第5話―14 例の神社
その後、すぐ近くの民家を数軒見て回った。どれもたいしたものは残っていなかったが、往時を思わせる痕跡があった。昔の雑誌や新聞、食器類、園芸用のスコップやジョウロなど、住んでいた人の暮らしぶりが想像された。
ある家では日当たりの良い縁側に座椅子が一台、まるでついさっきまでそこに人がいたかのように出しっぱなしになっていた。その光景のなんとも言えない寂しさをフレームに収めようと、柄にもなく円は撮影の角度などをあれこれ工夫した。
「それじゃあそろそろ行ってみる?」ひと通り見て回った後、弥幸が目で方向を示しながら言った。
それはもちろん、最後に取っておいた例の神社を指している。いよいよ向かうのかと円は気を引き締めた。
あれはメインだからとここまで引き伸ばしてきたのは、半分はそのままの気持ちだろうが、もう半分はやはり不安があったのだ。英依の不吉な忠告は全員の耳に残っている。まだ日があるとはいえ緊張感があった。
校門の前の道沿いを流れる小さな川。そこにかかった短い橋を渡るとすぐに鳥居がある。昔はもっとはっきり赤かったのだろうが、もう塗装はだいぶ剥げ落ちて白っぽく変色していた。
そこからつながる階段は一段一段の踏面が狭く、蹴上も低い。手すりもないので少し心許なかった。凛子などはキャーキャー黄色い声をあげながら上っていた。時折弥幸にしがみついている。カメラ片手の弥幸は大変そうだ。
階段はそれほど長くなく、すぐに神社の境内に到着した。敷地は狭い。分校の校庭と同じで、一面雑草や苔、落ち葉などに覆われていた。周囲から木々が覆いかぶさってきて、日光を遮っている。村に入ってからずっと、街なかよりも過ごしやすく感じていたが、この場所はとりわけ涼しかった。
植物と苔に覆われ緑に染まった小さな手水舎があり、これまた緑色の笠を持つ灯籠が2基。そしてそれらの先にこじんまりとした本殿が見えた。崩れたりはしていないが、長い間人の手が入っていないことが明らかな見た目をしている。
「とりあえずご挨拶を」と言って弥幸が姿勢を正す。
賽銭箱はないので扉の前に直接、数枚の小銭を置いた。上に鈴はあるが紐がなくなっているのでそれは省略して、基本の作法通り二拝二拍手一拝。他の者もそれに倣って参拝した。
円はその時、形だけで、なにかを祈るということはしなかったが、最後顔を上げる直前、首筋を風に撫でられたような気がした。
「本当なら境内のお掃除でもしていきたいところだけどね、それやっちゃうとこの雰囲気が台無しになっちゃうからね」弥幸がにこやかに笑いながら言った。
「これはまた⋯⋯すごくいいですよね」省吾が思わずという風に感想を漏らす。このまま本格的な廃墟マニアにでもなってしまいそうな勢いだ。
「最高だよね」弥幸が同意する。「このほどよい寂れ具合。鬱蒼と生い茂る木々。そこから差し込む一筋の日の光に照らされた本殿。これはね、いまこの瞬間だけの光景だよ。まさに一期一会」
円は弥幸の風景描写を聞きながら、辺りを見渡した。スマホで撮影しているが、この空気感は映像に残せないなと思った。こういうのはよっぽど専門家でもない限り難しいだろう。昨日今日始めたばかりの円には無理な話だった。
それにしても――
「ぜんぜん怪しい雰囲気はしないなあ」円は誰に言うでもなく、ボソッと呟いた。
「たしかにね」耳聡い弥幸が相槌を打つ。「むしろ神々しさみたいなものを感じるよね。自然と融合してるっていうか」
いやお前はなにかあったとしても感じ取れねえだろ、と円は内心でツッコみつつ、言ってることには同意した。この場所からはどこか清浄さを感じる。英依の言う通り、悪いものではないのだろうと思われた。
目の端で凛子の様子も確認する。少し退屈しているような仕草が見られるだけで、いつも通りの凛子だった。
案外なにもないまま終わるかもな、とホッとしつつ、円は少し物足りない気持ちを覚えていた。




