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異世界転生してパワハラ上司を駆逐してたらいつの間にか偉くなってた  作者: ぽてと
書類上のホワイト組織は、絶望のデスマーチ(物流ルート)でした 〜「勢いで乗り切れ」と喚く意識高い系トップを、最強の社畜が物理的論破で更迭します〜

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第45話 無能なトップの『勢い』と、空虚なビジネス用語

王都の軍事区画の中心。

第一騎士団の総本部にも引けを取らない、大理石とガラス張りで設えられた豪奢な巨大建築物――それが、軍の物資輸送の全てを統括する『兵站輸送部・本部』であった。


特務監査部隊の中隊長、アレン・ロストは、エルザとティノを従えてそのエントランスを堂々と歩いていた。


「……信じられません。エントランスに飾られているこの巨大な絵画、王都の有名画家の真筆ですよ。これ一枚で、馬車が十台は新調できる金額コストです」


周囲の過剰なまでに豪華な内装をタブレットでスキャンしながら、ティノが呆れたように呟く。

現場の輸送兵であるバーツたちは、魔物に追われながらボロボロの馬車で不眠不休のデスマーチを強いられているというのに、本部の人間たちはこんな無駄にきらびやかな空間でふんぞり返っているのだ。


「予算の使い方が完全に間違っていますね。インフラ(馬車)の整備や人材の安全確保よりも、権力者の見栄オフィスに投資する。……典型的な腐敗組織の末期症状です」


アレンは冷たく言い捨て、迷うことなく最上階にある『司令官室』へと向かった。


司令官室の前に立つ屈強な護衛兵たちが、漆黒の特注軍服を着たアレンたちの姿を見て顔を引き攣らせた。


「と、特務監査部隊……!? な、何用ですか! ここはディラン司令官の――」

「退け。我が部隊の監査タスクを妨害する者は、物理的に排除する」


エルザが一歩前に出て、静かに、だが絶対的な殺気を込めて睨みつける。

第一騎士団の元千人長が放つ圧倒的なプレッシャーの前に、護衛兵たちは「ひぃっ」と悲鳴を上げて壁際にへばりつき、あっさりと道を空けた。


「失礼しますよ。事前の通達アポなしの訪問、ご容赦を」


アレンが重厚なオーク材の扉を押し開けると、そこには、王都の高級サロンと見紛うばかりの空間が広がっていた。

部屋の中央には、高級なベルベットのソファ。そして、そのソファに深く腰掛け、昼間から美しい秘書官に肩を揉ませながら、ワイングラスを傾けている金髪の若い男の姿があった。


「ん? なんだ君たちは。今は私の重要なブレインストーミングの時間なのだが?」


彼こそが、兵站輸送部の新トップにして、バーツたちを地獄のデスマーチへと追いやった元凶。

貴族出身の若手将校、ディラン司令官であった。


「初めまして、ディラン司令官殿。特務監査部隊中隊長、アレン・ロストです。……本日は貴部署の『勤怠管理』および『安全対策の欠陥』について、緊急のヒアリングに参りました」


アレンの言葉を聞いた途端、ディランは「あぁ」と大げさに肩をすくめ、ワイングラスをテーブルに置いた。


「君があの有名な監査部隊のトップか。しかし困るな、事前にコンセンサスを取ってもらわないと。それにウチの部署は、軍の中でもトップクラスの『ホワイト組織』だ。無駄な監査(リソースの浪費)は控えていただきたいね」


「……トップクラスのホワイト、ですか」


アレンは表情一つ変えず、ティノに合図を送った。

ティノが魔導端末を操作し、空中に『バーツの血だらけのタイムカード(魔導記録)』と『現場の証言データ』を投影する。


「本日正午、貴部署の第三小隊に所属する輸送兵が、極度の過労と負傷により我が部隊へ逃げ込んできました。彼は『書類上は休日に改ざんされ、護衛もなしに五日間の不眠不休の輸送を強要されている』と証言しています。……これが、あなたの言うホワイト組織の正体エビデンスですか?」


明確な証拠データを突きつけられたディラン。

普通ならここで青ざめるところだが、彼は悪びれる様子もなく、むしろ鼻で笑った。


「ハハッ! なんだ、そんなことか。君たち監査部隊は、どうも物事をマクロな視点で見れていないようだな」


ディランは立ち上がり、大げさな身振りを交えて語り始めた。


「いいかい? 私がこの部署に着任して最初に行ったのは、徹底的な『コストのスリム化』と『アジャイルな組織運用』だ! 今までのように、一々馬車に大量の護衛兵を付けるなど、非効率なレガシーコスト(無駄遣い)に過ぎない! 護衛を削り、その分、馬の走るスピードを上げれば、魔物に追いつかれる前に目的地に着く。……まさにパラダイムシフトだろう?」


「……護衛を削り、馬車の速度を上げる? それが、安全対策を放棄した理由ですか」

アレンの目が、すっと細められる。


「その通り! 必要なのは『勢い(モメンタム)』だ! 現場の連中がパッションを持ってタスクにコミットすれば、魔物なんて気合で逃げ切れる! あの倒れた輸送兵は、単に『マインドセット』が足りなかっただけだ。当事者意識が欠如している彼個人の自己責任だよ!」


「ふざけるなッ!!」


ディランの空虚で狂った持論に、たまらずティノが激昂して叫んだ。


「魔物の群れから馬車で逃げ切るなんて、物理的に不可能です! それに、書類のタイムカードを改ざんして彼らを休ませないのは、明確な公文書偽造と労働基準法違反です!」


「君、声が大きいよ。エビデンス(書類)上は、彼らは適正に働いていることになっているんだ。私が彼らのために、後からまとめて有給休暇を与えようと『柔軟なリスケジュール』をしてあげただけさ。……私は軍の輸送網にシナジーを生み出す、次世代のリーダーなんだ。君たちのような時代遅れの監査官に、私の高度なビジネスモデルは理解できないだろうね」


