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異世界転生してパワハラ上司を駆逐してたらいつの間にか偉くなってた  作者: ぽてと
王立工場のブラック労働を粉砕せよ〜死を招くノルマを廃止し、最強の生産現場を再構築する〜

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第37話 兵糧攻めと、王国初の労働組合(ユニオン)

工場長との決裂から数時間が経過した、その日の夜。

王立魔導工廠の敷地外れにある、数千人の作業員たちが押し込められた大部屋の宿舎は、絶望と飢えによる重苦しい沈黙に包まれていた。


「……今日の夕食の配給、本当に来ないのか?」

「ああ。警備兵が外から鍵をかけていった。第五ラインの連中が外部監査役アレンたちと結託して反抗した罰として、工場長が『工廠全域の配給停止』を命じたらしい……」


薄汚れた毛布にくるまる作業員たちが、虚ろな目で天井を見つめる。

彼らの日給は、その日の食事代と宿代として工廠に強制的に天引きされるシステム(借金漬け)になっている。配給が止められれば、彼らは文字通り飢え死にするしかない。


「おしまいだ……。工場長に逆らうからこんなことになるんだ。もう仕事にも戻れない、生きて田舎に帰ることもできない……っ」


誰かがすすり泣く声が響く。

「逆らえば全員が連帯責任で苦しむ」という恐怖を植え付けること。それこそが、経営層が労働者の『団結』を防ぐために用いる、最も古典的で悪辣な分断工作ハラスメントであった。


その重苦しい空気を切り裂くように、宿舎の分厚い鉄扉が、ドゴォォォンッ!という凄まじい音と共に吹き飛んだ。


「ひぃっ!?」

「け、警備兵か!? 俺たちを処刑しに来たのか!」


作業員たちがパニックに陥り、部屋の隅へと身を寄せる。

しかし、舞い上がる土煙の中から現れたのは、処刑人ではなく、優雅にスカーフを整える一人の少年だった。


「……こんばんは、皆さん。少々ドアのロックが硬かったので、我が小隊の規律管理者エルザに『物理的な解除』をお願いしました。お騒がせして申し訳ありません」


アレン・ロスト。

その後ろには、大きな荷物を抱えた第七小隊の面々と、見習い技師のカインの姿があった。


「あ、アレン小隊長……!? どうしてここに……」

「出張先での業務時間外アフターファイブを利用した、福利厚生の提供ケータリングに参りました。ティノ、第一フェーズの展開を」

「はいっ! 第一班、野営用魔導コンロを全開で起動! 保存食と粉末スープをありったけお湯で戻して! クラウス先輩、換気と保温の結界をお願いします!」


ティノのテキパキとした指示により、第七小隊の新人兵士たちが一斉に動き出す。

彼らが持参した特殊なリュックから、魔法の力で圧縮された大量の食材が次々と取り出され、大鍋に放り込まれていく。


瞬く間に、冷え切った宿舎の中に、肉と野菜がたっぷりと入った温かいスープの香りが充満した。

さらに、栄養価が高く柔らかい白パンが山のように積み上げられる。


「なっ……なんだこれ……! 肉だ……本物の肉が入ったスープだぞ!」

「あ、あの……これ、俺たちも食べていいんですか……?」


信じられない光景に、作業員たちが生唾を飲み込みながら尋ねる。


「ええ、もちろんです。工場長の理不尽な兵糧攻め(リソース遮断)は想定内でしたから。我が部隊の特別予算で買い込んだ一ヶ月分の備蓄食料を、すべて皆さんに解放します」


アレンが微笑むと、ティノたちが次々と作業員たちに温かいスープとパンを配り始めた。

何日もまともな食事をとっていなかった彼らは、震える手で器を受け取り、一心不乱にスープを啜る。そして、その温かさと美味しさに、次々と涙をこぼし始めた。


「ううっ……うまい……。こんな温かい飯、何年ぶりだ……」

「アレンさん……本当に、ありがとうございます……っ」


数千人の作業員たちの腹が満たされ、彼らの瞳に少しだけ『生気』が戻ったのを見計らい、アレンは宿舎の中央に積まれた木箱の上に静かに立った。


「皆さんに、一つ聞いておきたいことがあります」


よく通るアレンの声に、全員の視線が集中する。


「皆さんは、自分たちのことを『工場長の所有物(奴隷)』だと思っていますか? それとも、労働という対価を提供して報酬を受け取る『対等な取引相手ビジネスパートナー』だと思っていますか?」


