第7話―6 庭の様子を見に行く
掃除を始めて、いの一番に庭を確認しにやってきた円は、誰に阻まれることなくスクスクと成長した雑草を目にした。家庭菜園があったはずだが、全体が緑に覆われていた。人が手を入れないとこんなにもなるのか、とシティガールな円さんは思った。
「うわあ、これはすごいことになってるね」後ろから弥幸の声がする。彼もやはり気になって、まずここにやってきたのだろう。
「井戸がどうとか全然わかんないですね」円は両手で庇を作って日光の直射を避けつつ、ぐるりを見渡してそう言った。
「これは草刈りも必要だなあ」
弥幸のそんな言葉に円はなに !? と振り返る。まさかこの炎天下で草刈りをやらせるつもりなのか?イヤだイヤだ、絶対イヤだ、と円は目で訴えた。しかし弥幸はクルッと後ろを向いて、スマホを操作している。
「あ、どうも、おつかれ様です」どこに電話しているのか弥幸は丁寧な口調で話す。
円はその様子を眺めながらコイツ大人だなあと思った。円の社会に対する貧困な想像力が、そこにビジネススーツに身を包んだサラリーマン弥幸を現出せしめた。なんの話をしているのかわからないが、すごく立派な人間に見える。来年には自分もあんな風に話せるようになるだろうか。とてもそうなるとは思えなかった。
「⋯⋯ああ、はい、ありがとうございます。はい、わかりました。それじゃあやっときますので、はい、失礼します」電話を切ると弥幸は振り返ってニコッと笑った。「草刈り機貸してもらえることになったよ。ご近所の農家の人に頼んでくれるって」
「この暑い中、草を刈るんですか?」円は弥幸が楽しそうに言うのが理解できない。
「ああ、大丈夫、僕がやるから。けっこう好きなんだよね、草刈り」と弥幸はさらに円にはわからないことを言う。
こんなイケメンが草刈りを好きだなんて⋯⋯というか誰がこんなイケメンに草刈りなんてやらせたんだ?そんな資源のムダが許されるのか?円の疑問は尽きない。
「ちょっとせんぱ〜い、なにやってるんですか〜」と甘い声がした。見ると凛子がパタパタと駆けてくる。なにやらやけにデカい帽子をかぶっていた。
「いやほら、庭がすごいでしょ」弥幸は凛子にも笑顔を振りまきながら答えた。「これから草刈りでもしようかなってね」
「え〜、ダメですよせんぱい、日に焼けちゃう。そんなのは省吾くんにさせればいいんですよ〜」などと凛子はなかなかひどいことを言う。「それか〜円ちゃんやれば〜」
「ヤダよ」円は凛子には構わずバッサリ切って捨てた。
「え〜、いいじゃん。円ちゃん日焼けとか気にしないでしょう?」
「その帽子ちょうどよさそうじゃん。あんたやんなよ、弥幸先輩も喜ぶよ」
女ふたりバチバチと火花が散った。睨み合う両者、激闘を予感させるフェイスオフであった。しかしここで水入り。スマホが鳴った。弥幸が確認している。
「おっ、先方の了承取れたって。ちょっと行ってくるね」そう言い残して弥幸は立ち去った。
「あっ、待ってくださいよ〜」と凛子がその後を追っていく。
ただひとりその場に残された円は、急に静寂に包まれたように感じる庭をもう一度見渡した。蝉が鳴きやんだ気がしたが、それもほんの一瞬だった。夏の気配は色濃く、キツい日差しと頬の横を伝う汗が不快だ。向こうでエンジン音がしたのをきっかけに、円は家の中にいようと玄関へ取って返した。




