第7話―7 おサボりまどかのお宅訪問
家の中にはハタキを持ってひとり黙々と掃除を続ける省吾の姿があった。これは悪いことしたなと微かに思った円は、遅ればせながら手伝おうと省吾に話しかけた。
「それじゃあ神谷さんは向こうの、ハタキをかけ終わった部屋をホウキで掃いていただけますか」省吾はそう指示を出すとわざわざホウキを取ってきて円に手渡した。
「ああ、はいはい、OK」円は指示通りそこへ行って掃除を開始する。
しかし、やはり円である。ホウキの使い方など知っちゃあいない。畳の目の方向などお構いなし、穂先を床に押しつけるようにして不器用に掃いている。その様子が目に余ったのだろう。省吾がすぐに駆け寄ってきた。
「神谷さん、ホウキの使い方が違います」そう言って円から取り上げると、実例を示してみせた。「こうやって、床と穂先が水平になるように、優しく撫でるように使ってください。あと畳の目に沿って⋯⋯こうです。いいですか」
なんだコイツ、姑かよ。円は思いつつも表面では「OK、OK」と軽く返事をして、教えられた通り掃いた。それを見て省吾は満足げに頷いて、もとの作業に戻っていった。
さっきよりはマシだが、それでも大雑把に部屋を掃きながら、円は省吾の動きを観察していた。テキパキと、円にはそれが正式な手順かどうかは判断できないが、あるルールに基づいて進められているのが見て取れた。
実に手早く、それでいて丁寧にハタキをかけ終わり、自分も掃き掃除に移行する。ダラダラやっている円などあっという間に追い越して、ドンドン仕事を終わらせていった。
こりゃあ任せてしまった方が早いなと考えた円は、ひと部屋掃き終えただけで投げ出して、ソっとその場をあとにした。
特にすることもないので、家の中をブラブラと探検する円。表でパッと見た感じよりは広い家だと感じられた。なんだか奥行きがある。風呂場、トイレと見て回り、水道をチェックする。蛇口をひねると少し濁ったような水が出たが、しばらく出しっぱなしにしているときれいに澄んだ。弥幸が言っていたようにライフラインは問題なさそうだった。
そこで風呂掃除でも始めれば上等なのだが、もちろんそんなことはなかった。水を止めてまた移動する。風呂場のすぐ横は土間になっていた。サンダルがあったのでそれを履いて下りていった。
かなり広めなのが農家っぽい、と円は思った。台所は別にあったはずだが、ここでも煮炊きができるような設備が整っている。通常のキッチンの脇に古びたカマドまであった。この真ん中におそらく大きなテーブルや椅子かなんかがあって、畑仕事を終えた人がそのまま入ってきて食事でもしたのではないか。円はそんな場面を想像した。
土間から繋がる裏口を出ると、ボロっちい建物があった。ああ、これが納屋ってやつか。そう思って中を覗こうと大きな引き戸を引いてみたが動かない。なにかぐっと重い抵抗感があった。鍵がかかっているのだろうと諦めて、その周りを歩いた。
狭い隙間を伝っていって、納屋から母屋の裏へと進んでいく。すると表の玄関のちょうど真裏辺りだろうか、石造りの小さな家みたいな物体があった。
(これは⋯⋯祠かな?)屋根があり、その下に小さな扉がついた長方形。それらが土台の上に乗っていた。ちょうど全体が円の胸くらいの高さ。すべて石でできていて、苔で緑に染まっている。
円はその扉の中身が気になったが、こういうものを触っていいものかどうかわからなかった。とりあえず手で屋根のあたりをササッと払ってみたが、湿っぽい苔が手についただけだった。
そうこうしていると表で音がした。たぶん草刈り機どもが戻ってきたのだろう。探検はこんなもんかと、円はもと来た道を引き返していった。




