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異世界転生してパワハラ上司を駆逐してたらいつの間にか偉くなってた  作者: ぽてと
第七小隊の労働環境改善〜最強の社畜による軍隊ホワイト化計画〜

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第23話 粉飾決算の代償と、完全なる情報統制

国境付近、『嘆きの森』の奥深く。

太陽の光すら届かない薄暗い茂みの中で、帝国軍第三偵察大隊の小隊長ゲイルは、苛立ちに任せて自身の親指の爪を噛みちぎっていた。


「……遅い。王国のネズミどもは、まだ姿を見せないのか」


ゲイルの周囲には、黒い迷彩服に身を包んだ三十名の帝国兵たちが、音もなく息を潜めている。彼らは皆、暗殺や奇襲に特化した熟練の兵士たちだ。

本来であれば、彼らのような精鋭部隊が、王国軍の落ちこぼれ小隊を待ち伏せるなどという地味な任務に就くことはあり得ない。


だが、ゲイルにはどうしても『王国兵士の首』という目に見える成果アウトプットが必要だった。


帝国軍は、徹底的な実力主義という名の『超絶ブラック企業』である。

ゲイルは前回の作戦で大きなミスを犯し、部隊に多大な損害を出してしまった。帝国軍において、成果を出せない者は容赦なく処刑されるか、最前線の捨て駒部隊(懲罰大隊)へ送られる決まりだ。彼に残された猶予は、今回の巡回任務のみ。

ここで何らかの戦果を挙げなければ、彼の首が物理的に飛ぶ。


(……だからこそ、王都に潜ませたスパイを通じて、あの豚のような将校に金貨五百枚もの大金を積んだのだ。私の裏金がすべて底をついたが、背に腹は代えられない)


ゲイルの要求はただ一つ。手っ取り早く狩れる『弱小部隊』を、この森へ誘導すること。

バッカスという名の王国将校は、この交渉に飛びついた。「二十人以上の無能な新人をそちらへ送るから、好きに処理しろ」と。


「二十人……それだけの数の王国兵の首を持ち帰れば、『敵の強行偵察部隊を我が小隊が壊絶させた』という立派な戦果として報告書を偽造できる。私の命を繋ぐための、安い買い叩きだ」


自身の経歴に箔をつけるための、いわゆる粉飾決算である。

相手が新兵だろうが落ちこぼれだろうが関係ない。ゲイルと彼の部下たちは、自らの生き残りを懸けて、血走った目で獲物の到着を待ちわびていた。


ーー同時刻。『嘆きの森』の入り口付近。


「……なるほど。相手の帝国軍も、どうやらノルマ達成に追われた末端のようですね」


僕は、レノが偵察してきた情報をクラウスの地図と照らし合わせながら、冷たく言い放った。

僕たちの目の前には、不気味な静寂を保つ嘆きの森が広がっている。しかし、僕の手元にある地図には、レノの完璧なリサーチによって、敵部隊三十名の潜伏座標から装備、さらには指揮官の焦燥しきった心理状態までもが詳細にマッピングされていた。


「相手は暗殺に長けた精鋭ですが、心理的にはひどく追い詰められています。絶対にここで僕たちを狩らなければならないという『焦り』は、視野を狭くし、行動を単調にする。……エルザ殿、いかがですか。これが情報統制の力です」


僕が視線を向けると、外部監査役として同行しているエルザは、信じられないものを見るような目で地図を凝視していた。


「……馬鹿な。相手が精鋭の暗殺部隊だというなら、なぜこれほど容易く配置を見破れる。それに、この短時間で敵の指揮官の意図まで読み切るなど……第一騎士団の諜報部でも不可能だぞ」


