第7話―9 再び庭の様子を見る
掃き出し窓から見える光景はついさっきまでとはガラリと変わっていた。青々と茂っていた草が刈られ、薄茶色い地表が露出している。もともと菜園であった名残の畝の痕跡も見て取れた。
そんなにも変貌した庭の隅では、いまだに弥幸が草刈り機をブイブイいわせている。完璧に仕上げてしまわなければ気が済まないのだろう。細部までのこだわりが感じられた。
「うわ~なんかすごいことになってるね」円が感嘆の声をあげる。
「そうですね、キレイになりましたね」省吾も同調した。
「あの人、草刈りが好きとか言ってたんだよ。変わってるよね」円は弥幸を指さしながら言った。「まあでも言うだけのことはあるわ」
「わかる気がします」省吾は弥幸の仕事ぶりをジッと見つめながら言う。
「そう?」円は省吾を見る。コイツラなんか訳わかんないとこで通じ合う時あるよなと考えた。「じゃあやらせてもらえば?」
「いえ、そんな横から入って先輩から取り上げるようなことは⋯⋯」
なんだその遠慮?仕事代わりにやってもらえるなら楽でいいだろ。意味わかんねえ、草刈りを遊び感覚で捉えてんのか?円は首をひねった。
「まあいいや、とりあえずもう終わりそうだし下りてみようよ」
ふたりは玄関に履物を取りにいき、縁側から庭に下り立った。さっき来たとき足首を撫でるようだった草がなくなり、ずいぶん歩きやすくなっている。
「この縁側から外に出て⋯⋯」円は歩きながらブツブツ呟いた。「隅っこって話だから、発見されたのは⋯⋯いま先輩が刈ってるあたりかな?」
危ないのでまだ近づけないが、遠目で見ても井戸っぽいものは見当たらない。ずっと地続きのただの地面だ。
「なんなんだろうね?井戸ってさ、そんなのないっつーの」円は誰に言うともなく言って、その場にしゃがみこんだ。
「でも古い農家ということなら井戸があっても不思議じゃない気がしますね。水は必要なわけですし」横に立った省吾が応じる。
「う〜ん、でも畑はまた別にあるわけでしょう?農業用水ってことならそっちだろうし⋯⋯ちょっと私、都会っ子だからわかんないな」
そんなことをふたりで検討していると、後ろから声が聞こえてきた。
「せんぱ〜い、そろそろ休憩してくださ〜い」凛子がペットボトルの入ったビニール袋を持って立っていた。「水分補給しないと倒れちゃいますよ〜」
おお、出来る嫁アピールか、やるじゃねえか、と円は寄っていった。ペットボトルを受け取ろうと手を伸ばす。
「は?なんで円ちゃんにあげなきゃいけないのよ。みゆき先輩のに決まってんじゃん」凛子は厳しい目を向けそう言った。
「いや、あんたいっぱい持ってんじゃん。1本ちょうだいよ」
「まず先輩が選んでからに決まってるでしょ。円ちゃん常識なさすぎ〜」凛子は見下すような笑みを浮かべる。
くっ、コイツ⋯⋯円のこめかみに青筋が立ったが、言ってることが正論なだけに言い返せない。仕方がないので縁側に腰を下ろし、弥幸が戻ってくるのを待った。
「あっ、おつかれ様で〜す」凛子が言いながら袋を差し出す。「どれにします〜?好きなの取ってください」
「うん、ありがとう」弥幸はたいして選ぶでもなく、一番手前に見えている麦茶を手に取った。
すると凛子も同じものを選ぶ。そして袋をそのまま放るように、ドサッと円の膝の上に置いた。コノヤロウ、とイラッときたが、ここは円も大人になって、黙ってコーラを取り出す。省吾はやはり水を選んでいた。
「先輩、あそこなにかありましたか?」円はコーラを飲んでおくびをこらえながら尋ねた。
「ん?⋯⋯いや、なにもないね。草が生えてるだけだったよ」
「やっぱりそうですよね」
「まあ元の持ち主も知らないって話だからね、そんな簡単にはわかんないでしょ。ボチボチやっていくしかないよ」
まだ日は高く、気温も高いが、遠くでカラスがカァと鳴くのが聞こえる。少しだけ夕方の気配が近づいてきたのだろうか。円はまだ青い空を見上げ、雲が流れるのを眺めた。
「夜に期待ってことですかね」円はそう言うとコーラをぐいっと呷った。




