第7話―24 花火と夜更かし
食後、すっかり暗くなった庭で花火大会が始まった。凛子が買ってきたのらしい。夏のノルマが次々に消化されていく。こんなことは円にはめずらしいことだ。いや、初めてか?
とはいえ円は花火というものにあまり興味がない。家でやるやつは特に。火花がビューっと出たからって何が面白いのかわからない。凛子はキャアキャア黄色い声をあげて弥幸や英依と戯れているが、円はそんな気分じゃなかった。
なぜだろう、日が落ちてしまったら無性に庭の片隅が気になるのだ。昼間省吾たちが穴を掘ったまさにそこ、ついついそちらに目を向けてしまう。見たところなにも異常は起こっていない。思いついてスマホのカメラを向けてもみたが、例のモヤモヤは映らなかった。
そもそもなにかあるなら英依がまず感じ取っているはずだ。気のせいかと思い、円は花火を1本手に取った。それに火を着け、その明かりを頼りに穴の方へと近づいていった。ちょうどその縁に立って、中を覗き込んだ時、花火が尽きた。目の前はただの暗闇。穴の中はなにも見えない。見えないが⋯⋯ぐるぐるぐるぐる回って回って⋯⋯
「神谷さん」
後ろから名前を呼ばれて円はビクッとなった。それが誰かは声でわかっている。なにかがあったわけではないが、円はどこかホッとして省吾を振り向いた。
「あまり穴に近寄ると危ないですよ」と省吾は続ける。
「ああ、うん」円は返事をして、もう一度穴の方へ向き直った。「なんかさ、気になるんだよねえ、ここ」
「落ちないでくださいよ。けっこう深いですから」
「いや、そんなに深く掘ったの有明くんでしょ」円はそう言って穴の中へスマホのライトを向ける。「ほんと、深いよね。深いし、なんかムダに広い。有明くん頑張りすぎでしょ」
「つい夢中になってしまって」と省吾は頭を掻いた。
「うん、やっぱりなにもないね」と円は確認し終えると、穴から離れて省吾の方へ。「気のせい気のせい。さっ、戻ろっか」
そう言いながらも微かに後ろ髪引かれる思いで円は皆のいるところに戻った。
全員が風呂に入り、寝支度も終えてから、合宿最後の夜が始まった。リビングに銘々のマットレスを持ち寄り、いつ寝落ちしてもいいように準備が整えられた。
室内及び庭の異変には全員で気を配っておくとして、ただじっと待ってるわけにもいかない。眠気覚ましというかなんというか、とにかくなにかしていようということになり、結局オカ研らしく怪談会が始まった。電気を消して、明かりは部屋の中央に置かれた弥幸のLEDランタンのみ。いい雰囲気だ。
怪談の現場で怪談話というのも乙なものである。まあ通例ならこれも心霊現象を呼び込む手法として効果が期待できるだろう。この手の話の蒐集家である英依がいるが、円も張り切ってこれまで蓄積したものを披露した。
どんな話をしても山場の部分で必ず凛子がいいリアクションをくれるので面白い。円は楽しくなって、その語りにも熱がこもった。上客には優しくなれる。凛子はあざとくも、いちいち弥幸に密着しようとするが、円はそれを見ても、よいよい、よきにはからえ、としか思わなかった。
そんなふうにこの日の夜は更けていった。やはりなにも起こらない。誰からというわけでもなく、ひとり、またひとりと睡魔に囚われていく。最後まで粘っていた弥幸もついに眠りに落ちた。その際日常のクセだろう、ランタンのスイッチを忘れずにOFFにした。




