保管されているはずの「非常用の食料や毛布」などは、影も形もなかった。


「酷い有様だな。魔物の巣窟の方がまだマシな環境だぞ」

エルザが鼻を覆いながら、周囲を警戒するように見回す。


「……これが、ディラン司令官が『軍の予算から、民間企業に莫大な家賃を支払って維持している』という物件の、実際の価値エビデンスですか」


アレンは腐った床板の破片を拾い上げ、指先でボロボロと崩しながら、懐から通信用の魔導端末を取り出した。


「こちら現場フロント。ティノ、聞こえますか」


『はいっ! こちら王都のバックオフィス(経理部)です! アレン中隊長、皆さんのご無事は確認できています。そちらの状況は?』

端末の向こうから、ティノの元気だが、どこか怒りを孕んだ声が響く。


「魔物の駆除(ルートの障害排除)は完了し、対象(ブルーカラーの皆様)の安全確保に成功しました。……現在、問題の『第十四中継倉庫』に到着し、実地査定デューデリジェンスを行っているところですが……」


アレンは周囲の惨状を見渡しながら、極めて事務的なトーンで告げた。


「建物の資産価値はゼロ(無価値)。資本的支出(大規模修繕)が行われた形跡は、過去数年にわたって一切見られません。屋根は抜け、床は腐り、減価償却どころか倒壊の危険すらある『負動産(マイナス資産)』です。……ティノ、この物件に対する軍からの『家賃支払い』の裏付けは取れましたか?」


『……はい。バッチリ取れました。というより、あまりに露骨な手口すぎて、経理のプロとして怒りで吐き気がするレベルです!』


ティノの弾んだ声が、端末越しに響き渡る。


『アレン中隊長の予想通り、これは完全な【不動産ロンダリング(中抜き)】です!』


ティノの説明によれば、スキーム(手口)はこうだ。

数ヶ月前、ディラン司令官は「この中継倉庫は老朽化しており、軍で維持するのはコストの無駄だ」と主張。そして、倉庫の所有権を『とある民間の不動産会社』へ、無償で譲渡(負担付贈与)した。

表向きは「民間企業に建物の修繕と管理を委託し、軍は身軽になる(アウトソーシング)」という名目である。


『でも、蓋を開けてみれば最悪です! その民間企業は、建物の修繕メンテナンスを一切行わずに放置! それなのに、ディラン司令官は「軍の物資を置かせてもらうための施設利用料(家賃)」として、毎月莫大な予算をその会社に振り込み続けているんです!』


「……修繕義務を果たさないペーパーカンパニーに対し、相場の数十倍の賃料を払い続ける。分かりやすい利益相反コンフリクトですね」

アレンの瞳が、スッと細められる。


『ええ! しかも、レノちゃんに頼んでその民間企業の登記簿(裏付け)を調べてもらったら……会社の代表取締役は、ディラン司令官の「お抱えの愛人」でした!』


「にゃはは! バッチリ裏取りしたにゃ! 夜の酒場で聞き込みしたら、あの司令官、最近急に羽振りが良くなって、愛人に高級な宝石を買い与えてるって噂で持ちきりだったにゃ!」


