第7話―19 コリンランチとお昼寝
昼食はそうめんだった。夏の簡単ランチの定番ではあるが、テーブルの上にずらりと並べられたそれはものすごく手が込んでいた。
麺はひと口分ごとに丁寧に分けられているし、具材も豊富だ。錦糸卵にカニカマ、鶏の胸肉を割いたもの、野菜はキュウリの千切りとミョウガにオクラ、トマトは角切りになっている。あとみそ汁とおにぎりも。
円は美しく盛り付けられたそれらに感心した。コリンもなかなかやるじゃねえか。味もちゃんとしている。うまい!⋯⋯うまいが⋯⋯なんか当てにいきすぎじゃないか?
お前もっとこう、ネタになるようなさあ、そんなギャルギャルしい見た目してるのに、こんな無難な、アベレージヒッターでいいんか?もっとデカいの狙っていくのがギャルってもんじゃねえのか?
午前中のパワハラまどかがムクムクと鎌首をもたげる。ああ、説教がしたい。円は一度覚えた快楽への誘惑に耐えた。いまはダメだ、いまじゃない。ここでは人目につきすぎる。気持ちを抑えるために勢いよく麺をすすった。うめ、うめ、トマトの酸味がつゆによく合う!おかわりもいいぞ!
ワイワイ楽しい食事が済み、凛子が甲斐甲斐しく弥幸に飲み物を運んだ頃、これからの方針について話し合いが持たれた。
「さて、お昼はどうしようか?」弥幸が問いかける。「結局 "井戸" はなかったしね。まあ位置が間違ってたって可能性もあるけど⋯⋯さすがに炎天下でこれ以上穴掘りはムリだから他のことをしようか」
「といってもこんな明るい夏のお昼になにか起こるって気もしないですよね」満腹になって冷静さを取り戻した円が返した。
「だよね~」弥幸はそう言うと両手を枕にして後ろへのけぞった。意外と体幹が強い。「なにか調べようにも、そういうのは叔母さんの知り合いがやっちゃったしなあ」
「地域の歴史とかそういうのですか?」と円。
「そうそう。図書館とかで調査したみたいだけどね、これといって収穫はなかったらしいよ」
「ならやれることはないですね」円はそう言ってテーブルに突っ伏した。顔を両腕に伏せたまま、くぐもった声で続ける。「お昼寝でもしましょうか?」
「そうだね、そうしよっか」
適当に言った意見を肯定され、円は意外に思いながら顔を上げた。真意を確かめようと弥幸の顔を見る。弥幸はその視線を受けてニコッと笑った。
「メインはやっぱり夜だからね。今夜はもうちょっと夜更かししてみようか。それに備えてお昼寝しよう」
午後の時間は静かに過ぎていった。銘々が自分なりの仕方で休息を取った。肉体労働に従事していた男子二名の寝息が聞こえる。凛子も寝ているのかはわからないがマットに横になっている。
省吾などは昼寝なんかより空手の稽古でもしたいのではないかと円は思い、実際そう尋ねてみた。すると彼は休養の重要性を、なんだか小難しい言葉で語り出した。例のごとく円はそれらをスルーしたのだが、要するに休まないと筋肉は成長しないということらしい。
円自身はウトウトとしながらも深い眠りには入れないでいた。睡眠と覚醒の狭間を行き来している。いっそいま省吾の講義があればと思った。きっとスヤスヤと気持ちよく眠れるだろう。それでもハッとなってスマホを確認する度に、確実に時間は経過していた。寝てないつもりでしっかり寝ていた。
そんな円の眠りは唐突に邪魔をされた。外の方からドドドドドッと、なにやら腹に響く重低音が聞こえてきた。円はン?っと身を起こす。まわりを見ると他の者もこの音で目覚めたようだ。目を擦ったりしている。
いったいなんの騒ぎかと気になって仕方のない円は、思い切って立ち上がり、土間へ向かった。そこで靴を履いて外に出て、息を潜めてソーっと玄関を偵察した。⋯⋯あっ !?
――そこにはやけにデカいバイクと、黒尽くめで、黒いフルフェイスを被った人物。大柄だが、ボディラインを見るに女性のようだ。彼女はヘルメットを脱ぐと、押し込められていた豊かな髪の拘束を解くように頭を振った。
そうして顕になったその顔を見て、円は思わず声をあげた。
「は、英依先輩 !? 」




