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異世界転生してパワハラ上司を駆逐してたらいつの間にか偉くなってた  作者: ぽてと
王立工場のブラック労働を粉砕せよ〜死を招くノルマを廃止し、最強の生産現場を再構築する〜

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【番外編5】青い瞳のもふもふな来訪者と、最強の福利厚生

王立魔導工廠での過酷な出張監査――労働組合の結成支援、違法な巨大ゴーレムの物理的破壊、そしてブラック工場長の完全なる粛清。

王国の歴史に残るであろう一連の特大プロジェクトを無事に完遂した第七小隊の面々は、ヴィクトリア王女から支給された潤沢な特別ボーナスを惜しみなく投入し、王都近郊に位置する国内最高級の温泉宿『白鷺しらさぎ亭』の離れを完全に貸し切っていた。


「はぁぁ〜……極楽ですぅ……。連日の経理処理と、裏帳簿の照合バックオフィスでゴリゴリに凝り固まった肩が、お湯の成分に溶けていくみたい……」


広々とした豪奢な総檜ひのき造りの露天風呂。

立ち上る湯気の中、部隊の事務と経理を一人で担う少女・ティノが、ふにゃ〜っとだらしなくお湯に浸かり、ほうっと幸せそうなため息を漏らしていた。


「うむ。適度な温度と、湯に微量に含まれる霊的な魔力成分。実戦で限界まで酷使した筋肉繊維の修復リカバリーには、これ以上ないほど最適な環境だ」


その隣では、かつて王国最強の第一騎士団で千人長を務め上げた赤髪の女騎士・エルザが、長い髪を湯船につけないよう器用にタオルでまとめながら、静かに目を閉じていた。

彼女の鍛え上げられた背中には激戦の疲労が色濃く残っていたが、この上質な湯がそれを確実に癒やしていくのを感じている。


「最初、アレンが『慰安旅行も重要な業務の一環タスクです』と主張して、全額経費でこの最高級宿の離れを押さえた時は、流石に強引すぎないかと驚いたが……彼のマネジメントには常に感服させられる。適切な休息インターバルが、次の戦いへの何よりの投資になるということを、彼は誰よりも理解している」


「エルザ先輩、すっかりアレンさんの信者ですよね〜。最初はあんなに『軟弱な小隊長だ』って反発してたのに」

「なっ、し、信者とはなんだ! 私はただ、彼の上官としての極めて合理的な判断力を正当に評価しているだけであって、決して心酔しているわけでは……っ!」


エルザが顔を赤くして必死に言い訳をしていると、脱衣所のほうから、パタパタと慌ただしい足音が聞こえてきた。


「ティノ! エルザ! 大変だにゃ! 湯上がりの周辺偵察(お散歩)をしてたら、とんでもないものを拾っちゃったにゃ!」


バスタオル一枚を体に巻きつけた猫耳の獣人・レノが、何やら腕の中に「大きな毛玉」のようなものを大事そうに抱えて飛び込んできた。


「レノ? 偵察って……温泉街でお散歩してただけですよね? どうしたんですか、それ……」


ティノが目をパチクリとさせる。

レノの腕の中にいたのは、一匹の子猫だった。

しかし、その辺の路地裏で見かけるような、ありふれた普通の猫ではない。


極寒の北方地域を原産とする血統――分厚く美しい三層構造トリプルコートの被毛に包まれた、圧倒的な『もふもふ感』と『丸み』を誇る長毛種の子猫。

そして、その豊かな毛玉の中から覗くのは、まるで最高級のサファイアのように透き通った、息を呑むほど美しい『青い瞳』であった。


「にゃあ」


青い瞳の子猫が、コテンと首を傾げて愛らしく鳴く。


「……ッ!!」

ティノとエルザの動きが、完全にフリーズした。


「す、すっごく可愛い……っ! なんですかこの毛のボリューム!? 触り心地が雲みたいにフワッフワです!」

「あ、青い瞳……それにこの気品ある顔立ち……。くっ、第一騎士団の千人長たる私が、このような愛くるしい小動物の魅力に心を乱されるなど……不覚っ!」


口では武人としての抵抗を見せつつも、エルザの指先は完全に無意識のうちに猫の顎下を撫でており、ゴロゴロと幸せそうな喉の音を鳴らされると、彼女の厳格な顔は一瞬にしてだらしなくとろけてしまった。


「路地裏で、大きなカラスに突かれそうになって震えてたんだにゃ! だからレノが威嚇いかくして、保護レスキューしてきたんだにゃ!」

レノが誇らしげに胸を張る。


「カラスから……それはナイスプレーでしたね。でもレノ、どうするんですか? いくら可愛くても、宿には勝手に持ち込めないし、ましてや王都の兵舎に連れて帰って飼うなんて……」


