第6話―2 久々のオカ研部室
楽しみを得て残りの2日間、元気ハツラツ仕事を頑張れた、なんてことはぜんぜんなかった。世の中そんなに甘くはない。翌日の午前中には既にゲッソリしていたし、その次の日はもう、辛くて辛くて、逃げ出してしまいたいと思っていた。
それでもなんとか乗り切って、バイトが終わった翌日の昼過ぎ、原付で意気揚々と大学へ向かう。円のスケジュールに合わせてオカ研のミーティングをセッティングしてくれたらしい。誰が来てるかはわからないが、まあ少なくともギャルはいるだろう。ちょっと面倒だが、この際あいつでもいいかという気になっていた。とにかく知っている人間と付き合いたかった。
しかし部室の前までやってきて、円はまたも躊躇した。思えばひとりでここを訪れたことは一度もない。ノックするのがなんか緊張する。それでも人恋しい気持ちが勝った。必要以上に力を込めてドアを叩いた。
その殴り込みのような勢いのノックにも「は〜い、どうぞ〜」と柔和な声が返ってくる。扉を開けるとそこには三浦弥幸と和道凛子の姿があった。
「あんたノックうるさすぎでしょ」凛子がすかさず苦情を言う。
まずは挨拶だろうがッと内心で毒づきながら、弥幸に会釈していつもの席に着いた。弥幸はすぐにお茶の準備をしている。
「あとは有明くんと、英依さん⋯⋯は遅れてくるって言ってたから、有明くん来たら始めちゃおうか」弥幸は細々と動きながら言った。
「えっ、有明くんも来るんですか !? 」円の声のトーンが自然と上がる。「どうやって連絡したんです?」
「そりゃあスマホでだけど⋯⋯」弥幸はなんでもないことのように言った。当たり前だ、なんでもないことである。
「あいつスマホ持ってたのか⋯⋯」円はボソッと呟く。
「そりゃそうでしょ」凛子が口を挟んだ。「まあ気持ちはわからないでもないけど」
などと話しているとドアが叩かれる。弥幸の返事を受けて「失礼します」と言って有明省吾が入ってきた。円の視線に気がつくと表情は変わらないが、軽く頷いて隣の椅子に腰を下ろした。
せっせと省吾用のお茶を用意し、すべての準備を整えてから弥幸がミーティングの口火を切った。
「じゃあさ、さっそくこの前の、と行きたいとこだけど、それは英依さんが来てからやりたいね。映像見てもらってるからね。彼女の感想が楽しみだよ」
なら始めようがないじゃないかと円は思ったが、口には出さない。
「じゃあなんの話をするんですか〜?」凛子が円の思いにも合致した問いを発する。「合宿の話とか〜?」
「ああ、そうそう、合宿行こうって話してたね。あれは叔母さんに頼んであるよ。あの人、けっこう顔が広いから」
「MAYOI先生の関係でですか?」円が俄然食いついた。
「うん、ちょっとね、面白そうな物件っていうか、あるんだってさ。そこに泊まりで取材しないかって話があるらしくって⋯⋯」
「事故物件的な?」円がさらに問い詰める。こりゃあ面白くなってきた。
「うん、そんな感じらしいよ。僕ひとりで撮影に行ってもいいんだけど、みんなで行ったら楽しそうじゃない?」弥幸はネッと凛子に向かって同意を求める。それに青い顔をして苦笑いを浮かべる凛子。
「危なくはないんでしょうか?」省吾が慎重に尋ねた。
「ああ、うん、いまのところそこに泊まって呪われたとか、そういう話はないらしいよ」弥幸はそう言って、イタズラっぽい笑みを見せた。「ただね、そこに泊まったら必ずなにかを見るんだって⋯⋯」
「必ずって、必ずですか?」円は興奮していた。やはりこの先輩はいい話を持ってくる。
「100%だって。いいよね、もしかしたら僕も初めてこの目でオバケを見られるかもかも」
いや、それはないなと円は思った。しかしこの話はかなりノれる。事故物件にもいつかは行ってみたいと思っていた。進学してアパートを探す時、それも条件に入れていたくらいだ。残念ながら大学付近で手ごろな事故物件が見つからず断念することとなったが。
「まあ、この話はまだどうなるかわからないからね。行けそうなら連絡するよ」そう言って弥幸は話題を変えた。「それより神谷さん、来週なにかするんだって?詳しく聞かせてよ」
弥幸の言葉で全員の目が円に向けられた。人に注目されることに慣れていない円は、少しドギマギしながらとつとつと話しだした。




