第6話―1 母からの電話
「あんた来週どうするの?」
神谷円は母親の問いかけの意味がまったく理解できなかった。来週ってなんだ?なにか特別なことでもあっただろうか。自分は来週もまだ夏休みだが、学生でもない母にそんなことは関係ないだろうし⋯⋯
「あんた忘れてたでしょう?」黙り込んだ円に母は話を続ける。「来週はカナちゃんの結婚式があるって言っといたじゃない」
ああ、そういえばそんな話をずっと前に聞いたような気がする。しかしいとこの加奈子姉さんとは歳も離れていて、さほど付き合いもない。自分は出席しないと伝えておいたはずだ。
「それなら行かないって言っといたよね」円は少し不機嫌にそう言った。
「そりゃ行かないって向こうにも言ってあるわよ。そうじゃなくて、あんた行かないならハムちゃんたちのお世話お願いって言っといたじゃない」
「ああ⋯⋯」そういえばそんな話をしたような気がする。両親が手塩にかけて面倒を見ている3匹のハムスターたち。円には一切懐かないそいつらに思い入れはまったくなかった。
(チッ、面倒くせえなあ)円は思ったが、来週の予定は別に埋まっていない。断って母親と揉めるよりは、ここらでゴマをすっておいた方がいいだろう。
「土日だったっけ?いいよ、その日は帰るよ」
「ああ、それならよかった。土曜日の朝には出るからね、頼むよ」
「わかったわかった、なら昼頃までには帰るようにするから」
通話を切ると円は「LINEしろよ、面倒くせえ」と悪態をついてスマホをベッドに投げ出し、そのまま自分も寝転がった。
ここ数日、円はやさぐれていた。
廃村探索から1週間が過ぎていた。円はその間オカ研には顔を出さず、短期バイトに勤しんでいた。学期中も単発でたまにやっていたのだが、夏休みということで立て続けに入れてしまった。
倉庫内の軽作業。指示に従って商品をピッキングし、梱包する。あまり人と関わることなく黙々と作業できるので、円にはピッタリの仕事だったが、それでもわずかながらある他人との接触がストレスだった。とことん自分は社会不適合者なのだと自覚させられた。
「あー面倒くせえ」円はひとり呟いた。
とはいえ自分で選んだことだった。キャンプで(円としては)濃密に人と関わった反動で、その後のオカ研の集まりに出るのが億劫だったのだ。それでバイトがあるからと言い訳した。言い訳なんだからバカ正直にバイトしなくてもいいのだが、ちょうどよさそうなのをたまたま見つけてしまってつい登録してしまった。
この短期バイトはあと2日続く。それをなんとか乗り切ってしまえば⋯⋯なにがあるだろう?そういえばなにも予定はないのだ。円はなんだか物足りないような気がした。大学に入って最初の夏休みがこんなことでいいのだろうか?
また心霊スポットにでも行くか。あの空手バカでも誘って⋯⋯ああ、ダメだ、あいつの連絡先知らないや。円はそのことにもいま気がついた。なんとなく待ち合わせだけで事足りていたため、必要を覚えなかった。
「あー、どうすっかなあ」円はまたもひとり呟いた。来週末の帰省までなにもないのか⋯⋯楽しいことねえなあ。円はこれまでのあれこれを思い出す。あの楽しかったオカルトライフを。実家かあ⋯⋯
その時、円の脳裏にあるアイデアが浮かんだ。そうだ、久しぶりにアレをやろう。これだけオカルト経験を積んだいまの自分なら、なにか違うことが起こるかもしれない。ついでに撮影もガッツリやろう。どうせひとりだ、なんの気兼ねもなく機材を設置できる。
そうとなったらオカ研だな。カメラを借りられるか確認しよう。円はいそいそとメッセージを送る。しばらくするとすぐに返信があった。
「さすが先輩、フットワークが軽い」円はよしッ!と意識しないまま小さくガッツポーズをした。
バイトが終わったら部室に顔を出す。円は気がついていないが、その予定ができて気持ちが楽になっていた。明日に備えてさっさと寝よう、と前向きな気持ちのままその日は眠りについた。




