第18話 納品検収の不合格と、暴落する信用格付け
王都の東門外。深夜の廃棄物処理場に、一台の荷馬車が到着した。
御者は何も知らないただの雇われ人だ。指定された場所に荷馬車を停めると、気味が悪そうに周囲を見渡し、そそくさと王都へ帰っていった。
闇の中から現れた密売組織の男たちは、荷馬車に残された三つの大きな木箱を取り囲んだ。
「バッカスの豚め、ずいぶんと待たせやがって。だが、今回も中身は極上の『王国軍の横流し品』のはずだ」
リーダー格の男が下品な笑いを浮かべながら、木箱に手をかける。
持ち上げた手応えは、ぎっしりと新品の武具が詰まっている確かな重量感だった。クラウスが仕込んだ偽装マクロは、完璧に機能しているようだった。
「さあ、検品といくか。おい、明かりを照らせ」
男の一人がランタンを掲げ、リーダーがバールで乱暴に蓋をこじ開けた。
その瞬間、箱にかかっていた重量偽装の魔法がフッと解け、中身が露わになる。
「なっ……」
ランタンの光に照らされたのは、銀色の輝きを放つミスリル鎧でも、鋭い剣でもなかった。
赤茶色に錆びついた鉄くず。そして、どこで拾ってきたのかも分からないような、ただの丸い石ころの山だった。
「なんだこりゃあ!? 残りの箱も開けろ!」
慌てて他の木箱もこじ開けるが、中身はすべて同じ。完全なる不良在庫の詰め合わせである。
「どういうことだ……っ! あのデブ将校、俺たち帝国を裏切ってゴミを売りつける気か!」
男たちが激高したその時。
頭上の木の枝から、小さなガラス瓶が音もなく落下し、彼らの乗ってきた馬車の屋根でパリンと音を立てて割れた。
「にゃはっ、任務完了だにゃ」
闇に溶け込んだレノの呟きと共に、凄まじい悪臭が爆発的に周囲へ広がった。
「ぐあぁっ!? な、なんだこの匂いは!」
「目が、目が痛ぇっ! クソッ、呼吸ができねぇっ!」
それは、アレンが調合した『激臭を放つ魔物の分泌液(超濃縮版)』。隠密行動をなりわいとする密売人にとって、己の存在を数キロ先まで強烈にアピールしてしまうこの悪臭は、致命的なデバフ(状態異常)であった。
「ゴホッ、ガハッ……! おのれ、バッカスめ! 不良在庫を掴ませた挙句、俺たちを汚物まみれにして笑いものにする気か!」
リーダー格の男は涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら、王都の方向に向かって吠えた。
「絶対に許さねえ! 契約不履行の違約金、耳を揃えて払わせてやる! 帝国の裏社会を敵に回したこと、たっぷりと後悔させてやるぞぉぉっ!」
悪臭に耐えきれず、男たちは這うようにしてその場から逃げ出していった。
もはや、彼らがバッカスと二度とまともな取引をすることはないだろう。
ーー同時刻。第七小隊の兵舎。
『……というわけで、奴ら大泣きしながら逃げていったにゃ』
通信デバイス(トランシーバー)越しに聞こえるレノの報告に、僕は自室のベッドの上で満足げに頷いた。
「ご苦労様、レノ。これで納品検収は不合格。バッカス小隊長の取引先からの『信用格付け(クレジットレイティング)』は、見事に最底辺まで暴落したわけだ」
相手は裏社会の人間である。契約不履行のペナルティは、合法的な督促状などではなく、容赦のない取り立てや脅迫という形でバッカス自身に降りかかるだろう。
巨額の違約金を請求され、資金繰りに追われる上司の顔を想像すると、実に気分が良い。
「僕たちに理不尽なサービス残業を強要した代償です。小隊長には、ご自身の身銭を切って、たっぷりと負債を精算していただきましょう」
僕は快適なベッドの毛布に包まりながら、心地よい疲労感とともに目を閉じた。
最高のチームによる、完璧な業務妨害。これにて、本日のタスクはすべて完了である。
明日の朝、借金の取り立てで青ざめるバッカスの顔を見るのが楽しみだ。




