第22話 外部監査役の同行と、二十人の新人兵士のホワイト行軍
翌朝、王都の東門。朝霧が立ち込める中、僕たち第七小隊は『嘆きの森』へ向けて出発の準備を整えていた。
そこに、銀色の甲冑を身に纏ったエルザが姿を現した。第一騎士団のエンブレムを輝かせ、赤い髪をポニーテールに結んだ彼女は、僕たちの陣容を見るなり顔をしかめた。
「……おい、アレン。お前たち数人だけかと思えば、なんだその後ろの集団は」
エルザの視線の先には、怯えた顔で身を寄せ合う二十人ほどの若い兵士たちがいた。彼らも同じ第七小隊の所属だが、剣の腕が立たず、魔力もない、いわゆる「使えない」とバッカスに見捨てられた落ちこぼれの新人たちだ。
「バッカス小隊長の命令です。彼らも今回の国境偵察任務のアサイン(配属)に含まれていますからね」
僕が淡々と答えると、エルザはギリッと奥歯を鳴らした。
「ふざけるな。戦力にならない新人ばかり二十人も引き連れて、死地である国境の森に向かうだと? バッカスの奴、完全にこの若者たちを使い捨ての肉盾にする気だ。……アレン、お前もそれを分かっていて連れて行くのか」
「上官の命令は絶対ですからね。それに、彼らは肉盾などではありません。適切なマネジメントさえあれば、立派に機能する『人的資源』です」
僕が出発の号令をかけると、二十人の新人兵士たちは重い足取りで歩き始めた。彼らは皆、絶望的な表情を浮かべている。無理もない。これまでの彼らは、無謀な行軍で疲労困憊になるまで歩かされ、少しでも遅れれば罵倒されるという最悪の労働環境に置かれていたのだから。
だが、僕の構築したプロジェクトチームにおいて、そんな非効率なブラック運用は絶対に許されない。
行軍開始から一時間後。
「よし、全体ストップ。ここから十五分間のインターバル(小休憩)を取る」
僕の指示に、新人兵士たちは戸惑いの声を上げた。軍の常識では、目的地に着くまで足を止めることなど許されないからだ。
「あ、あの……休んでいいんですか? 僕たち、まだ全然歩けますけど……」
「肉体的な疲労が限界に達してから休むのでは遅いんだ。パフォーマンスが低下する前に休むことで、結果的に全体の移動スピードを高く一定に保つことができる。これが『労務管理』に基づいた最適解だ」
僕が説明している間に、ティノが手際よく新人たちに水分と軽食を配り始めた。
「みんな、お疲れ様! アレンが考案した特製の栄養ドリンクと、消化に良いおやつだよ。しっかり補給してね!」
「ク、クラウス先輩!? なんで先輩が僕たちの重い荷物を……」
「勘違いするな。これは私の魔力効率の計算と、重心制御マクロのテストを兼ねているだけだ。君たちに負担をかけないことで、行軍全体の遅延リスクを減らしているに過ぎない」
クラウスが魔法で荷馬車を一括管理し、レノが見えないところから完璧なルートの安全確保を行っている。
疲労困憊になるはずだった新人兵士たちは、自分たちが人間として丁重に扱われ、かつ極めて論理的で安全な行軍をさせてもらっている事実に、次第に目を輝かせ始めた。
「すごい……こんなに楽な行軍、初めてだ」
「アレンさんたちについて行けば、僕たち、生きて帰れるかもしれない……!」
彼らの顔から絶望が消え、僕への明確な『信頼』へと変わっていくのが分かる。正しい労働環境は、末端の従業員(兵士)のモチベーションを劇的に向上させるのだ。
その光景を最後尾で見ていたエルザは、言葉を失っていた。
「……信じられない。ただの落ちこぼれの烏合の衆が、第一騎士団の行軍よりもスムーズに、かつ士気高く動いている……」
「組織の強さは、個人の武力だけで決まるものではありません。適材適所の配置と、適切な福利厚生。それが揃って初めて、チームは最大の成果を出せるんです」
僕はエルザに向かって、静かに微笑んだ。
「さあ、エルザ殿。僕たちが帝国軍の罠をどうやって『定時内』で処理するか、特等席で監査してください」
僕の言葉に、エルザの中で凍りついていた騎士のプライドが、少しずつ熱を帯びて溶け始めていた。