ティノが現実的な問題を口にし、三人が顔を見合わせていると。

男湯との間を仕切る、高い竹垣の向こうから、アレンの極めて冷静な声が響いた。


「――持ち込めない? 誰がそんな規定ルールを作ったのですか」


「「「アレンさん(先生)!?」」」


「我が部隊は、常に従業員の『メンタルヘルス(精神衛生)』を最重要課題と位置づけています。……ティノ、ただちに対象(猫)の保護に伴う特別対応モードに移行してください」


竹垣の向こう側――男湯では、アレンが手ぬぐいを頭に乗せ、肩までお湯に浸かりながら、まるで軍の作戦会議でもしているかのような真面目なトーンで指示を出していた。その横では、白髪の魔道士クラウスが「ほう、素晴らしい決断力です」と深く感心したように頷いている。


「アレンさん、宿のお部屋に入れてもいいんですか!? 女将さんに怒られちゃいますよ!」

「これは部隊の生産性を一時的にブーストさせるための『外部福利厚生資産の活用』です。アニマルセラピーによるストレス軽減効果は、医学的にも科学的にも証明されています。女将さんには僕から、特別清掃費(追加コスト)を上乗せして交渉ネゴシエーションを成立させておきましょう」


アレンは持ち前の圧倒的な勢いと、怒涛のビジネス用語によって、己の論理(猫をもふもふしたいという本音)を完璧に正当化し始めた。


「ただし」


アレンのトーンが、少しだけ真剣なものに変わる。


「レノ。その猫の首元をよく見てください。良質な魔力糸で編まれた、高価な首輪がついていませんか?」

「にゃ? あ、本当だにゃ。綺麗な刺繍が入ってるにゃ……お名前かな?『シロ』って書いてあるにゃ」

「やはり。それに僕は先ほど、宿のロビーに『青い瞳の迷子猫を探しています』という手書きのポスターが貼られているのをチェック済みです。……どうやらこの極上の福利厚生資産は、地元の住民から一時的に離れた『レンタル品(迷子)』のようですね」


その言葉に、ティノとエルザ、そしてレノが、あからさまに残念そうな顔をした。


「……つまり、飼い主の元へ返却リターンしなければならないということですね」

「当然です。拾得物を適切に管理し、持ち主へ無事に返還することは、我々特務機関のコンプライアンス(法令遵守)の基本ですからね。……ですが」


アレンの口角が、男湯の向こう側で不敵に吊り上がる気配がした。


「飼い主に連絡を取り、引き渡しが完了するまでのタイムリミットは、およそ『四時間』。……我々がその限られた時間内で、この毛玉のポテンシャルを最大限に引き出し、全力で『保護もふもふ』することは、極めて正当な業務タスクと言えるでしょう」


アレンの粋な計らい(という名の職権濫用)に、女湯から「わぁっ!」という歓喜の声が上がった。

こうして、最強のホワイト部隊による、一匹の子猫への「全力接待プロジェクト」が幕を開けたのである。


◇◇◇


三十分後。

貸し切りの広々とした和室は、完全に一つの「もふもふ至上主義の宗教施設」と化していた。


「アレン先生。対象(シロ殿)の居住区画ですが、私の結界魔法を応用して『常に温度二十二度・湿度五十パーセントが保たれる専用の空間(キャットタワー代わり)』を構築しました。これで、被毛へのダメージを最小限に抑えられます」


平服に着替えたクラウスが、空中に見えない魔法の足場を幾重にも作り出し、猫が安全に上り下りできる完璧なアスレチックを完成させていた。


「素晴らしいインフラ整備ファインプレーです、クラウス。彼が最高のパフォーマンス(癒やし)を発揮できるよう、我々が全力で労働環境を整えなければなりませんからね」

腕を組んで頷くアレン。


「アレンさん! 軍の経理用の精密魔導ハカリでシロちゃんの体重を測定し、最適な消費カロリーを逆算しました! 宿の厨房から交渉して買い取った『高級白身魚のペースト(ちゅーる的なもの)』を、規定量だけ支給します!」


ティノが小皿に盛り付けた魚のペーストを差し出すと、シロは青い瞳を輝かせ、ペロペロと一心不乱に舐め始めた。


「よし、食事の後は適度な運動トレーニングだ。私の動体視力と反射神経の全てを懸けて、お前の狩猟本能を満たしてやろう!」


エルザがどこから持ってきたのか、先端に鳥の羽がついた猫じゃらしを手に取り、シロの前に立ちはだかった。

第一騎士団の千人長による、本気の猫じゃらし捌き。羽は空中で残像を残し、予測不能の軌道を描く。

しかし、シロも負けてはいない。もふもふの体をバネのように弾ませ、見事に羽をキャッチしては、エルザの指先にすりすりと頭をこすりつけた。


「くっ……! 私の動きを完璧に見切るだけでなく、この物理的な愛らしさによる精神攻撃カウンター……! 降参だ、私の負けだ……あぁ、なんて可愛いんだ……」

エルザはあっさりと敗北を認め、シロの柔らかいお腹に顔を埋めて悶絶した。


「皆さん、遊ぶだけではなく『メンテナンス業務』も怠らないように」


アレンが宿の備品である高級な獣毛ブラシを手に取り、真剣な顔でシロの前に座った。


「北方由来の豊かな被毛は、手入れをすればするほど絹のような光沢を放ちます。毛並みに逆らわず、しかし皮膚に適度な刺激を与える絶妙な力加減……これがブラッシングの標準作業手順書(SOP)です」