コンプライアンス(法令遵守)という言葉を無視し、現場の過酷な現実(ブルーカラーの命)を「マインドセット」や「自己責任」という耳障りのいい言葉で切り捨てる。

前世でアレンを過労死に追いやったブラック企業の経営者たちと、全く同じ醜悪な匂いだった。


「……アレン。私がこの男の首を物理的に『スリム化』してやってもいいか?」


エルザが剣の柄に手をかけ、怒気で周囲の空気を震わせる。

秘書官が「ひぃっ」と悲鳴を上げて逃げ出し、ディランもわずかに顔を引き攣らせた。


「待ってください、エルザ殿。こんな男の首を刎ねても、彼の後ろ盾となっている貴族たちが騒ぐだけです。……我々はあくまで、合法的な『監査』で彼を完膚なきまでにスクラップにする」


アレンはエルザを制し、ゆっくりとディランの目の前まで歩み寄った。

十八歳の青年の瞳に宿る、絶対零度の冷徹な光。その圧倒的な威圧感に、ディランは無意識に数歩後ずさった。


「……なるほど。あなたの言う『アジャイルな組織運用』と『勢い』のロジック、よく理解できました」


アレンは首元の純白のスカーフを指でスッと直しながら、淡々と告げた。


「現場の安全対策コストを削り、それを『効率化』と呼ぶ。生身の人間を休ませずに働かせることを『パッション』と呼ぶ。……これらは全て、自らの無能さを横文字で隠蔽しているだけの、極めて滑稽で知性の欠片もない『経営ごっこ』です」


「な、なんだと……!? 君、私に向かって――」


「エビデンス(書類)が完璧なら、問題はないと言いましたね? ならば結構」


アレンはディランの言葉を冷酷に遮り、懐中時計を取り出した。


「ならば我々特務監査部隊が、あなたの作り上げたその『完璧なビジネスモデル』を、身をもって体験テストさせていただきましょう」

「……体験、だと?」


「ええ。現在、不眠不休で魔物の森を走らされている第三小隊の元へ、我々が直行し『新人輸送兵』としてオンボーディング(合流)します。……そして、あなたの言う『勢い』とやらで、本当に魔物の群れから安全に逃げ切れるのか、徹底的な実地監査ストレステストを行います」


アレンの宣言に、ディランは一瞬ポカンとした後、腹を抱えて下品な笑い声を上げた。


「ハッハッハッ! 本気かい!? 監査部隊のエリート様が、泥まみれの馬車に乗って現場作業をやるだって!? いいだろう、好きにしたまえ! ただし、森の途中で魔物に食われても自己責任だぜ? 私は一切関知しないからな!」


ディランにとっては好都合だった。

目障りな特務監査部隊が、自ら危険な魔物の森へ行ってくれるのだ。運良く魔物に食い殺されて全滅してくれれば、彼が裏で行っている「中継倉庫の不動産ロンダリング(中抜き)」の秘密も暴かれずに済む。


「……ええ。現場の責任は、すべて我々が負います。ただし」


アレンはディランに背を向け、扉へ向かって歩き出しながら、冷たい声で肩越しに言い放った。


「我々が現場の『致命的な欠陥(ブラックな真実)』をすべて物理的に記録し、生還した暁には……。あなたのその中身のない頭と、軍を食い物にしている『裏のスキーム』を、完膚なきまでに論破し、社会的・物理的に抹殺スクラップします。……首を洗って待っていてください、ディラン司令官殿」


バタン、と静かに扉が閉まる。

残されたディランは、アレンの背中から放たれた異様なまでのプレッシャーに、なぜか全身から冷や汗が止まらなくなっていた。


「ふ、ふんっ! ただの脅しだ……! あの魔物がうごめく第十四ルートを、たった数人の監査官が護衛なしで生き残れるはずがない! ……そう、私のビジネスモデルは完璧なんだ!」


ディランは震える手でワイングラスを掴み、中身を一気に呷った。


◇◇◇


「アレン中隊長! 本当に私たちだけで現場に行くんですか!? あのルートは、軍の正規部隊でも小隊規模の護衛をつける最難関ルートですよ!」


兵站輸送部の外へ出た途端、ティノが慌ててアレンを追いかけながら尋ねる。


「ええ。ティノ、あなたはレノと共に王都に残り、先ほどの『不動産(中継倉庫)の不正な資金の流れ』の裏付け調査を徹底してください。敵の命取りとなる決定的証拠クリティカル・エビデンスを固めるのです」


アレンは立ち止まり、エルザとクラウスを振り返った。


「現場の『死のデスマーチ』を止めるのは、我々三人の仕事タスクです。エルザ、クラウス。……現場のブルーカラーたちを救い出し、無能なトップの横文字を物理的に粉砕する準備はいいですか?」


「ふっ、愚問だな。私の剣は、書類の上でふんぞり返る豚を斬るためにあるのではない。現場で血を流す者たちを守るためにあるのだ」

エルザが獰猛な笑みを浮かべる。


「同感です。私の結界魔法で、彼らの馬車を絶対安全な移動要塞へと作り変えてご覧に入れましょう」

クラウスも杖を握り直し、静かに闘志を燃やした。


三年で圧倒的な成長を遂げた、特務監査部隊の最強の矛と盾。

彼らがこれから向かうのは、絶望と疲労に支配された死の輸送ルート。

『勢い』で乗り切れと見捨てられた現場の労働者たちに、アレン・ロストの冷徹にして完璧な『物理的監査(ホワイト化)』のメスが入ろうとしていた。

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