第6話―3 ひとりかくれんぼ
「そんなたいしたあれじゃないんですけど」円はみんなの視線を感じながら話した。舞いあがるなと自分を戒める。「来週末ひとりで、その⋯⋯実家の留守番をすることになったので、やっちゃおうかなあって⋯⋯ひとりかくれんぼ⋯⋯」
「ああ、ひとりかくれんぼかぁ!いいね、面白そう」弥幸はさすがに理解が早い。説明を省けるのが円にはありがたかった。
「ひとりかくれんぼってなんですか?」省吾が尋ねる。
どう説明しようか、円は頭を悩ます。普通でも難しいのに、空手バカに伝わるような説明なんてできないぞ。そんな円の想いが伝わったのか、弥幸が引き取ってくれた。
「ひとりかくれんぼというのはね、ほら、この前やったコックリさんみたいな降霊術の一種とされているね。深夜にひとりで行うんだけどね、ヌイグルミみたいなお人形を用意して、そこにあれこれ細工してね、それを水に沈めるの。お風呂場とかで。それでそのお人形は隠れる役でさ、自分は一旦離れて鬼の役になる。呪文みたいなのを唱えて、それから探しにいくんだね。それで人形を見つけたら刃物でブスリと刺すんだ」
省吾はわかったようなわからないような、どちらとも取れる曖昧な表情をしている。一方凛子は「ブスリ」のくだりで微かに身を震わせた。円はそれを見逃さず、ニヤリと笑った。円の様子に気づいた凛子は青かった顔を赤くして、プイと横を向いた。
「それからね、次はお前が鬼だって言い聞かせてさ、今度は自分がどこかに隠れるのね。それで隠れている間にさ、なにかおかしな事が起こる⋯⋯らしいよ」
「幽霊が出るということですか?」省吾がさらに尋ねる。
「うん、まあいろいろ体験談はあるんだ。もともとがネット掲示板発祥の儀式だからね、いろんな人が自分でやってみて、それを実況するんだね。それで人形が動いてたとか、誰もいないのに足音がしたとか、そんなことを書き込んだわけ」
「危ないことはないんでしょうか?」
「どうだろね」と円が答える。「前にも何回かやったんだけど、その時はなにも起こらなかったよ」
「なんでそんなのまたやろうと思ったのよ?おかしいんじゃないの?」凛子が先ほどの逆襲のつもりか、雑に嫌味なことを言う。
「いや、ほら、私いま引きがいいじゃん。いろいろオバケ見てきたしさ。いまやればなにか起こるかなあって⋯⋯」円は言いながらひとつアイデアを思いついた。「そうだ!人形の名前コリンにしよう。そしたら絶対なにか起こるでしょ」
「ちょっとっ!やめてよね」凛子は本気の拒否反応を示した。顔が青く染まり、表情が歪む。
おいおいそんな顔を弥幸に見せてもいいのかよ、と円はニヤニヤ笑った。しかし凛子を怖がらせるために言ったことだが、意外といい考えかもしれない。どうも霊媒体質であるらしい凛子の名を与えれば、さらなる効果が期待できそうだ。
「それってひとりでやるんですよね?」省吾が円に向かって問いかけた。
「うん?まあそうだけど」
「その間、私はなにをしていればいいんでしょうか?」省吾は真剣な目で円を見つめた。
「えっ、あ、いやこれは私個人の遊びっていうか、ほら、たいしたことじゃないからさ」円はなぜかドギマギしながらそう弁解する。
「プッ」凛子が吹き出した。「いいじゃん、省吾くんも円ちゃんちにお泊りしちゃえばさあ。ボディガードだもんね」
「お、おま、そういうわけにはいかないだろ」円は慌てて言い返す。頭に血がのぼって、耳が熱くなった。
「なんでよ〜?なにかあった時に省吾くんいなかったら困るでしょ〜」凛子はここが攻め時だと見てしつこく絡んでくる。
「どうしましょう?」と省吾はガールズトークの意味を解することなく聞いてきた。
「いや、いい、大丈夫だから、ほんのお遊びだから、ねっ」円は手を大きく振りながら懸命に断った。
その時、ノック音がした。返事を待つまでもなくドアが開かれ、芦原英依がヌッとその顔を突き出した。




