第7話―21 英依先輩、感心する
省吾、あなたすごいじゃない」と英依は後ろに立つ省吾に振り返って称賛した。
心霊現象に対する感想を待ち構えていた円はガクッと脱力する。いや、そりゃたしかにすごいけども、そうじゃない、そうじゃないんだよなあ。
「ちょっとほら、私にもやって見せてよ」英依はそう言って立ち上がろうとする。
「英依さ〜ん」それを制止するように弥幸が声をかけた。自分でパソコンを操作して、例の場面をもう一度再生する。「ほら、ここ、これ見てよ〜映ってるでしょ〜?」
英依はそう促されると面倒くさそうに腰を落ち着け、画面に目を向けた。だが、やはりあんまり興味がなさそうだ。円が省吾のウンチクを聞いている時と同じ表情をしている。
「うん、まあ、なにかいるのはたしかね」英依はそれ以上のことは口にしようとしない。
「これってそんなに危険はない感じですか?」円はこらえきれずに質問する。
「危険といえば危険かもしれないわね。こういうの見たのが気になって不眠症になるかもしれないし、なにか作業中に見たら気が散って事故が起きるかもしれない」
なんでこの人はこういう言い方しかしないんだ、と円の不満がたまっていった。こっちがなにを言っているのかわかってるくせに。
そんな円の内心を見透かすように英依は微笑んだ。円は目を向けられてドキッとする。顔には出していないつもりなのに、心を読まれたような気がした。脂汗が額を伝う。
「これだけ見てもね」英依は今度こそ立ち上がった。「私もそんななんでもかんでもわかるわけじゃないのよ。だからほら、現場に行くわよ。省吾、早く着替えなさい」
ぞろぞろと他の者らを引き連れて庭に出た英依は、現場検証はそっちのけで省吾のボトルキャップチャレンジを見物した。円がペットボトルの持ち手を務め、省吾が様々なパターンで技を披露する。相変わらずの精度で省吾はこなし、英依は手を叩いて喜んだ。
「たいしたものだわ。これだけやって失敗しないなんて」
「いえ、まだまだです」と省吾は謙遜する。
「そういうのよくないわよ」英依は急に鋭い視線を飛ばした。「これだけの技が一朝一夕で身につくものじゃないって、誰にだってわかるんだから。自分でも自信があるでしょ?謙遜は美徳だけど、やりすぎは嫌味よ。堂々としていなさい」
「はい」と省吾は返事をし、丁寧な動作で礼をした。
(あ~わかる〜)円は目の前で繰り広げられたやり取りに勝手にシンパシーを感じていた。英依もいま気持ちよくなってるんだな、と。他人に説教するの最高だよね、とパワハラまどかが間違った解釈をしている。みんながみんなお前と同じじゃないんだぞ、目を覚ませ!
「それではなえせんぱ〜い、あそこに "井戸" ってあったと思います〜?」凛子が、おそらくは弥幸をアシストするつもりで、めずらしくオカルト関連の話題を振った。
「そうねえ⋯⋯それが "井戸" かはわからないけど、なにかしらの揺らぎのようなものは感じるわね」凛子の問いにはすんなりと答える英依。
なんだそりゃ?と円は思ったが、ようやく話が引き出せそうだ。凛子にもっと詳しく聞けと目で合図を送った。
「揺らぎっていうのはなんですか〜?」凛子は円のためにではなく、弥幸のために尋ねた。
「あそこってなんか境界が曖昧な気がするのよね」英依は自分の顎に指を添えて考える。「昔がどうこうってことでもなくて⋯⋯なんていうか、まだ切れてないっていうか⋯⋯」
円は弥幸を見て、なにを言っているのかわかるか確認しようとした。弥幸はその意図に気づいたのか、残念そうに首を振って見せた。
(やっぱりわからないか⋯⋯)いや、円もなんとなく感覚的には理解できそうな気はするのだ。しかしどうしても芯の部分をつかみきれないでいた。おそらく英依も同じなのだろう。これはやはり実際に異変に遭遇するしかなさそうだ。
根拠はないが、今夜こそ、なにかが起こりそうな気がしていた。きっと英依もそういうのを嗅ぎ取ったからここに来る気になったのだ。円はそう考えてブルッと震えた。これは恐怖ではない、武者震い。身体の奥から衝動が突き上げるようにやってきた。




