表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生してパワハラ上司を駆逐してたらいつの間にか偉くなってた  作者: ぽてと
第七小隊の労働環境改善〜最強の社畜による軍隊ホワイト化計画〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/37

第11話 懇親会と、すれ違う組織の人間関係

第七小隊の労働環境を改善するためには、メンバー間の円滑な意思疎通が不可欠である。現代ビジネスにおいて、これを『チームビルディング』と呼ぶ。

その一環として、僕は終業後の時間を使い、ささやかなキックオフミーティング兼、懇親会を開催することにした。


場所は王国騎士団の兵舎に併設された大衆食堂だ。

木製のテーブルに並べられたのは、豆のスープと黒パン、そして少しばかりの干し肉。掃き溜め小隊の薄給では豪華な食事とはいかないが、福利厚生としての経費は僕のポケットマネーから捻出している。


「いやはや、アレン先生の提唱するマクロ構築理論は実に奥深い。今日の演習で試した並列処理による魔力の最適化ですが、もしメモリ領域の解放条件を事前に定義しておけば、さらなる高出力が……」


テーブルの向かい側で、白髪の魔道エンジニアことクラウスが、スープも冷める勢いで早口にまくしたてている。彼の銀縁眼鏡は、食堂の薄暗いランプの光を反射して怪しく光っていた。

かつての気難しく陰鬱な没落貴族の面影は完全に消え失せ、すっかり特定の分野に特化した饒舌なオタクと化している。


「えっと、クラウス先輩。スープ冷めちゃいますよ? それに、そんなに難しい言葉ばかりだと、僕にはよく分からなくて……」


隣に座るティノが、大きすぎる軍服の袖を気にしながら苦笑いをした。彼女……いや、僕の優秀な後輩である小柄な少年兵は、すっかりクラウスの熱量に圧倒されているようだ。


「おっと、これは失礼したねティノ君。先生の画期的な論理に触れ、少々知的好奇心が暴走してしまったようだ。君も先生の右腕として、いずれはシステム構築の基礎くらいは……」


「はいはい、業務時間外の技術トークはそこまでです。今日はあくまでメンバー間の親睦を深めるための懇親会ですからね。コミュニケーションコストを下げるための重要な場です。仕事の話は忘れて、しっかり栄養を補給してください」


僕がたしなめると、クラウスは「先生の労務管理への配慮、痛み入ります」と深く頷き、ようやく黒パンを口に運んだ。


そんな僕たちのやり取りを、少し離れた場所から呆然と見つめている少女がいた。

栗色の髪をポニーテールに結び、食堂のエプロン姿がよく似合う快活な少女。僕の幼なじみであり、この食堂の看板娘であるミアだ。


「お待たせ、アレン。追加のお水と、これ……厨房の料理長からのおまけのソーセージね」


ミアはテーブルにお皿を置くと、心配そうな、それでいて少しホッとしたような視線を僕に向けた。

彼女は昔から僕の世話を焼きたがる傾向があり、僕が掃き溜め小隊に配属されてからも、何かと気にかけてくれていた。僕の首元に巻かれたチェック柄のスカーフを見て一瞬だけ顔を曇らせたが、深くは追及してこない。彼女なりの気遣いなのだろう。


「ありがとう、ミア。助かるよ」

「う、うん。……それにしても、アレンの小隊って、いつもピリピリしてて怖い雰囲気だったのに。今日はなんだか不思議な感じね」


ミアの視線が、クラウスとティノに向けられる。

特に、孤高を気取って誰とも口を利かなかったクラウスが、僕のことを『先生』と呼び、ティノと和やかに(一方的に早口で)言葉を交わしている光景は、彼女にとって信じられないものだったに違いない。


「少しだけ、部隊の風通しを良くしたんだ。適材適所でタスクを割り振れば、無駄なストレスは減るからね」


僕がビジネスライクに答えると、ミアは「相変わらずアレンは難しい言葉を使うのね」と微笑んだ。だが、その直後。ミアの視線が、僕の隣でソーセージを小さく切り分けているティノでピタリと止まった。


「……ねえ、そこの可愛い子。もしかして新入りの子?」

「可愛いだなんて、そんなっ。ぼ、僕はティノって言います! アレンには倉庫の整理から何から、すっごくお世話になってて……僕、アレンのためなら何でもする覚悟です!」


ティノは元気よく自己紹介をし、尊敬と忠誠の眼差しで僕を見つめた。

その純粋な瞳と、ふわりと香る石鹸のような清潔な匂い。そして、スプーンを持つ華奢な指先。


同性の少年兵に向けるには過剰なほどの忠誠心だが、業務に対するモチベーションが高いのは素晴らしいことだ。僕は満足げに頷いたが、ミアの反応は違った。


女の勘、とでも言うべきものだろうか。

ミアは目を細め、ティノのダボダボの軍服の襟元や、丸みを帯びた肩のラインをじっと観察している。


「……ティノ、くん。ふーん……アレンのためなら何でもする、ねえ」


ミアの声が、ほんの少しだけ低くなった気がした。

彼女は僕の顔をじっと見つめ、呆れたような、あるいは探るようなため息をつく。


「アレンってば、昔から変なところで鈍感だから心配してたけど。まさか軍隊に入ってまで、こんな……ううん、なんでもないわ。ティノくん、これからもアレンのこと、よろしくね」

「はいっ! 任せてください!」


無邪気に笑うティノと、どこか引きつった笑顔のミア。

食堂の看板娘と新人少年兵の間で、何やら見えない火花が散ったような気がしたが、僕にはその理由がまったく理解できなかった。

おそらく、新規配属された人材に対する、既存コミュニティ側からの軽い警戒心のようなものだろう。組織の拡大期にはよくある摩擦だ。僕はそう結論づけ、業務の進行には支障がないと判断した。


「さて」


僕は空になったスープ皿を押しやり、思考を次のフェーズへと切り替えた。

内部の備品管理と、火力の確保はできた。しかし、バッカス小隊長の動向を探るための『情報収集能力』が、このチームには決定的に欠けている。

情報を制する者はビジネスを制する。陰で暗躍する上司の不正を暴き、監査を完了させるためには、外部情報を迅速に集める優秀なリサーチャー(隠密)が必要だ。


僕は食堂の喧騒の中で、次の人材獲得に向けて狙いを定めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