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異世界転生してパワハラ上司を駆逐してたらいつの間にか偉くなってた  作者: ぽてと
第七小隊の労働環境改善〜最強の社畜による軍隊ホワイト化計画〜

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第10話 固定砲台の加入と、沈黙するパワハラ上司

訓練場の分厚い鋼鉄の的をドロドロに融解させた白銀の熱線。

その圧倒的な威力の余韻が冷めやらぬ中、クラウスは完全に理性のタガが外れた様子で、僕の周りをウロウロと歩き回っていた。


「アレン先生。このマクロ構築の論理、もし応用すれば複数の属性魔法を並列処理で展開することも可能なのでは……? いや、魔力回路のメモリ領域さえ拡張できれば、理論上は……ブツブツ」


「ええ、システム容量が許す限りは可能でしょう。ですが、まずは基本となる単一プロセスの安定稼働からです。テスト環境での検証を飛ばして本番環境に実装するのは、エンジニアとして三流のやることですよ」


「おっしゃる通りです、先生っ! ああ、僕としたことが基礎的なデバッグの手順を蔑ろにするとは……」


かつて第七小隊で「使えないひねくれ者」と冷遇されていた没落貴族の青年は、今や完全に僕の『社畜的論理』に心酔し、従順で早口な部下へと変貌していた。

どうやら彼には、圧倒的な火力を持つ『フロントエンド・エンジニア(前衛の固定砲台)』として、存分に働いてもらえそうだ。


クラウスの饒舌な魔法談義を適当に相槌で流しながら、僕は無意識のうちに、首元に巻いたチェック柄のスカーフへそっと触れていた。

スカーフの下には、第七小隊に配属された初日に受けた、凄惨な絞殺未遂の痣が未だにどす黒く残っている。


(……思えば、僕が【アンチ・ハラスメント】のスキルでバッカス小隊長に『物理的監査』を行ってから、数日が経過したな)


あの日、圧倒的な暴力とコンプライアンス違反で僕を支配しようとした醜悪な上官。

僕のスキルによって実力差を脳髄に刻み込まれた彼は、あの一件以来、僕を避けるように自室や執務室に引きこもりがちになっている。表向きは大人しくなったように見える。

だが、前世の過酷なブラック企業での経験から言って、ああいう根っからのパワハラ気質の人間が、一度の反撃で素直に改心することなど絶対にあり得ないのだ。


(表立って直接的な手を出せなくなった分、陰で陰湿な報復人事や、最悪の場合は僕たち部隊ごと潰すための裏工作を行っていると考えるのが自然だ)


奴は第七小隊のトップであり、腐っても王国軍の将校である。

予算の握り潰し、極端に生存率の低い無謀な任務への強制アサイン。彼がその気になれば、合法的に僕たちを死地に追いやる手段などいくらでもある。


「……急がなければならないな。奴が本格的な報復という『バグ』を起こす前に、こちらの防壁チームを完成させる必要がある」


僕が小さく呟いたその時。


「アレーンっ! 備品の在庫チェック、全部終わったよ!」


ダボダボの軍服を着たティノが、手作りのバインダーを胸に抱えて小走りで訓練場へやってきた。

相変わらず、むさ苦しい訓練場には似合わない、石鹸のような良い香りを漂わせている。真面目で几帳面な、僕の優秀な『バックオフィス(後方支援)』担当だ。


「お疲れ様、ティノ。……ん? どうした?」


ティノは僕の隣で異様な熱気を放っている白髪の青年を見て、ビクッと足を止めた。


「あ、あれ……クラウス先輩? なんかすごく、その、ニコニコしてて……いつもの怖い感じじゃない……?」


以前のクラウスなら、新人のティノなど「魔力もない無能」と見下していただろう。だが、今の彼は違う。眼鏡を中指でクイッと押し上げ、極めて理知的な(そして少し早口な)トーンでティノに向き直った。


「君はティノだったね。アレン先生から『在庫管理の主担当』として高く評価されていると聞いているよ。先生が構築する完璧な組織運用において、君の緻密な業務管理能力は不可欠なようだ。せいぜい先生の右腕として励みたまえ。僕は先生の固定砲台として、この部隊の火力を一手に担うことになったからね」


「せ、先生……? こていほうだい……?」


ティノは目をぱちくりと瞬かせ、状況が飲み込めない様子で僕を見上げた。

僕はティノの頭を軽くポンポンと撫でて、口元に薄く笑みを浮かべた。


「気にしなくていい。うちの小隊に、頼もしい大砲が一つ増えたというだけだ」


優秀な備品管理者と、圧倒的な火力を持つ魔法エンジニア。

劣悪だった第七小隊の中に、少しずつだが、僕の理想とする『誰も死なない、残業しないホワイト小隊』の陣容が整いつつあった。

バッカス小隊長がいかなる理不尽な命令を下そうとも、このチームの連携で必ず論破し、定時退社をもぎ取ってやる。


視界の隅では、融解した鋼鉄の的と吹き飛ばされた落ち葉の山を前に、清掃係のトムさんが「俺の……俺の温かいシチューが……」と涙目でほうきを握り直しているのが見えた。

至極真っ当な人生を歩む一般人に、無給での残業(事後処理)を強いるのは僕の信念に反する。彼には後で、備品から極上の疲労回復ポーションをこっそり支給しておこう。福利厚生の充実は、巡り巡って組織の空気を良くするからだ。


僕の異世界ホワイト化計画は、着実に次のフェーズへと進もうとしていた。

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