第7話―5 出発!夏合宿
つい最近見たような光景が円の目に映っていた。まず自分がいて、そのすぐ前の運転席に弥幸、左斜め前の助手席に凛子がいて、隣には省吾がいる。車もまったく同じSUV、MAYOI号である。
結局英依は集合場所には現れなかった。凛子はそれを大げさなくらい残念がっていたが、考えてみればこの車内の状況に英依をプラスするというのが、円にはどうにも想像がつかなかった。どの位置に座ってもらえばいいのか?どこに置いてもしっくりこない。あえて言うなら運転席だろうか。
オカルト的な面では彼女の不在は不安要素ではあるが、合宿ということなら気詰まりがなくていい。二泊三日、状況によっては三泊四日の可能性もあるってことだが、その間ずっとある種の緊張感を持って過ごすのはシンドイだろう。たぶん自分も省吾も、凛子みたいには馴染めない。これは今後も変わらないと思う。
車は順調に進んでいく。郊外に出て、そこからちょっとした市街地を経由し、また郊外へ。この繰り返し。どこも似たような風景が広がっている。そこからは地域ごとの独自色などはまったく感じられなかった。円の目にはこの前行った廃村のほうがずっと個性的に見える。地域性というのは意識して演出された点でしかないんだな。点から点へ渡っていくのが観光というものか。
柄にもなくそんなことを思いながら窓に映る景色を眺めていると、隣から「ンンンっ」と声がして、フーと息をつく気配があった。円はもうそんなことでわざわざ目を向けることもなくなったが、もちろん省吾の車内筋トレである。
省吾はその時自分の限界に挑戦し、記録を塗り替えたところだった。しかし誰もそのことに気づかない。かつては省吾のそのストイックさを褒め称えた弥幸も、相容れない異質なものとして冷ややかな視線を浴びせた凛子も、もう関心を持つことはなかった。それはすでに日常であった。車内では省吾の筋トレとともに穏やかな時間が流れていった。
結局円はいつしか眠りに落ちていた。気がつくと車が停車していた。
「神谷さん、着きましたよ」
その声を聞いて、周囲を確認すると目の前に普通の、というには少し古いデザインの家が見えた。古民家とまではいかないが、昭和に建てられたという感じの平屋の家。
時間を確認すると午後2時を回ったところだった。車を降りると強烈な日差しが降り注ぐ。田舎だから少しは涼しいかと思っていたが、別にそんなことはないらしい。おいおい、この家エアコンとかあるんだろうな、と心配になった。
見ると弥幸が家の玄関の鍵を開けている。事前に預かってきたのだろう。円はその後ろに陣取って、扉がガラガラと開くのと同時に、首を伸ばして中の様子を覗き込んだ。
古い家の匂いがする。室内の空気は案外涼しく感じられた。広めの玄関にはなにもない。そこから見渡せる薄暗い廊下にも人の気配はなかった。完全な空き家だった。
「一応ライフラインは使えるようにしてもらってるから安心していいよ」弥幸が振り返って言った。「家電とかはあんまり残ってないと思うけど、エアコンはあるって言ってた。壊れてなければだけど」
それを聞いてホッとした円。風呂も問題なさそうだ。また凛子と銭湯というのも芸がない。
「じゃあ荷物運んで、家の探検がてら軽くお掃除でもしようか。例の庭の様子も確認しないとね」
弥幸の号令に従って全員が動き出す。円は掃除は面倒だったが、好奇心に駆られて意外なほどキビキビ動いた。




