第6話―5 カメラを借りていく
そのままミーティングはなんだか尻すぼみになり、ただダラダラと時間が過ぎた。いまや凛子が上級生ふたりに甘え、甘やかされる場と化していた。
弥幸に甘えるのはいつものことだが、なぜ凛子はあの英依にああも懐けるのだろうか?円は不思議に思いながらその光景を眺めていた。英依はまるでペットでも愛でるように凛子をかわいがり、凛子もそれをなんの抵抗もなく受け入れている。
こういう時間も意外と悪くないが、さすがにここらが潮時だな、と円は思った。長居しすぎてこのあと遊びに行こうなんてことにでもなったら消耗が激しすぎる。そこで時間を確認するようにスマホを見たあと「あっ、私はそろそろ⋯⋯」と言いながら腰を上げた。
「なにか用事?」と弥幸が尋ねるのに曖昧に頷いて、円は帰りの身支度をする。特になにかがあるわけでもなく、帰るために準備することもないのだが、演出としてそう見せた。途中で抜け出すのだから自然に振る舞わなければ。
「それであのぅ、カメラの方を⋯⋯」円は今日の目的を達成するために、おずおずと弥幸に頼んだ。
「ああ、そうそう、カメラを持っていってもらわないとね」弥幸は立ち上がって自分の足元の荷物を机の上に持ち上げた。
円は先日定点カメラに使っていた小さめなカメラを1台貸してもらえればそれでよかったのだ。自宅なのでポータブル電源の類も必要ないし、荷物はコンパクトに収まるだろうと。ところが弥幸はたくさんのケースを並べだした。たしかそれはキャンプに持っていったすべてではなかっただろうか。
「⋯⋯先輩、あの、それは⋯⋯?」円は腋の下に嫌な汗をかきながら一応尋ねてみた。
「うん、カメラ」弥幸は平然と答える。「ほらなんか撮影するって話だったからさ、何台要るかわからなかったから全部持ってきたよ。どうする?いくつ要る?」
やはりコイツもイカれてやがる !? 円は戦慄していた。普段常識人の顔をしているくせに、端々でヤベえやつの片鱗が漏れ出てくるのなんなんだ。さすがは超常現象研究会の会長である。並じゃねえ。
「いや、ほんのお遊びみたいなもんなんで、小さいのひとつあればと⋯⋯」
「あ、そう?」弥幸は少しがっかりしたような顔をした。
すると黙っていないのは凛子で、円に向かって牙を剥いてくる。
「あんたねえ、せっかくみゆき先輩が用意してくれたんだから、ちゃんと持っていきなさいよ」
「いや、今日原付だからさすがに持ってけねえわ」円はこう弁解し、もうさっさと逃げ出してしまおうと思った。「あっ、先輩、それじゃこの前テントの前に設置したやつを1台お願いします」
「ああ、じゃあこれね」弥幸は快く渡してくれる。「使い方とかは⋯⋯」
「それは大丈夫です。わからなかったらネットで調べるか、また連絡します」そう言いながらスマホを見て、いかにも時間がないというポーズを取る。「あっ、それじゃ、私はこのへんで⋯⋯」
出口へ向かう円に凛子はまだなにか言っているが、もう無視することにした。
「じゃあ合宿の件とかなにか決まったら連絡するね」そんな弥幸の言葉に頷き、英依に軽くお辞儀をすると、円は部室をあとにした。
円がサークル棟を出て駐輪場へ向かって歩いていると後ろから呼び止められた。追いかけてきた省吾だった。荷物を持っているので彼も帰ることにしたのだろう。
「あ、有明くんも帰るの?」円は特に思うところもなくそう声をかけた。
「はい」省吾はいつも通りシンプルに返事をしたが、そのあとなにか言いたそうにしている。
「なに?どうしたの?」円はそれに気がついて発言を促してやった。
「実は⋯⋯神谷さんがやる "ひとりかくれんぼ" でしたか、それが少し気になってしまって⋯⋯」
「ああ、もしかして心配してる?」円は茶化すように言った。「大丈夫だって、私もう何回もやってるんだから」
「でも、今回なにかが起こると思ってするんですよね?本当にそうなった時危険なのでは?」
たしかにそれはそうなのだが、円自身それほど深刻に捉えてはいない。これまで数多くの体験談を読んできたが、やはり空振りで終わることがほとんどなのだ。なにか起こることを期待はしている。だが決定的ななにかが起こるとは思っていなかった。
「そんな怖がるほどのもんでもないんだけどなあ⋯⋯」円はそう言って省吾の顔を見た。
そこには真剣に円を気遣う想いが窺えた。さすがの円でもこれを無下にするのは気が咎めた。
「あ、それじゃあさLINE交換しようよ。それでさ⋯⋯あっそうだ家にWi-Fiある?」円は省吾が肯定するのを確認すると話を続けた。「私がひとりかくれんぼやる時に有明くんに実況してあげるよ」
「実況ですか?」省吾は要領を得ないといった表情。
「そう、実況。話しながらやれば私も気が紛れるしさ、それでなにか起こりそうだったら助けに来てよ」
助けに来いとはかなり無茶な話なのだが、省吾はこれを承諾してしまった。まだその状況をよく理解できてはいない。しかし彼はボディガードとして役割を与えられて満足していた。




