第7話―18 裏の祠を検証する
「あっ、そっちじゃないです、こっち」と円は先走る弥幸を後ろから誘導しながら家の裏の祠へ案内した。最後方には省吾がついてきている。
「あっ、これかあ」弥幸は大げさに声をあげ、祠の周囲をグルグル回って観察した。はしゃいではいるがむやみに触ったりしないのは、この手の物に対する敬意からだろうか?
「ねっ、普通でしょ?」円はそう言って弥幸の感想を引き出そうとする。
「いやあ、なかなかどうして、いい雰囲気じゃない。この苔むしている感じがいいよね。趣がある」言って弥幸はそっと緑の上を指でなぞった。
「こういうのって昔の家にはけっこうあったんでしょうか?」省吾が尋ねた。
「ああ、うん、いわゆる屋敷神ってやつだよね」我が意を得たりと弥幸は楽しそうに答える。「家や土地を護ってくれる神さまを祀るってのはよくあったみたいだね。お稲荷さんが最も一般的じゃないかな?他にも八幡さまとかね」
「ここは農家だったから、やっぱり豊穣を願ってってことですかね」と円。珍しくまともに話を聞いている。
「たぶんそんなとこだろうね。それか神格化した祖先の霊とか。なに祀ってたのかなあ」弥幸は祠の扉の上あたりを指でこすっている。「⋯⋯ん?なんか彫ってある⋯⋯へ、へんろ⋯⋯へんろ?なんとか、ろりんのみこと⋯⋯かな?」
たしかにそこには摩耗して読み難い漢字が彫ってあった。"遍露■遍露■■露隣命" おそらく名前なのだろうが、どう読むのかもわからない。
「なんですかね、これ」円も祠に顔を寄せて解読を試みるが、捗々しくない。「まあ、なんとかリン様って神さまなんでしょうね。コリンちゃんの仲間かな?」
「聞いたことない感じだよね。この中に由来とか書いたの入ってないかな?」弥幸は一転、大胆にも扉に手をかけた。「あれ?開かないなあ」
円も引っ張ってみたが扉は接着してあるかのようにピクリとも動かなかった。これはムリだと弥幸に向かって首を振った。
「どうします?いっそのことぶっ壊しますか?」円は弥幸に尋ねながら、省吾の方をチラリと見た。石だけど中が空洞なら省吾だったらいける⋯⋯のか?
「ああ、ウ~ン、中どうなってるか見たいけどなあ」弥幸が悩ましげに上体をくねらした。「でもさすがに断りもなしに器物損壊はマズイね。一応確認してみるまでは保留ってことで」
「ま、そうですよね」だいたいこういうの壊すのってフラグだしな。やめといたほうがいいか、と円も納得した。
それからもうしばらく祠の苔を削ったりしていろいろ検証してみたが、特になにも見つからなかった。一行は適当なところで切り上げて引き返した。
戻ってみるとエプロン姿の凛子が外でウロウロしている。3人の姿を認めると手を振った(その対象は弥幸だけだったろうが)。
「あっ、いた〜!もうせんぱ〜い、どこ行ってたんですか〜?お昼できましたよ〜」
「ゴメンゴメン、ちょっと裏の祠ってのを見物にね」弥幸はニコニコしながら弁解した。
「もう~、ごはん冷めちゃいますよぉ」凛子はプンスカ怒っているようなポーズをしている。
おいおい、若奥さま気取りかよ、と円は凛子のロールプレイを冷ややかに眺めたが、特になにもツッコまなかった。それどころではない、私は腹が減っているだけなんだ⋯⋯
ろくな働きもしていない円だったが、なぜか一番空腹を覚えていた。土間に向かう道すがら、円の腹がまたもグゥと鳴った。




