第7話―20 ヤツが⋯⋯来た
唐突に現れたこのアクの強い先輩を前に立ちすくむ円。(なんだあのバイク !? あんな⋯⋯あんなもん、アメリカンポリスじゃねえか⋯⋯)
そのゴツい車体と大きな風防、あちらさんの屈強な犯罪者をも威圧するような圧倒的な存在感が円を震えあがらせた。もうダメだ、オシマイだと自然と両手が前に差し出される。
そんな円の内心の動きなど気にも留めず、最初の驚嘆の声に反応した英依はさっと手をあげると、メットを脇に抱えたままスタスタと円の傍にやってきた。
「へぇ、けっこう立派なお家ね」英依はそう品評し、まだ固まったままの円の肩をポンと叩いた。
それをきっかけに一挙に身体の力が抜ける。円は膝から崩れ落ちそうになるのをかろうじて耐え、英依に敵意がないことをアピールする微妙な笑顔を向けた。
「先輩、どうして⋯⋯?」ようやくそれだけの言葉を発する。
「来れたから来たのよ」と英依はなんでもないことのように言った。
やはり英依は "行けたら行く" で本当に来てしまう人物だった。それにしてもこんな遠方の、夏合宿にまでそのノリでフラっと現れるなんて⋯⋯(円の)常識の範疇を軽々超えてくるこの怪人物に、円の頭脳はパニックに陥った。
(ヤバい、もうコリンで遊んでる場合じゃねえ、なるべく目につかないよう大人しくしていないと⋯⋯)殺られる!と円の本能が警告する。いや英依さんそんないきなり灰皿で殴ってくるような人じゃないからと地の文からのツッコミも届かない。
「なによ、変な目で見て」その言葉に曖昧に首を振る円に首を傾げ、英依は続けた。「まあいいわ、ここ暑いから早く中に入りましょう」
そう言って前に立って歩き出した英依は、初めて来たはずなのに庭に回って裏口の方へ向かった。途中素人土木作業の跡を見て、「ふ~ん」となにやら意味ありげに頷いたが、後ろからついていく円は気づかなかった。
「あっ、はなえ先輩だ〜」と土間に降りてきていた凛子が出迎える。
「えっ、英依さん !? うわぁ、来てくれたんだ」中から弥幸も出てきて、そのイケてる面いっぱいに喜びを表す。
「あんたがいい映像撮れたからって、来い来いしつこくメッセージ送ってくるからじゃない」と英依はさほど迷惑ではなさそうに、それでも顔を歪めてみせた。
「いやホント、すごいの撮れたんだから!」弥幸はじゃれつく子どものようにそう主張した。「まあまあ、中で見てみてよ、スゴいんだよ。ほら上がって上がって」
熱心な弥幸の言葉に促され、英依はちょっと難渋しながらロングブーツを脱ぎ、屋内へと案内されていった。凛子も飲み物の準備をしてさっさと行ってしまった。ひとり取り残された円はそこでようやくひと息つくことができた。
「やはりすごい人ですね」
思いがけず声をかけられ、円の身体がぴょこんと跳ねた。振り返るとそこには省吾が立っている。
「あれ、有明くんいたの?」と円はそんなこと聞かれたら人によっては泣くぞというようなことを言った。
「はい」省吾は真剣な顔で頷いた。「怖かったのでなるべく気配を出さないようにしていました」
お前は忍者かよ!あれか?ニンポーカラテってやつか?円は心の中で思いつつ、同士を得た心強さを覚えていた。
「だよね、やっぱビビるよね」そういえば英依への恐怖心を最初に表明したのはコイツだったよなと思いながら、円は省吾に賛同する。「平気なアイツラが変なんだよ。あれかな?オカ研の内にいるか外にいるかで違ってくるのかな?」
「どうなんでしょうね?群れの内外で感じ方が違うのはあるかもしれません」と省吾は生真面目に検討する。
「まあいいや、怖いけど英依先輩があれ見てなんて言うか気になるね。行こ行こ」円は言いながら省吾の腕を引っ張った。
省吾は「ですね」と返して素直につれていかれた。