「彼が優秀だからですよ」


僕が頭上を指差すと、木の枝からレノがひらりと舞い降りた。

彼のポケットからは、微かに特製マタタビ玉の甘い香りが漂っている。適切な報酬と評価を与えられた彼は、今や王国最高の隠密と言っても過言ではない。


「にゃはっ。あいつら、殺気と焦りが強すぎて、森の中でめちゃくちゃ浮いてるにゃ。オレの目と鼻をごまかせるレベルじゃないにゃ」


レノの報告を聞き、エルザはごくりと唾を飲み込んだ。

だが、彼女の表情はすぐに厳しいものへと変わる。


「アレン。敵の配置が分かったからといって、油断するな。相手は三十名、こちらは実質戦力四名と、後ろにいる二十人の素人同然の新人たちだ。まともにぶつかれば、必ずこの若者たちに犠牲が出る」


エルザは剣の柄を強く握りしめ、悲壮な決意を込めた目で僕を見た。


「私が囮になって敵陣に突っ込む。その隙に、お前たちは新人を連れて王都へ撤退しろ。……あのバッカスの豚にはめられたとはいえ、未来ある若者たちを無駄死にさせるわけにはいかない」


かつて正義感ゆえに組織に絶望した彼女の、自己犠牲の精神。

それは騎士としては立派なのかもしれない。だが、僕の組織運営においては、ただの『迷惑な自己判断』でしかない。


「却下します、エルザ殿。僕のチームにおいて、特定の人材に過度な負担を強いる特攻任務(サービス残業)は一切認めていません」


「なっ……! 何を悠長なことを! お前は、あの子たちを死なせてもいいと言うのか!」


激高するエルザを制し、僕は後ろで不安そうに待機している二十人の新人兵士たちに向き直った。


彼らは、バッカスからは「使えない肉盾」として見捨てられた若者たちだ。しかし、今日の完璧な行軍スケジュールと適切な福利厚生を経て、彼らの目には僕に対する確かな信頼が宿っている。


「みんな、聞いてくれ」


僕が声をかけると、二十人の新人が一斉に背筋を伸ばした。


「これより、前方に潜伏している帝国軍の排除業務を開始する。だが、君たちには一切の戦闘行為を禁ずる」


「えっ……?」

新人たちがざわめく。戦場に来て、戦うなと言われたのだから当然だ。


「君たちのタスクは『絶対安全圏での待機』および『事後処理のサポート』だ。クラウスが展開する防御結界の中から一歩も出ず、ティノの指示に従って後方支援のポーションと包帯の管理に徹してほしい」


僕は彼らの一人一人の顔をしっかりと見つめた。


「君たちは決して捨て駒ではない。第七小隊の未来を担う大切な人材だ。だからこそ、安全配慮義務の観点から、未経験者に危険な前線業務を任せるわけにはいかない。……必ず僕たちが全員生きて定時で帰す。僕の指示オーダーを信じてくれるか」


一瞬の静寂の後。

新人兵士たちの瞳から、ボロボロと大粒の涙が溢れ出した。


今まで誰からも期待されず、ただゴミのように扱われてきた彼らが、初めて一人の人間として、組織の重要な一員として認められた瞬間だった。


「はいっ! 僕たち、絶対にアレンさんの指示を守ります!」

「足手まといにはなりません! 全力でサポート業務をこなします!」


力強い返事が森に響き渡る。

もはや彼らは烏合の衆ではない。僕という絶対的な管理者マネージャーのもとで、強固な意思を持ったひとつの組織へと生まれ変わったのだ。


「……信じられない。ただの一言で、これほどまでに部隊の士気を掌握するなんて」


エルザは剣から手を離し、呆然と立ち尽くしていた。

自己犠牲も、悲壮な覚悟も必要ない。ただ正しい論理と信頼関係があれば、組織はこれほどまでに強くなれる。


「さあ、業務改善の最終フェーズです。……クラウス、ティノ、レノ。粉飾決算を目論む哀れな競合他社(帝国部隊)に、我がホワイト小隊の圧倒的なパフォーマンスを見せつけてやろう」


僕の号令と共に、第七小隊の完璧な反撃オペレーションが静かに起動した。

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