アレンの極めて論理的かつ滑らかなブラシ捌きに、シロは気持ちよさそうに目を細め、ゴロゴロと大きな喉の音を鳴らした。

そして、アレンの膝の上にピョンと飛び乗ると、そのまま丸くなってスヤスヤと眠り始めてしまった。


「「「……っ!!(尊い)」」」


その破壊力抜群の光景に、ティノ、エルザ、クラウス、レノの全員が、声なき悲鳴を上げて胸を押さえ、その場に崩れ落ちた。


「……ふむ。やはり僕の仮説ビジネスモデルは間違っていませんでしたね。この温もり、この適度な質量。……我々のメンタルヘルスを劇的に改善する、完璧なソリューション(解決策)です」


アレンは膝の上の青い瞳を見つめながら、普段の冷徹な指揮官の顔を完全に崩し、優しく、本当に優しくその小さな背中を撫で続けた。

過酷なストライキ闘争を指揮し、血も涙もないブラック工場長を容赦なく叩き潰した最強の社畜。しかし今の彼は、ただの一人の猫好きの少年に戻っていた。


◇◇◇


それから数時間が経過し、夕暮れ時。

温泉街の入り口にある石畳の広場で、目を真っ赤に腫らした地元の少女が、レノの腕から青い瞳の子猫を受け取っていた。


「シロ……! シロォ……っ! よかった、本当によかった……っ! 軍隊のお兄さんお姉さんたち、本当に、本当にありがとうございます!」

「にゃはは、気にするなだにゃ。大事な家族なんだから、これからは目を離しちゃダメだにゃ」


レノが笑って少女の頭を撫でる。

子猫のシロは少女の腕の中で安心したように丸くなり、アレンたちに向かって「にゃあ」と、短いお礼を言うように一度だけ鳴いた。


「……行ってしまったな」

少女が走って帰っていく後ろ姿を見送りながら、平服姿のエルザが、手の中に残る「もふもふの感触」を惜しむように、自分の手のひらを見つめてポツリと呟いた。

たった数時間のふれあいとはいえ、全力で愛を注いだ時間は、彼女の心に確かな癒やしと、そして少しばかりの別れの寂しさを残していた。


「寂しいですか、エルザ先輩」

ティノがくすくすと笑いながら尋ねる。


「べ、別にそういうわけではない! ただ、あの適度な質量と温もりが、私の剣の素振りの後のクールダウンにちょうど良かったというだけの話だ……!」

顔を赤くして不器用な言い訳をするエルザの姿に、クラウスも穏やかな笑みを浮かべる。


「ふむ……」

そこへ、腕を組んで思案顔のアレンが口を開いた。


「今回のアニマルセラピー導入のテストケース(実証実験)において、我が部隊の隊員たちの疲労回復度合いと、一時的な士気モチベーションの向上が、極めて高い数値を示したことは疑いようのない事実エビデンスです」


アレンは真剣な表情で全員の顔を見回し、首元のスカーフをクイッと整えた。


「王都へ帰還次第、特務監査部隊の『正規の福利厚生』として、兵舎への『専属猫の導入(ハードウェア増強)』を、次期四半期の予算案に正式に組み込もうかと思いますが……いかがでしょう?」


そのあまりにも真面目なトーンでの「冗談(提案)」に、ティノたちが一瞬きょとんとした後、全員が吹き出した。


「ふふっ、アレンさんったら! 軍の厳粛な予算会議で『猫をもふもふしたいので予算をください』なんてプレゼンしたら、上層部の偉い将軍たちが泡を吹いて倒れちゃいますよ!」

「当然です。だからこそ、完璧な論理武装が必要になります。……ティノ、王都に戻るまでに、他国の軍隊におけるアニマルセラピーの導入事例と、費用対効果のグラフ化(プレゼン資料の作成)を頼みましたよ」

「ええーっ!? 冗談ですよね、アレンさん!?」


「にゃはは! アレンなら、屁理屈……じゃなくて論理で、本当に予算を通しちゃいそうだにゃ!」

「うむ。その提案プロジェクト、私は全力で支持(稟議にハンコを)しよう。反対する上層部がいれば、私が物理的に説得してやる」

「やめてくださいエルザ殿。会議室が血の海になります」


夕暮れの温泉街に、最強のホワイト部隊の明るい笑い声が響き渡る。

過酷な戦いを乗り越えた彼らにとって、一時の青い瞳の来訪者は、疲れた心をポカポカと温めてくれる極上の癒やし(ボーナス)となったのであった。

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