第7話―25 寝ぼけまどか
家具もなにもないリビングで、ランタンを囲んで輪になるようにマットレスが並ぶ。全員が中心に頭を向け、その上で横になっている。そうやって彼らは話をしていた。そしてひとりずつ瞼が下に垂れていき、ついには意識を手離した。
いまは明かりも消えているランタンを花芯に、彼らひとりひとりが花びらとなって眠っている。静かな寝息や、そううるさくはないイビキ、たまに寝言。しかしそれを聞く者は誰もいない。回り続けている定点カメラがその音を拾ってくれるだろうか。
静かに、静かに、時が過ぎ、闇の中に仄かな明るさが混じりだした頃、ひとりがユラリと立ち上がった。円だった。彼女はユラユラ揺れながら、立っている。そしてしばらくしてゆっくりと歩き出した。
円は夢の中にいると思っている。立ちあがったまま、その視界に映るものを理解していたが、そこから頭を巡らすことはできない。肉体は彼女の意思では動かなかった。そこから覚束ない足取りで歩き始めたのも意識の外のことだ。
ああ、これは夢だな。円はそう考えながら、ただ成り行きを見ている。足は勝手にノロノロと歩みを進め、部屋を出た。そのまま廊下を進み、縁側へ。今度は勝手に手が動き、掃き出し窓を、身一つ通る程度に明け放つ。
裸足のままで円は庭に降り立った。足の裏に小石混じりの地面の感触が伝わってくる。これでも円はまだ夢の中にいると思っている。彼女の身体は意思とは無関係に、庭のある一点に向かう。
かつて作物が植えられていた畝の名残りも突っ切って、真っ直ぐそこへ歩いていく。庭の隅には "井戸" があった。そう呼ばれたであろう物が、いま円の瞳には映っている。ああこれか、と円は思う。死んだジイさんはこれを見たのか、と。
そういえば井戸の周りに誰かがいるような気がする。なにやら自分を呼んでいるような⋯⋯どうせ身体は言うことを聞かない。円は心情的にも素直に招きに応じるつもりになっていた。
夜明けの薄明かりの中、一歩一歩、一歩一歩、着実に進んでいく。もうあと少し。まだそこにいる誰かの顔ははっきりしないが、すぐに見えてくるだろう。
もうほんの目の前、手を伸ばせば届きそうな⋯⋯そこまで来た時、急に世界がグルっと回転した。