端末の向こうから、レノの得意げな声も聞こえてくる。


「……なるほど。完璧な証拠クリティカル・エビデンスですね」


アレンは静かに端末をしまった。

現場の輸送兵たちから「護衛」という命綱を奪い、整備不良の馬車で不眠不休のデスマーチを強要し、限界までコストを削減する。

そうやって浮かせた軍の血税を、ダミー会社を経由した『偽装家賃』という形でマネーロンダリングし、自分の懐と愛人の宝石代に消えさせていたのだ。


「それが、ディラン司令官の言う『アジャイルな組織運用』と『勢い』の正体ですか。……反吐が出ますね」


アレンの周囲の温度が、急激に低下する。

かつて前世で、現場の人間が過労死するまで働かされている裏で、経営トップが経費で高級外車を乗り回していたあの忌まわしい記憶トラウマがフラッシュバックする。


「ア、アレン中隊長……?」

リックたち輸送兵が、アレンから放たれる異様なまでのプレッシャー(殺気)に震え上がった。


「おっと、失礼しました」

アレンはすぐに冷徹な笑顔を取り戻し、純白のスカーフを整えた。


「さて皆さん。この廃墟ゴミの査定は完了しました。我々特務監査部隊は、これよりこの建物を『監査対象物件サシオサエ』として封鎖します。……クラウス、彼らが休むための【適切な福利厚生施設】へのリノベーションをお願いできますか?」


「承知いたしました。……『第一級・仮設居住区画プレミアム・ドミトリー』、展開します」


クラウスが杖を振り上げると、廃墟の内部に凄まじい魔力光が走った。

腐った床板は強靭な氷の膜でコーティングされて平らになり、抜け落ちた屋根の穴は完璧な防風結界で塞がれる。

さらに、空間内部には冷暖房完備の『魔力空調』が設置され、地面にはフカフカの毛布を備えた数十個の『氷の簡易ベッド』がズラリと並べられた。


「す、すげぇ……! 廃墟が一瞬で、王都の高級宿屋みたいになっちまった……!」

輸送兵たちが目を丸くして歓声を上げる。


「さあ皆さん。泥や血を洗い流し、ベッドで横になってください。数日ぶりの睡眠(有休消化)を、誰にも邪魔はさせません」

アレンが優しく促すと、極限状態にあった輸送兵たちは、次々とベッドに倒れ込み、あっという間に深い眠りへと落ちていった。

静寂に包まれた「元・廃墟」に、穏やかな寝息だけが響く。


「……アレン。現場の安全は確保した。裏付けも取れた。次はどうする?」

エルザが腕を組み、鋭い視線を向けてくる。


「決まっています。悪質な中抜きを行い、労働者の命を弄んだ経営トップには、それ相応の『物理的監査スクラップ』を受けていただきます。……ただ単に王都に乗り込んで告発するだけでは、生ぬるい」


アレンは、倉庫の外に停められている五台の巨大な荷馬車を見つめた。

そこには、王都の貴族街へ向けて運ばれる予定だった『高級ワイン』や『贅沢なシルクの反物』、そして『豪奢な食材』が山のように積まれている。

これらはすべて、ディラン司令官が貴族たちに媚を売るために、絶対の納期で運ばせていた献上品だ。


物流ロジスティクスとは、組織の血液です。血液が止まれば、組織は必ずパニックに陥り、トップの無能さが露呈する」


アレンの口角が、不敵に、そして極めて残酷に吊り上がった。


「エルザ殿、クラウス。我々はこれより、特務監査部隊の権限において、本ルートの【物流の完全遮断ストライキ】を実行します」


「ほう……。王都への物資の供給を、ここで意図的に止めるというのだな?」

エルザが獰猛な笑みで応じる。


「ええ。ディラン司令官が『勢いとパッションで必ず届ける』と貴族たちに約束した献上品は、ただの一箱も王都へは届きません。……現場ブルーカラーを軽視したトップが、物流の停止によって貴族たちからどれほどの突き上げ(クレーム)を食らい、どうやって破滅していくのか。……彼の大好きな『勢い』で、どこまで誤魔化せるか見物ですね」


完璧な逆算ロジックに裏打ちされた、最凶の兵糧攻め。

特務監査部隊による【逆ロジスティクス(物流遮断)作戦】が、今、静かに決行された。


王都でふんぞり返る無能なトップの首が締まるまで、あとわずか。

現場の労働者たちが泥のように深く眠る横で、十八歳の最強の社畜は、来るべき「物理的監査とどめ」の瞬間へ向けて、冷酷に牙を研ぎ澄ませていた。

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