第7話―11 笑っていいとも!
戻ってきたふたりに披露したボトルキャップチャレンジはやはり好評だった。常に省吾に好意的な弥幸はもちろんのこと、凛子までもが素直にその腕前を称賛した。省吾は少し照れくさそうだった。
円はせっかくだから動画を撮ろうと主張し、弥幸も賛成してすぐにカメラを持ってきた。ペットボトルの持ち手は凛子に任せた。円がやってもよかったのだが、なんとなく凛子に勧めてみた。当然のように彼女は拒否したが、なら自分がと弥幸が言い出すと、やっぱりやりますと翻した。弥幸が蹴られるくらいなら、ということか。実にけなげなことだ。
最初やった時の円と同じようにガチガチの凛子だったが、省吾は問題なく成功させた。その後いくつかのバリエーションも。あまりの精度の高さに凛子もついに納得し、弥幸が持ち手を務めることを認めた。
などとワイワイやっているうちに日が傾いて、空が赤く染まってきた。弥幸は夕食を作るために屋内へ向かい、凛子も手伝いについていった。省吾はまた稽古の続きに戻り、円は特にすることもなくその様子をボケっと見守った。
「ごはんできたよ〜」という弥幸の声。なぜか彼は外からやってきた。「裏口から土間に回ってね」
「あっちで食べるんですか?」円は立ち上がりながら尋ねた。
「うん、土間の方が台所も広くて使いやすいしね。たぶん住んでた農家の人たちもあっちをメインに使ってたんじゃないかなあ」
円は弥幸とともに土間へ向かった。省吾は外の水道で顔と手足を洗って、少し遅れてやってきた。
土間には弥幸のアウトドア用のテーブルと椅子が設置されている。凛子は料理の乗った皿をめいめいに配った。その皿を手にした瞬間、円にある閃きがあった。
(生姜焼き⋯⋯?ま、まさか !? )いただきますもせずにヒョイッと箸でひとつかみ口中に投じる。(やっぱり⋯⋯タモリ流生姜焼きじゃねえか!)
肉にまぶされた小麦粉のトロミと肉自体の柔らかさ、そしてタマネギのたしかな存在感。"生姜焼きの半分はタマネギを食う料理" との格言の通り。間違いない、タモさんの生姜焼きだ。
以前キャンプの時タモリカレーを出してきたことで、円は弥幸のことをよっぽどのカレー通だと判断したが、そうではなかった。コイツは、弥幸は⋯⋯よっぽどのタモリ通だったのだ!
「ちょっと円ちゃん、お行儀悪いよ」と凛子がたしなめる。
(うっせえ、素人は黙ってろ!)円は凛子を無視してニコニコ笑顔の弥幸の顔を凝視した。
なんという男だ⋯⋯コイツ、前回もそうだが、タモリレシピの料理をサラッと振る舞って、そのことをアピールしもしねえ。おそらく、そんな必要もないくらいタモリレシピが日常なのだ。
ということは料理に関してはもうほとんどタモさんじゃないか。弥幸がいる限り、食事の時間は森田一義アワーである。円はこの時初めて、三浦弥幸という人物が魅力的に思えた。
生姜焼きは他の者にも好評で、凛子は「おいし〜」を連発し、省吾はモリモリと白飯をかっこんだ。そんなみんなを見て弥幸は満足気な表情を浮かべる。円は黙々と食を進めたが、顔を上げてその弥幸を目にする度に、そこに黒いサングラスの幻影を見た。