アレンの問いに、誰も答えることができない。

彼らは長い間、不当な扱いに耐え続け、自分たちには何の権利もないと思い込まされてきたのだ。


「工場長は言いました。皆さんは自分の『所有物』だと。生かすも殺すも自由だと。……しかし、それは完全に間違った論理エラーです。皆さんが機械を動かし、汗水垂らして武具を作らなければ、この工廠は一円の利益キャッシュも生み出せない。すなわち、この工廠の本当の主役リソースは、工場長ではなく『皆さん自身』なのです」


アレンは首元のスカーフをキュッと締め直し、前世で培った「法と権利」の概念を、この異世界に解き放つ。


「一人が声を上げても、簡単にクビを切られて終わるでしょう。ですが、もしここにいる数千人の作業員『全員』が、同時に一斉に手を止めたらどうなりますか?」

「そ、そんなことをしたら……工場長に殺される……!」

一人の作業員が怯えた声で叫ぶ。


「いいえ。全員を殺してしまえば、工廠は完全に機能停止に陥り、工場長は王国の軍上層部から莫大な違約金を請求されて破滅します。……つまり、経営層にとって最も恐ろしいのは、労働者たちが『団結』し、生産の主導権を握られることなのです」


アレンの言葉が、作業員たちの心に波紋を広げていく。


その時、アレンの横に立っていたカインが、意を決したように一歩前に出た。


「みんな……聞いてくれ! 俺は今日、第五ラインの現場監督に殺されかけた!」


カインの痛切な叫びに、宿舎がどよめく。


「地下のバルブ点検を命じられ、行ってみたら天井が崩落するトラップが仕掛けられていたんだ! 俺が昨日、アレンさんたちに真実を話したから、その口封じのために……! アレンさんたちがいなければ、俺は今頃、鉄骨の下敷きになって死んでた!」


カインは涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、仲間たちに向かって拳を握りしめた。


「俺たちは、使い捨ての歯車じゃない! ノルマのために命を削り、怪我をすれば自己責任と言われ、都合が悪くなれば殺される……こんなのおかしいだろ!? 俺はもう、こんなブラックな職場で、ビクビクしながら働くのはごめんだ!」


カインの悲痛な叫びは、同じように理不尽に耐え続けてきた作業員たちの胸の奥深くに突き刺さった。

誰もが、心のどこかで分かっていたのだ。このままここで働き続ければ、いつか自分もボロ雑巾のように捨てられる運命にあることを。


「……カインの言う通りだ」


ひとりの年老いた作業員が、ゆっくりと立ち上がった。


「俺の息子も、先月あの安全カバーのないプレッサー機に巻き込まれて死んだ。……でも工場長は、見舞金はおろか、機械の修理代を俺の給料から引きやがった……っ! もう、たくさんだ……!」


次々と、作業員たちが立ち上がり始める。

恐怖で縛られていた彼らの心に、怒りと、そして『連帯』という名の炎が灯り始めた。


「素晴らしい。その正当な怒りこそが、組織をあるべき姿ホワイトへ導くための光です」


アレンは満足げに頷き、高らかに宣言した。


「これより、我々第七小隊を後ろ盾とし、王立魔導工廠における『労働組合ユニオン』を結成します! 要求は三つ。不当な減給およびノルマの即時撤廃。完全な安全設備の導入。そして、工場長の退陣を含む経営層の刷新です」


アレンが指を鳴らすと、ティノが分厚い羊皮紙の束を掲げた。


「これが『要求書』です! 皆さん、ここにサインを! 私たち第七小隊が、皆さんの身の安全を完全に保障バックアップします!」

「私も第一騎士団の誇りにかけて誓おう。貴様らに指一本触れさせはしない」

「僕の防御結界ファイアウォールは、工場長の私兵ごときには絶対に破らせませんよ」


ティノ、エルザ、クラウスが頼もしい言葉を口にする。

その圧倒的な信頼感に後押しされ、カインを筆頭に、数千人の作業員たちが次々と要求書にサイン(血判)を刻み込んでいった。


王国史上初となる、労働者たちの強固な『団結』が誕生した瞬間であった。


「……全員の意思確認コンセンサス、確かに取れました」


要求書を受け取ったアレンの瞳が、狩りを前にした肉食獣のように鋭く光る。


「さて、明日はいよいよ本番プレゼンです。我々の要求が呑まれない場合、労働組合が持つ最大の権利――『ストライキ(争議権)』を完全行使します。……ブラック工場長に、絶望的な納期遅れ(システムダウン)の恐怖を味わわせてやりましょう」


その夜。

冷たかったはずの宿舎は、作業員たちの熱気と希望に満ち溢れていた。

長きにわたる地獄の労働環境に、いよいよ最終監査の鉄槌が下されようとしていた。

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