第7話―2 コリンちゃんの怖い話
それはたいして長くはなく、弥幸のもったいぶった語り口でもすぐに話し終わった。それにしても、と円は考える。これは自分がやった儀式と関係があるのだろうか?やはり人形の名前がマズかったか⋯⋯
「英依先輩から電話があって、それでそのオバケが消えちゃったんだよね?」円は凛子に尋ねた。「その時先輩なんか言ってなかった」
凛子は円の質問の意図をしばらく考えているようだったが、結局なにも思いつかず渋々答えた。
「はなえ先輩になんだったのか聞いたけど、わからなくていいって⋯⋯」
ヤベえ、そんなのわかってる人の答えじゃねえか。円は焦った。もしかしたら英依は自分の軽率な行動は全部お見通しで、怒ってたりするかもしれない。先日彼女が凛子をかわいがっている様子を目にしたばかりだ。
「あのぅ、今日って英依先輩は⋯⋯」円はおそるおそる弥幸に聞いてみる。
「あ、英依さん?英依さんは行けたら行くって言ってたよ」弥幸は快活に答えた。
それを聞いて円はホッと胸をなでおろした。よかった、来ない時の返事だ。この答えでちゃんと来る人類は存在しない。とりあえず今日は大丈夫だろう。
「でも不思議だよね、普段家でそういう変なこととかってなかったわけでしょ?」弥幸が凛子に話しかけた。
「ホントそれなんですよ〜」そう言うと凛子は上体を机に突っ伏し、顔だけ弥幸に向ける。上目遣いでのアピールを忘れない。「最近家にいる時もなんだか落ち着かないんですから〜」
「それは困ったね。英依さんに頼んでお祓いでもしてもらったらいいかもね」
「それがはなえ先輩、もう大丈夫だって、そればっかり。わたし怖いから、最近毎晩はなえ先輩に見守ってもらいながら寝てるんですよぉ」
おいおい、そのシチュエーションの方が怖いだろ、なんでコイツは平気なんだよ、と円は思ったが、なにも言わなかった。いまは自分に火の粉がかからないようおとなしくしておくべきだ。
「まあ英依さんが大丈夫って言うんだから大丈夫なんだろうね」弥幸はそう自分で納得した。「でも神谷さんが降霊術やってるのに、そっちには行かないでコリンちゃんの方に出るなんてね。ほとんど同じ時間だよね?」
「私のは夜中の3時半過ぎでした」と凛子。
「ああ、はい、私もルールに則って3時から始めたんで⋯⋯」円は言いたくなかったが言わないわけにはいかない。どうせ弥幸なら時間のことも知っているだろう。
「ふ~ん、じゃああれかな?神谷さんが呼び出して、コリンちゃんが体験した、みたいな。ふたりの共同作業的な?」
ニコニコ笑顔でそんなことを言う弥幸を、円と凛子は驚きとともに見つめた。お前それでふたりの仲が深まりましたって、そんなわけねえだろ、と円は心でツッコんだ。凛子は心底嫌そうに円をチラッと見て、すぐに目を逸らす。
さすがの凛子もこの話にはノれなかったのだろう、話を省吾に向けた。
「その、ひとりかくれんぼだっけ、やってる時って省吾くんはなにもしなかったの?ボディガードなんでしょ」
「はい、私は神谷さんの実況を聞いていただけでした」省吾は素直に答える。
「へ〜実況なんてやったんだ〜LINEで?」凛子はからかうような調子。「なに?円ちゃん、やっぱ省吾くんいないと不安だったとか?」
「いや、そんなんじゃねえわ」円はムスッとして抗弁した。「有明くんが自分も参加したいって言うからそういう形にしただけだよ」
「ホントは怖かったんじゃないの〜?」
「別に怖くねえわ。もう何回目だと思ってんだよ。これくらい余裕だよ」円は必死に言い返すが、その様子が凛子を喜ばせていた。
「私は怖かったです」省吾がボソッと感想を漏らした。「なにもできない無力な自分に耐えられなくて、つい家を飛び出してしまいました」
ちょ、おま、それ言うんじゃねえよ、と円は慌てたものの、もう遅い。凛子は即座に喰いついた。
「えっ、なに、それで飛び出してどこ行ったの?」
「神谷さんの家まで⋯⋯」省吾は正直に答えた。
「ホントに?やだぁ、ちょっと円ちゃんすごくない?もう王子さまじゃん」凛子は大はしゃぎで囃し立てる。「それで、それで、家に行ってどうしたの?」
省吾が質問に答えている隣で、円はうつむき、クソがッと小声で毒づいていた。この手のやり取りに耐性のない円にとって非常に居づらい状況だった。凛子はそんな弱点をわかっていてつついてくる。円はどうにか流れを変えるなにかが訪れることを願った。
その時、部室の扉が叩かれたのだった。




