第7話―27 まどか、報告する
早朝からの円の迷惑な呼び声に応対したのは弥幸だった。寝グセすらも計算され尽くした無造作ヘアに見える、朝イチに目にするには眩しすぎる顔を縁側から突き出した。
「あれ、神谷さんと有明くん?こんな早くからどうしたの?」弥幸はまだ眠いのか目をこすりながら言った。
出てきたのが凛子ではなく弥幸だったのは恐縮しないでもなかったが、円としてはもういろいろ面倒になっていた。いまさらごまかしようもないので、弥幸が喜ぶことをストレートに言ってやろうと思った。
「出ましたよ、オバケ!」弥幸が目を見張るのを確認し、さらに続ける。「私、呼ばれちゃいました、例の "井戸" に!」
「え〜 !? ほんとにぃ?」一気にテンション爆アゲな弥幸が大きな声で驚嘆した。「え?なになに?ちょっと待って、あそこでだよね?井戸って、それ見たの?」
「ええ、まあ⋯⋯」あまりの弥幸のはしゃぎように、逆に勢いを削がれる円だったが、さっき体験したことを順を追って説明していった。
最初ノリノリで楽しそうに聞いていた弥幸だったが、ことがそれほどお気楽な状況でなかったのではないかと気づき、表情を固くした。
「それ危なかったわね」いつの間にか弥幸の背後に立っていた英依が口を挟んだ。「穴に落ちたから助かったのよ。なんていうか⋯⋯位置情報がズレたんでしょうね。そのまま "井戸" に辿り着けていたら、おかしなことになっていたかもね」
英依の解釈を聞いて、円の背筋にゾワワっと怖気が走った。彼女がそう言うのなら本当に危なかったのかもしれない。穴があってよかった⋯⋯省吾をチラッと見る。この空手バカがやる気出していなかったら、今頃は⋯⋯
「あ、でも、そうね⋯⋯ちょっとわかったかも」英依は円に顔を寄せると、クンクンニオイを嗅ぐように鼻を動かした。「あなたかなり核心に近づいたみたいだからね、痕跡が残ってる」
「え?なんですか?」円は自分の体臭を気にして身を離しながら問う。
「ねえ、この家ってなにか大事な物が収められてそうな場所なかった?」
大事な物?そんなものあるとしたら、開かなかった納屋か⋯⋯
「あっ、ありますあります」円は思いついて声が高くなった。その方角を指し示す。「あっち、家の裏に祠がありました。扉がついてて、でも開かなかったんですよね」
「そうそう、小さな石の祠だけどね、扉ぜんぜん動かなかったねえ」弥幸が補足する。
それを聞いて英依は振り向いてジッとそちらを凝視する。そこはただの室内だが、その壁の先にある祠を感知しているのだろうか。
「うん、たぶん当たりね」英依はそう言うと弥幸に向かって「サンダルかなんかある?」と聞いた。
弥幸は奥に戻っていってサンダルと、円たちの靴、そしてタオルも持ってきた。自分はそれから土間に回って、裏口を開けて出てきた。なぜか後ろには凛子がくっついている。凛子は簡単にではあるが朝の身支度も終えていた。
「みんなで行くの?」英依は呆れたように言った。
とりあえず円と省吾は外の水道で汚れを落とし、靴を履いた。準備が済むのを待っていた英依は、なにも言わずに先頭に立って歩き出した。




