第5話―19 またまた神社へ
鳥居の前に立った円は今度はためらうことなく最初の一歩を踏み出した。蹴上の低い階段を一段飛ばしでずんずん進んでいく。夜中、鳥居の前でオロオロしていた円とはまったく別人のようだった。
その後ろに省吾が続き、最後尾で弥幸がカメラを構えながら慎重な足取りで歩みを進める。たいして長くはない階段の頂上近くまで、駆けあがるようにして一気に上ったところで、急に円が立ち止まった。
その時、円の視界には神社の境内と、そこで尻を直接地面につけて座り込んでいる凛子の後ろ姿が見えていた。意外とあっさり見つかったことに安堵する一方で、円はその尋常ならざる気配を感じ取った。
呼吸ひとつするのも無意識ではいられない、重い空気。身体全体にまとわりつくそれは、これまで幾度か体験してきたものと同質のように思われた。この世とあの世の端境の、明らかにこちらの接近を阻もうとするかのような、強烈な意思を持った空間。昨日までそこにあった、場の清浄さのようなものは一切感じられなかった。
それでも、円は意を決して残りの数段を跳びあがるように登りきった。境内に侵入すると、自分が異物として扱われていることが肌にヒリヒリと感じられる。そこまでくると凛子がただそこに座っているだけではないことも理解できた。薄くて黒いモヤのようなものが凛子の肉体を幾重にも取り巻いている。
「なんかいますね」いつの間にか隣に立っていた省吾がそう口にした。
「見えるよね?なんか黒いの」円は視線は凛子へ向けたまま、省吾に問いかける。
「はい」省吾は静かにそう答えたあと、前に出た。
「ちょっとちょっと、どうする気?」円は慌てて制止する。
「とりあえず凛⋯⋯コリンさんを連れてこようかと」省吾は特に気負うこともなくサラリとそう言った。
「いや、それはどうだろう」円は考えながら言った。「連れてくればそれでおしまいっていう、そんな簡単な話でもないような気がする。いまのコリンって、なんていうか、あそこにいるけどいないような気がしない?」
後ろで撮影している弥幸が口を挟んだ。
「ふたりにはどう見えてるの?僕はまたなにも見えないんだけど。でもカメラには変なの映っているみたいだよ」そう言ってカメラの画像を見るように促す。
集まって確認すると、黒いモヤモヤとした帯のようなものが、凛子の身体を縛りつけるようにして何周もしている様子が映っていた。
「さすがにこれをチョップで一刀両断みたいなのは無理でしょ」と円。
省吾は難しい顔で画面を見つめていたが、自信があるという感じではなかった。それでも「やってみましょうか?」と聞いてくる。
「う〜ん、それは最後の手段で」
円は博打はまだ早いと考えた。とりあえずこの空間は円たちを拒むようではあっても、積極的に排除しようとはしないらしい。廃ホテルの時の精神攻撃みたいなこともなかった。ならこちらも強硬手段に出るべきではないだろう。
「じゃあさ、とりあえず私が接触してみるよ」円はそう宣言した。
「えっ、それは⋯⋯大丈夫?危なくない?」弥幸が心配そうに問いかける。
「でも、このままでは埒が明かないんで」円は言ってから省吾を見た。「有明くん、私がなんか変になったら遠慮なくぶっ飛ばしてくれていいからね」
「いや、しかし⋯⋯」省吾は困惑の表情を浮かべる。
それには構わず円は「頼むね」と念を押し、凛子との距離を縮めていった。




